第531話 行きはよいよい帰りも楽ちん

 夜。アズールさんのお願いはセスたちに任せて、俺たちは島の北側の探索に専念。

 転移のクールタイムが長いので、いろいろと考えた結果、まずは自分たちの足で行けるところまで行くことにした。


「準備おっけー?」


「はぃ」


 今日のメンバーは、俺、ルピ、レダ、ロイ、パーン、リゲルのパーティと、スウィー、ミオン、シャル、ラケ、アト、ラズのパーティのアライアンス。

 昼にガジュたちにご馳走したカレーを食べて、ちょっと食休みしてからいざ出発。


「ブルル♪」


 リゲルにミオンと二人乗りし、前回到達した草原のところまで小一時間ほど。

 ちょっと急ぎ足ぐらいのペース、シェンネペンテスの場所はスルーして、午後9時前に到着できた。


「じゃ、ちょっと見てくるよ」


「はぃ。気をつけてくださいね」


 ミオンたちのパーティは今回も森と草原の境目を散策してもらい、植物や花なんかを探すそうだ。

 で、俺たちは草原の中程から向こうまで行ければなと。


「ミオンのこと頼んだよ」


「〜〜〜♪」「ニャ!」「「ゥゥ」」「クルル〜」


 ミオンの代わりにパーンと二人乗りし、ルピたちの先導で草原へと駆け出す。

 結構なスピードで走ってるんだけど、パーンは全然平気っぽい。

 やっぱり、バランス感覚がいいからかなあ。


「ワフ!」


 小高い丘の上でルピたちが止まったので、追いついたところでいったんストップ。

 広がる草原の遠くを眺めると、


「いるな」


 前にも見た牛っぽい生き物が3頭、のんびりと草を喰んでいる。

 駆け寄ったら驚かせちゃうだろうし、どうしたもんだかなあと思ってると……


「リュリュ」


「え? 大丈夫?」


「リュ〜」


 パーンがゆっくり近づいて欲しいとのことなので、ルピたちにもそれを伝え、リゲルも並足で穏やかに近づいていく。

 牛たちまであと10mほどというところで、白いネームプレートに【アンバーナウト】という名前が見えた。


「リュ」


「えっ?」


 リゲルから飛び降りたパーンが、気安い感じで近づいていく。

 あと5mぐらいのところでパーンの方を向いて、


「モ〜」


 特に怖がる様子もなく、のんびりと一鳴きした。

 それに応えるように、パーンがさらに近づいて声をかけた。


「リュ。リュリュ〜」


 ……会話できてるのかな?

 アンバーナウトが集まってきて、パーンのアピールを聞いてるっぽい。


「ンモ〜」「「モゥ〜」」


「リュリュ〜♪」


 振り向いたパーンが呼んでるっぽいので、リゲルから降りて、みんなでゆっくりと近づく。うん、怖がられてる様子もなさそう。


【アンバーナウト】

『草原に生息する草食動物。

 非常におとなしい性格で家畜化されていた時期もあるが、現在は野生のものしか存在しない希少種。

 畜産:飼育可能。肉、乳は食材として利用可能』


 この島って希少種しかいない気がするんだけど……


「リュリュ」


「え? 飼いたいって……。もちろんオッケーなんだけど、いいのかな?」


「リュ〜」


「「「モ〜」」」


 牛たちもいいらしい。

 ただ、場所の問題があるんだよな。

 馬小屋も狭くなってきたし、屋敷の近くに厩舎を作った方がいい気がしてきた。


「ワフ?」


「あ、そうだね。いったん戻ろうか」


 ざっと見渡す限り、他に動物はいなさそうだし、いったんミオンたちのところまで。

 アンバーナウトたちも、見かけによらない速度で走ってくれた。


「ぁ、ショウ君! え?」


「ミオン。この子たち、連れて帰るよ」


「は、はぃ……」


 連れてきたアンバーナウトに驚いてる様子。いや、まあ、驚くよな。

 パーンが説得(?)してくれたことを話し、納得してくれたんだけど、


「ショウ君。この子たちも一緒に転移で帰るんですか? すごくMPを使いそうですけど……」


「うん。それなんだけど……これ」


「ぇ?」


 インベントリから取り出した転移魔法陣を地面に置く。

 山小屋の1階にあったやつを、スウィーのオッケーをもらって、昼の帰りに回収してきた。

 収納拡張をしていても、インベントリを大きく占有してるけど、これを使えば屋敷に一瞬で戻れるので。


「これでアンバーナウトたちを先に屋敷まで連れて行ってもらうよ。パーン、シャル、お願いしていい?」


「リュ〜」「ニャ!」


 2人にお願いしてる間にミオンに説明を。

 行けるところまで行った後、これを使ってみんなは先に帰ってもらう。で、俺が最後に回収して転移で帰宅っていう流れ。


「なるほどです!」


「いや、考えたのはセスなんだけどね」


 夕飯の時に例の転移魔法陣の個体番号やら空間の固有識別番号の話をしたし、転移や転送、召喚の運用方法について相談して、この方法を教わった。

 でも、この使い方って運営が想定してたのかな?


「グリッチというわけでもなかろうて。転移魔法陣が完全固定ではなく、解除できる時点で想定内であろう」


 セスがそう言ってたから大丈夫だとは思うけど。

 そんな話をしてるうちに、シャルとパーンが戻ってきた。


「ニャ!」


「リュリュ?」


「うん。当面はそれでいいよ」


 教会裏の馬小屋にはもうスペースがないので、古代遺跡につながる洞窟を寝床にするとのこと。

 もう任せちゃってるし、パーンの方がずっと詳しいし、厩舎を建てるまでは全然いいと思う。


「じゃ、またちょっと行くかな。転移魔法陣はそのまま置いといて」


「はぃ」


 パーンを馬上に引き上げると、牛たちから聞いた話を教えてくれる。


「リュリュ〜」


「なんか、モンスターの牛もいるって話だから、そいつを探してみるよ」


「気をつけてくださいね」


 まあ、リゲル、ルピ、レダ、ロイなら、危なくなったら逃げ切れるよな。

 ……ミオンのところに引いてこないようにしないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る