第512話 検証タイム

「ちょっと休憩にしない? 相談したいことがあって」


「ぁ、はぃ」


「私がお茶を淹れてこよう」


 キリよく演奏が終わったところで声をかけると、座って聞いていたエルさんがそう言ってくれた。


「おやつの時間ですね」


「おやつ〜♪」「〜〜〜♪」


 みんなが席に着いたところで、エルさんが、お茶と作り置きしてあったクッキーを持ってきてくれた。

 俺とミオンの間で話があるのを察してくれたのか、白竜姫様たちの相手はエルさんが引き受けてくれる模様。


「スウィーちゃんの像で何かありましたか?」


「あ、いや、そっちは順調なんだけど、それよりも……」


 空間魔法のスキルレベルが上がって、<転送><転移>が使えるようになったこと。そして、新たに召喚魔法スキルが獲得可能になったことを話す。


「すごいです!」


「それで、いろいろ試そうと思うんだけど、ちょっと付き合ってくれる?」


「はぃ。もちろん」


 最初に試したいのは転送なんだけど、<測位>で登録してある場所を確認。

 最初に登録したのが『山小屋前』、次が『港倉庫』と、この二つはわかりやすい。

 次は『死霊都市』なんだけど、これは今は南の島へと繋がってる転移魔法陣がある場所で、今使えるかどうかは微妙。

 最後が『採掘施設』だけど、南の島の古代遺跡の地下10階の場所。今行くと、誰かと鉢合わせそうだし、念のためってぐらいの登録かな。


「まずはここの玄関ホールで測位して登録かな。で、山小屋前へ転移してみようと思う。うまく行ったかどうかはギルド通話でね」


「はぃ」


 ということで、


「エルさん、すいません。ちょっと試したいことがあるんで、しばらく外します」


「ああ、こちらは任せてくれ」


 エルさんに伝えてから2人で玄関ホールに。

 ルピやレダ、ロイも何が始まるんだろうって顔でついてきてくれる。


「この辺かな。<測位>」


 これを『屋敷玄関』で登録。


「最初はルピを連れて山小屋前に転移してみるよ」


「はい」


「ワフン」


 ミオンとレダ、ロイには少し離れてもらい、ルピが足元に来たところで、


「じゃ、<転移:山小屋前>」


 そう唱えた瞬間、ふっと画面がフェードアウトし、次の瞬間、


「冷たっ!」


「ワフ!」


 慌てて土間のところまでルピと走る。

 しとしとだと思ってた雨だけど、いつの間にか結構降ってたんだな。


「ミオン、聞こえる?」


『はぃ』


「今、山小屋の土間のところ。うまく転移できたよ」


『良かったです。ルピちゃんも一緒ですよね?』


「ワフン!」


 しっかり返事するルピ。

 そういえば、ルピもギルドカード作ってバンダナにつけてあったし、聞こえてるんだよな、これって。

 あれ? ルピもギルドの人数に含まれてるのか?


『ショウ君?』


「ああ、ごめん。今から何か転送するよ」


『その前にMP消費の確認を』


「さんきゅ。忘れてた」


 えーっと、消費MPは400ぐらい。

 これはミオンにメモっておいてもらって、何度か試して調べてみないと。

 距離で増えるのか、人数で増えるのか、とか。


「おけ。じゃ、<転送:屋敷玄関>」


『円盾が届きました!』


「よしよし。これはMP消費が少ないな」


 いつも使ってる円盾を送って、50ちょっとしか使ってないし、かなり優秀。

 ついでにククリナイフの方も送ってみようと思ったんだけど、


「あ、この魔法、クールタイムが長いのか……」


『どれくらいですか?』


「6時間もあるよ。スキルレベルが上がれば短くなるかもだけど、一度にできるだけ多く送ったほうがいいっぽい」


『なるほどです』


 この先、転送魔法が使えるプレイヤーが増えると、物の移動が一瞬になりすぎるからだろうなあ。

 一度に送れる量も多分だけどMP依存な気がするし、そこまでめちゃくちゃ便利になったりはしないってことか。

 あれ? じゃあ、転移の方も……


「あー、転移も同じだ。MPの代わりにクールタイムでバランス取ってるっぽい」


『えっと、どうしますか?』


「しょうがないから、歩いて帰るよ」


 さっきは思わず雨宿りに走っちゃったけど、結界魔法を傘の代わりにできるの思い出したし。


 ………

 ……

 …


 屋敷まで戻ってきて、これであと確認するのは召喚魔法なんだけど、まずはスキルを取るところから。


「ショウ君がまた先駆者になると思います」


「だろうなあ」


 それだとSPが10戻ってくるから、実質6SPで取れることになってお得なんだけど。

 あと、それよりもワールドアナウンスされそうな気がしてて、明日のライブでまた説明しないといけない気がしてる。


「あった。じゃ、スキル取得……え?」


【エピックスキルの取得について】

『レアリティがエピックのスキルには以下の項目が設定されています。

 ・スキルの先駆者褒賞はありません

 ・スキルレベルの上昇には特定の行動が必要なことがあります

 ・スキルレベルが上限に到達しても、SPの返還はありません

 以上を確認のうえ、取得しますか?』


 先駆者褒賞なし、スキルレベルを上げるのも大変、それが上限に到達してもSP返還もなし。

 取得する前にそれをしっかり伝えて、あとで後悔しても知らないよってことか……


「どうしますか?」


「取るよ。リゲルをガジュたちのところに連れていけるかもだし」


 というわけで、


〖ワールド初のエピックスキル獲得者が現れました〗

【ワールド初のエピックスキル獲得:5SPを獲得】


「ぁ……」


「やっぱりワールドアナウンスされちゃったか。まあ、明日話すつもりだったし、それはいいよ」


「はぃ」


 それはそれとして、さっそく召喚魔法を試してみないと。

 呼べるのは、調教スキルでテイムした相棒だけなので、ルピ、ラズ、リゲルは大丈夫そうだけど、レダとロイはやってみないとかな?


「じゃ、ルピが一番最初だよな。ちょっとここで待ってて」


「ワフン」


 待て状態のルピを置いて、綺麗にしたけど使ってない浴室まで移動。

 まずMPを確認……よし。


「<召喚:ルピ>」


 次の瞬間、目の前のスペースにお座りしたルピが現れた。


「ワフ!」


【召喚魔法スキルのレベルが上がりました!】


 いきなりって感じだけど、最初は召喚を成功させれば2レベルになるんだろう。

 しっかり待てをしてるルピを撫でていると、パタパタと足音が聞こえてきて、


「ぁ、良かったです。ルピちゃんが急に消えて」


「ごめんごめん。ギルド通話で今からって言えば良かったね」


 消費MPは200ぐらいだし、これなら全然使えるなと思ったら、やっぱりクールタイムが6時間……リゲルの召喚を試すのは明日のライブ中にやっちゃうか。

 この後、<召喚>に対応する<送還>を試して、スキルレベルが3になったんだけど、これから先の『特定の行動』ってなんだろうな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る