第507話 秘境探検のお約束

「えーっと、今はこのへんだから……」


 川の上流の方は白紙だけど、この辺りまでは前回の記憶で描いた分で間違ってなさそう。

 西側を向くと、森が見えるんだけど、少しずつのぼってる感じ。


『ここからどうしますか?』


「船はここに置いて少し西へかな。そうすれば、この落差工部分の上に回り込めそうだし」


『え? ……らくさこう?』


 あ、しまった。

 めっちゃ専門用語を使っちゃったけど、


【ウタゲテー】「おお? 何それ?」

【トネン】「専門家っぽい!」

【カーセン】「川底の傾斜を安定させる仕組み」

【グランド】「土木スキル知識とか?」

 etcetc...


「えっと、詳しい人がいるみたいで、それで合ってると思います」


 川の流れをいったん緩くする場所を作る感じ。ダムっていうほどじゃないんだけど……


『ここは人の手が入ってるってことですか?』


「多分ね。自然にこういう感じにはならないと思うし」


 そもそも港があったり、古代遺跡があったりする場所だし、洪水対策がされててもおかしくはないかなと。

 ただ、護岸工事まではしてないのは不思議? できるだけ、自然になのかな。


「ワフ」


「うん、行こうか。トゥルーたちも大丈夫?」


「キュ〜」「「キュ!」」


 問題なしと。ルモネラ(ヤマモモ)を採りに結構陸地の奥まで行くみたいだし、大丈夫なんだろう。

 西に向かい、緩やかな斜面を上っていくと、やっぱりみたことがあるような雰囲気の森になっている。


「多分、リゲルと出会った森の先なんじゃないかな」


 地図を出して眺めてみると、ずっと西へと向かった先にギリー・ドゥーたちの神樹のある湖に出るはず。


【ヒカルン】「おおお、すげー!」

【ニュード】「リゲル君の兄弟とかいない?」

【シューメイ】「もう少しで島の全域踏破だ!」

【ブルーシャ】「ワクワクする〜(^○^)」

 etcetc...


 とはいえ、今日の目的はこの川の上流。行けるところまで行ってみる予定。


「ワフ?」


「うん。今日は川の方ね」


 ということで、そっちはまた今度にして川の方へと。

 落差工の上は緩やかな流れになっていて、まだまだ上流へと辿れそう。


『どこまで行くつもりでしょうか?』


「歩けなくなるところぐらいまでかな。流石に崖を登るのは厳しいし……」


 顔を上げると、島の中央の火山は噴煙しか見えず、その手前の山の圧がすごい。

 ヨーロッパとかこういう感じなのかな?


「キュ!」


 トゥルーたちが急に身構えて、川縁に向かって三叉槍を構える。

 それに気づいたルピたちも戦闘態勢に……


『ショウ君!?』


「何か来るっぽい。シャル、スウィーとラズのこと頼んだよ」


「ニャ!」


 スウィーとラズをシャルの元へと退避させてトゥルーの前へと。地上ならまだしも、水中に引き摺り込まれるのはまずい。

 精霊の加護をお願いし、円盾と剣鉈を構える。せっかく作ったククリナイフは、まだライブで見せれないから置いて来ちゃったんだよな。


「キュ……」


 トゥルーたちが注視している水面をじっと見つめると……

 水面から鼻先だけを出したワニが、いきなり飛び上がって襲いかかってきた!


「くっ!」


 大きな口での噛みつきを円盾でいなしたところに、

 

「「キュ!」」


 セルキーたちの攻撃がその背中へと突き立てられたが、硬い外皮で弾かれてしまう。

 体長は2mを余裕で超えてそうなワニだけど、口先が細長く、鼻先がでかいのが気持ち悪い……


【ダブガビアル】

『水辺で油断しているところに襲い掛かるワニのモンスター。口から水を吐くこともある。

 素材加工:骨、皮、牙は各種素材となる』


【マーサル】「こわっ!」

【サブロック】「なにこのワニ……」

【シゲルサン】「インドガビアルがモチーフ?」

【チャリンボウ】「目が怖すぎぃ!」

 etcetc...


『撤退しますか?』


 ただ、陸上での動きは苦手っぽいのか、腹をすりながら威嚇してくる。

 そのまま下がれば撤退はできそうだけど、せっかくなら倒しておきたいところ……


「いや、倒すよ。ただ、どうしたもんかな」


 隠密とバックスタブも使いたくない。というか効く気がしない。

 となると、魔法でどうにかだけど……


「シャー!」


「なっ! いたっ!」


『ショウ君!』


 ワニの口から水流が放たれ、慌てて円盾で受け止めただけど、そのまま首を横に振られたせいで、かすった腕に痛みが走る。

 水を吐くってこういうことかよ!


「キュ!」「「キュキュ!」」


 トゥルーたちはうまくかわしたようだけど、さらに近寄りづらくなって、どうしたものかと思ったところで、


「クルル!」


 ラズの撃った火の矢が口の中にヒットして、ダブガビアルの口が閉じた。

 それでハッと思いつく。


「<落石>!」


 ワニの頭上に大きなの石の塊を作って落下させ、


「からの<加重>!」


「キュキュ!」


 頭を押さえ込んだところに、トゥルーがジャンプして、三叉槍を背中に突き立てた。

 ……なんか、トゥルーの槍が光ってた気がするんだけど、きっとセルキーの王子様だからだろう。うん。


「やったかな?」


【ウィズン】「倒し方がえぐい!」

【リーパ】「それフラグや!w」

【サック】「トライデント光ってなかった?」

【カリン】「フラグ来る〜?」

 etcetc...


 お付きのセルキー2人が三叉槍でツンツンとしたけど動かず。

 俺も近寄って確認……、うん、大丈夫っぽい。


『良かったです。怪我は大丈夫ですか?』


「うん、平気。口から水流みたいなのはちょっと焦ったよ……」


 トゥルーたちに再度の警戒をお願いして、落石で落とした岩塊は掘削の魔法で割るかな。

 しゃがみ込んだところで、


「クルル〜?」


「うん、大丈夫。ラズのおかげで倒す方法を思いついたよ。ありがとうな」


 肩へ駆け上がってきたラズにお礼を。

 コメント欄で悶えてる人がいるけど、スルーしておこう。


「<掘削>」


 落とした岩塊を真ん中で割ると、下敷きになったタブガビアルの頭がちょっとアレ。

 さくっと解体して、皮、骨、牙を……


「キュ!」「「キュキュ!」」


【ネクロンス】「あばばばば!」

【スキンコ】「やばいやばい!」

【ネルソン】「フラグそっちか!」

【メッセレン】「逃げて〜〜〜!(><)」

 etcetc...


「やばい! みんな水辺から離れて!」


 新たに2匹のダブガビアルが近づいてきたけど、俺たちが水辺から離れたことで、諦めて戻っていった。


『ショウ君。ここはもう……』


「うん。危ないし、距離をとって上流へ向かうよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る