第520話 リゲルの本気

 夜。リゲルがいた森を更に北へと進む予定。

 パーティとアライアンスを、今まであんまり意識してなかった部分もちゃんと考えて組んだ。


【ティル・ナ・ノーグ】

☆ショウのパーティ

 ショウ、ルピ、レダ、ロイ、ラズ、リゲル

・女王と愉快な仲間たち

 スウィー、ミオン、シャル、クロ、ラケ、アト


 戦う可能性が高い前衛と、援護が主体の後衛という組み合わせ。

 ミオンをパーティリーダーにしても良かったんだけど、スウィーの【フェアリーの女王の加護】が消えるのはもったいないとミオン本人から申し出があったので。

 加えて、今回はクロ、ラケ、アトの三姉妹揃い踏み。これも本人たちからの申し出。

 前にキュミノンを持ち帰ったけど、あれが衝撃だったらしく、自分たちも探索に参加したいということらしい。


「準備オッケー?」


「ショウ君。みんなにカムラスのコンポートを」


「あ、そうだった」


 みんな、一つずつカムラスのコンポートを食べる。うん、美味しい。

 抗毒がちゃんとついてるのを確認し、


「じゃ、行こうか」


「ワフ!」「「バウ!」」


 ………

 ……

 …


 前回渡った川を、俺とルピたちが先に渡る。ラズは定位置の俺のフードに。

 渡り終えたところで、さっそく周囲の警戒に出てくれるルピたち。大丈夫そうだな。


「おっけ」


 今回、ミオンはリゲルに乗ってもらう。

 あと、乗馬スキルも取ってもらって、万一の時は先に逃げてもらうことも納得してもらった。スウィーがこっちの味方になってくれて良かったよ……


「ブルルン」


「さんきゅ。この先も頼むよ」


 リゲルを労いつつ、ルピたちと感知共有……問題無し。

 湖面を左手に見つつ、順調に北上してたんだけど、


「ん」


 ルピが森の奥にモンスターの反応を感じ取ったので、全員いったんストップ。

 どういうモンスターかぐらいは見ておくべきかな。


「ちょっと見てくるよ」


「はぃ」


 振り向いてそう伝え、ルピたちのところまで隠密を使って移動。

 追いついたその先に見えたのは、背丈が3m近くある大きなウツボカズラ……


「クル?」


 フードから出てきたラズがどうするのって顔。

 動かないならスルーして行ってもいいんだけど、せめて、鑑定ぐらいはしておきたい。

 なので、慎重に近づいていって……、よし。


【シェンネペンテス】

『豊かな森に突然発生する食肉植物モンスター。

 動物を誘引する芳香を発し、触手で絡め取った獲物を捕食袋で消化する』


 なるほど。匂いを使って獲物を誘き寄せて、触手で絡めとる感じかあ。

 これはやばそうだし、駆除しておいた方が良さそう……


【隠密が看破されました!】


「なっ!」


 その通知が響いた瞬間、シェネペンテスの壺部分が大きく開き、あたりに変な匂いが溢れ始める。

 そして、ウニョウニョと動き出す茎と葉っぱ。


「クルゥ……」


「ラズ! しっかりして! ルピ! バック!」


「ワフ!」「「バウ!」」


 ふらついたラズを両手でしっかりホールドして、全速力でミオンたちの方へと走る。

 ステータスに『魅了』という状態がついてるので、これを解除してもらわないと!


「スウィー、風! 変な匂いがこっちに来るかもだから追い払って!」


「〜〜〜!」


 その言葉に迷いなく、精霊の風を起こしてくれるスウィー。


「ミオン、ラズがちょっと変な匂いを吸ったみたいだから、見てあげて」


「は、はぃ!」


 ミオンにラズを渡すと、神聖魔法の解毒と鎮静を掛けてくれる。

 何があったかを簡単に説明して、あれは放置しておくとやばいのを説明。


「ゥゥ?」


「いや、捕まると厄介そうな相手だから、ギリギリのところでミオンを守ってて」


「ニャ!」「「「ゥゥ!」」」


 ミオンが不満そうだけど、ヒーラーがやられると一気に瓦解するので、そこは理解してもらう。というか、ミオンがダウンすると妖精チームの精神的ダメージがデカすぎる。


「あと、火を使うから、もし延焼しそうなら消火を手伝ってもらうかも」


「はぃ。ショウ君、加護を」


「さんきゅ」


 ミオンに神聖魔法の加護ももらったし、よし、リベンジに行こう。

 ルピ、レダ、ロイを従えて前進。緩やかな追い風のおかげで変な匂いもしないまま、シェンネペンテスのところまで戻ってこれたけど……


「うわぁ……」


 ふらふらと飛んできたパーピジョンが触手みたいなのに捕まって、そのまま壺の中へと放り込まれた。

 これ、放り込まれたプレイヤー、トラウマになるんじゃないの?


「ガウゥゥ……ガッ!」


 ルピたちが襲いかかってきた触手を爪で切り払う。

 思ってたよりずっと動きが早い触手は、まるで鞭のようで侮れない。


「火の精霊よ」


 握り込んだ火の精霊石に火炎放射のイメージを伝えると、突き出した手の先から炎が吹き出した。

 途端に襲いかかってきてた触手が怯み、炎を避けようと悶える。


『ショウ君。大丈夫ですか?』


「あ、うん」


 ギルドカードを通して話しかけられて、ちょっとびっくりしたけど、本来の使い方ってこれだよな。


「大丈夫だと思うけど、ちょっと時間かかりそう」


 枯れ草ならあっという間なんだけどなあ……ん?


「ええっ!?」


 壺部分が大きく傾くと、その中から溢れた液体が燃え始めていた枝葉えだはを一気に消火してしまった。


『ショウ君!?』


「あ、ごめん。えっと、いったん戻るよ」


 打つ手を思いつかないので、ミオンのところまで撤退。

 スヤスヤと寝てるラズにほっとしつつ、何があったかを簡単に話す。


「襲ってこないようなら、そのまま進みませんか?」


 確かにそれが無難かなあと思っていたら、


「ブルルン!」


 なんだか、やる気満々のリゲルが自分が倒すといわんばかりのアピールを。

 ルピやレダ、ロイも賛成してるし、何か手があるのかな。って、元々はこのあたりにいたんだから、知ってて不思議じゃ無いのか。


「じゃ、もう一回だけ。これでダメだったらスルーするよ」


「は、はぃ。気をつけて」


 リゲルに乗って、ゆっくりと再接近。

 シェンネペンテスの触手が届きそうなところまで来たところで、


「ん?」


 リゲルを中心にどんどんと気温が下がり始めて、首筋がひんやりっていうか、かなり寒いって感じるぐらいに。


「うわ……」


 ふと見ると、足下には薄氷? 霜? リゲルの蹄に近い部分からカチカチに凍っちゃってるので、多分、アーツなんだろうと思う。……そんなのあったっけ?

 その状態でゆっくりと近寄るリゲルに、シェンネペンテスの触手も動けなくなってしまった様子。

 あ! うん、ルピたちは……全然平気っぽい。


「ブルル」


「うん。ここまでこれたら大丈夫」


 凶悪なシェンネペンテスだけど、ウツボカズラは蔓植物なわけで、ぶっとい幹があるわけでもない。

 バッサリやって、根っこも掘り出して焼却処分、かな?

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