月曜日

第522話 建国の条件とは?

「はぁ、夏休みも今週で終わりなのよね……」


「どうしたんですか、急に」


 来週から二学期なのは分かりきってることだし、ベル部長もちゃんと宿題を終わらせてるはず。ヤタ先生が厳しくチェックしてたし。


「昨日、南の島のことをうちのライブで公表したじゃない? それの反響がすごくて、アーカイブも再生回数がすごいことになってるのよ」


「あー……」


 月曜のお昼過ぎ。

 そんなことを話しつつ、ミオンが来るのを待っている。

 いつもなら先に来てるミオンだけど、今日はちょっと遅れるとのこと。午前中に届いたアルバムのマスター版を確認し、返事を出さないといけないらしい。

 ちなみに、どういうアルバムになったかは、俺もリリースされるまでは聞かないでおくことにしている。


「公表はしたけど、一般公開はまだですよね?」


「ええ。でも、ギルドへの問い合わせがすごいことになってるわ」


「やっぱ、いつ行けるようになるのかって問い合わせですか?」


 その問いに頷くベル部長。

 それならそれで、ここで油を売ってていいのかって話だけど、


「兄上、ベル殿、待たせたの」


「お、来たか。奈緒ちゃんの方はいいのか?」


「うむうむ」


 ナットの妹の奈緒ちゃんと通話して少し遅れた美姫、まあ、来週の予定を聞いてただけっぽいけど。

 そして、


「ショウ君」


「ミオン。どうだった?」


「ぁ、問題なしでした」


 ミオンもきて、揃ったところで、昨日の南の島の公表を受けた対策会議(?)を。

 一般公開は先だけど、時間を絞って親しくしてるギルドから順次って予定を告知してあるそうだ。


「死霊都市側は、ゲイラさんたちが転移魔法陣の開閉は管理してくれるので安心よ。

 問題は向こうへ行った後なのだけど、当面は有志が交代で見てくれることになったわ」


「それって結構大変なんじゃ」


「お店をやってるプレイヤーがやらせてくれって」


「マスターシェフ殿をはじめ、死霊都市に店を構えておる方々がの」


 やっぱり、生産職の人たちは、南の島の産物が気になるらしい。

 徐々に信頼できるNPCを雇って増やしていくとのことで、人が揃ってきたところで一般解放みたいな予定。

 ただ、無制限ってわけじゃなくて、竜貨を一人一枚預ける形に。今は死霊都市に入るのに竜貨が不要になってるので、その代わりって感じかな。


「門前町が整ったあたりがいいかしらね」


「うむ。念の為、兄上からアージェンタ殿にも了解を得ておいてもらいたいのだが」


「りょ」


 ミオンのスタート地点だったコテージっぽいところがセーフゾーンなので、そこでのログイン、ログアウトもオッケーにするらしい。

 俺としては、ガジュたちに悪さをするような連中さえ排除できれば、それ以外は好きにしてもらっていいかな。


「ぁの、部長、質問いいですか?」


「ええ、もちろん」


「南の島で建国宣言をする人が出たりしませんか?」


「あ……」


 そういや、マイホーム設定ができた時点で、建国宣言もできちゃうような気が。

 今の限定公開ならそんなことをする人もいないだろうけど、一般公開しちゃうとノリでやりそうな人もいそう。


「その懸念もあっていろいろと聞き込み調査をしてもらったのだが、少なくとも無関係の第三者がおる状態では不可能のようだの」


「んー、まあ、そうか。だから、無人島は建国宣言しやすいのか。ん? ゲームドールズの人の時もそうだったの?」


「あの時は全員がパーティかアライアンスに入ってたらしいわ」


 つまり、味方しかいない状態だと可能?

 でも、そうなるとミオンがいきなり建国宣言可能だったはずだしなあ……


「ショウ君の時はルピちゃんがいましたね」


「あ、確かに。となると、そのあたりで最大勢力だったら建国宣言ができる感じか」


 ゴブリンの群れを倒して、あの辺りでは俺とルピが一番強かったから?

 いや、でも、アーマーベアがまだいたような……って、あいつバグってたって話だったしなあ。


「いずれにしても、建国したところで国家としての領土は限定されることがわかっておるのでな。そのような輩が出た場合には……」


 そう言ってニヤリと笑うセスに、ベル部長は苦笑い。

 あと、俺が渡した転移魔法陣で行けた島なので、俺をトップにした国でいいんじゃないかなんて話も出てるそうで……


「建国宣言したら、うちの島がスタート地点になるかもだから、絶対にやんないっす」


「です!」


「ええ、その方がいいと思うわ」


「うむうむ。兄上の島は誰も来れぬところに価値があるゆえの」


 それはそれとして、建国宣言と国家運営については、ベル部長がラムネさん……の国を管理してるプレイヤーさんにあれこれ聞いてくれることに。

 なんでかって言うと、例のサバナさんの話もあるので。


「そのサバナさんの島はもう繋がったんですか?」


「昨日、私たちのライブと同じ時間に首脳会談があったそうよ」


「首脳会談……」


 とはいえ、割と穏やかな感じの内容で、サバナさんのライブ配信の常連ファン&時間も人数も絞ってスタートということでまとまったらしい。


「アンシアさんとしては、エサソンが作る『妖精のバター』が欲しかったみたいだけど、さすがにそれは無理だったみたいね」


「兄上も『フェアリーの花蜜』はうかつに出さんようにの」


「了解。まあ、あれはスウィーとフェアリーズが集めてくれる物だし、俺がどうこうっていうよりは、スウィーの意見に従うつもりだよ」


「そうですね」


 うちの島の産物は基本的に妖精が関わった物ばかりなので、島の外に出す時はスウィーはじめ、各種族の長にオッケーをもらわないとだよな。

 本土の人たちから羨ましがられるのは慣れたけど、だからと言って全員に配れるものでもないし、そこは取引ってことで。


「ところで、そろそろ次の依頼は出さないのかしら?」


「あー、次のライブの時に発表できればと」


 ミオンと相談して依頼の内容も整理しないと。

 エルさんにお願いしないといけないこともありそうだし、IRO行かなきゃだ。

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