碧落一洗
木曜日
第530話 転移魔法陣の脆弱性?
「ジュジュ〜♪」
「やあ、ガジュ。今日はお客さんを連れてきたんだ」
白竜姫様とエルさんが南の島に来るのは初めてかな。
ガジュたちがうちの島に遊びに来た時に顔合わせは終わってるので、そこは心配しなくていいし、ミオンとエルさんがついてるので安心して任せられる。
「じゃ、俺たちはちょっと行ってくるよ」
「はぃ」
なんで、ミオンたちに任せて、俺とルピとガジュは里の入り口へと。
エメラルディアさんの件で、アズールさんがこっちに来ると聞いたので、それを迎えに行くだけだけど。
「あ、ショウ君」
「どもっす。わざわざすいません」
「それはこっちのセリフだよ。エメラルディアのせいなんだしー」
里の入り口に着く前に、アズールさんと合流。
そのまま神樹のところまで戻ってきた。
「アズール様」
「姫様の調子はどう?」
「今までよりも格段に良くなりました」
そうなんだ。俺はこっちに来る前の白竜姫様がどうだったか知らないからなあ。
で、今日、アズールさんが来たのは、
「こちらが姫からエメラルディア様へのお手紙になります」
「オッケー」
俺たちがログアウトしてる間に白竜姫様が覚醒し、エメラルディアさんの話を聞いて手紙を書いたらしい。
で、それをアズールさんから情報をあげてくれた人を経由で渡してもらうことになった。
ちなみに、中身は竜語で書かれているので、万一があっても読めないから大丈夫だし、
「中身は姫の近況報告だ」
「あ、エルさんは読めるんですね」
「ああ、姫のお付きも長いのでな」
ミオンがその話を聞いて、竜語を学びたいって話になったりした。
俺は……ミオンに任せればいいかなと。
「手紙の中身ってエルは知ってるんだよね?」
「はい。お二人にも話してあります」
エルさん曰く、今は竜の都じゃなくて俺の島に来てることや、美味しいものを食べて体調が良くなったこととかを書いてあるとのこと。
「オッケー。それだけ伝えればいいよね」
手紙を受け取ったアズールさんの視線の先には、神樹の下でミオンたちと遊ぶ白竜姫様が。スウィーが花冠の作り方を教えてくれてるみたいで、すごく絵になる。
「あ、そうそう。ショウ君から聞いた別の島の話で、ちょっと相談したいことがあるんだよね」
「別の島……。ああ、今度、死霊都市に転移魔法陣が置かれるって話の?」
「そうそう。その島の場所がどこなのか割り出したいと思ってるんだ」
「え?」
サバナさんが無人島スタートした島。
本土と繋がる転移魔法陣を見つけたのが古代遺跡内だったし、竜族としては場所ぐらいは把握しておきたいと。
「どうやってです?」
「ショウ君とこのニーナさんって、転移魔法陣の個体番号から場所を割り出せるでしょ?」
「あー、確かに」
死霊都市の時も、この南の島の時も、ニーナが転移魔法陣の個体番号から照会してくれたんだった。
「えっと、その個体番号は誰かに調べてもらう感じですか?」
「だねー。僕たちは警戒されちゃってるし、『白銀の館』の人にお願いできないかなって思ってるんだけど」
「なるほど」
確か鑑定スキルがあれば個体番号はわかった気がする。魔法解析スキルまでは要らなかったはず。
……あれ? 屋敷の蔵で見つけたやつは、南の島の採掘施設の地下と一対だったよな。で、山小屋の1階で見つけたやつは、死霊都市にあったのと一対だった。
「ミオン。屋敷の蔵で見つけた転移魔法陣って、ライブ中に鑑定しちゃったよね。あれって、アーカイブで公開されてる?」
「はぃ」
「うわ、ちょっとまずいかも」
もともと、
死霊都市[AX]=[AY]うちの島[BX]=[BY]南の島
だったのを俺が、
死霊都市[AX]=[AY]南の島
にしたんだけど、ライブで鑑定しちゃった[BX]を『白銀の館』に渡して、
死霊都市[BX]=[BY]南の島
って思われてるはずなんだよな。
この個体番号の違いに気づく人いるかも?
「ぁ、その部分は私の方で読めないように加工してあります」
「ナイス、ミオン!」
ライブのあの瞬間にメモってた人がいるかもだけど、今さら気にしてもか。
死霊都市にある転移魔法陣は、アズールさんたちが見張ってくれてるから大丈夫のはず。それよりも……
「どうしたの?」
「えっと、うちの島にある転移魔法陣の個体番号がバレたら、島の位置もバレちゃうってことですよね」
「うん。ショウ君がニーナさんに聞くみたいなことができればね」
そうだよな。今は古代遺跡の管理者になってるのって、俺とベル部長だけのはず。
ただ、今後は誰か知らない人が古代遺跡の管理者になるかもだし、気をつけるってことで。
まあ、今さら島の位置がバレても、めちゃくちゃ遠いから大丈夫だろうけど。
どうせ、スタート地点選択のところで、俺がスタートした島なんじゃないかって調べられてはいそうだし。
いや、待て……
「個体番号がバレることで、転移の魔法で誰か来たりとかします?」
「ぁ……」
「ううん、それは無理だよ。転移魔法陣の個体番号と、転移先となる空間の固有識別番号は別だからねー」
「はあ、良かった……」
俺もミオンも一安心。
一応、転移魔法陣を魔法解析すれば、空間の固有識別番号(測位で得られるのと同じやつ)もゲットできるらしいけど……って、俺が前にやったじゃん。
アズールさんにいろいろと説明してもらったんだけど、空間の固有識別番号は違法利用の抜け道にならないよう制限が厳しいらしい。
「空間の固有識別番号は、半年ぐらい使われないと失効しちゃうしね」
「へー、そうなんですね」
俺が今登録してある転移先も使わないと腐っちゃうんだろうけど、そういう場所なら別にいらないってことだよな。
***
「って、話なんだけど」
夕食後に美姫に報告を。
ちゃんとゲーム内でアズールさんから頼まれそうだけど、一応。
「ふむ。少々時間がかかるやもしれんが、提携しておるギルドにうってつけの人材がおる。そこに頼むこととしよう」
調査と検証を専門とする『知識の図書館』ってギルドがあって、そこがサバナさんの島へ行くらしい。
ただ、いつかはまだ確定してないので、その時に向こうの島にある転移魔法陣を鑑定してもらえればということになった。
「氷姫アンシアが絡んでるし、無理はしないように頼む」
「問題なかろう。鑑定する転移魔法陣はサバナ殿の島の方ゆえの」
そう言ってニヤリと笑うセス。
サバナさんから「もしものことがあったら……」って話もあったし、そこは協力してくれるよな。
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