水曜日

第506話 ショウ君探検隊、上流へ

 3日目の収録も予定通り終わり、あとは木金を残すのみ。

 一応、来週に予備日を設けてあるそうだけど、それも必要なさそうとのことで、そっちは一安心なんだけど。


「了解よ。ドラゴンの件、翠竜エメラルディアさんかもしれないって話は、白銀の館が竜族から注意された内容として流布しておくわ。もちろん、マリーさんとシーズンさんにもね」


「お願いします」


 夜。IROに行く前にバーチャル部室で相談中。

 翠竜エメラルディアさんの話ともう一つ。


「しかし、問題は悪魔の方よの」


 セスが腕を組んでうーむと唸る。

 悪魔たちが住むと言われる死霊都市の北東。

 バーミリオンさんが定期的に巡回飛行してるらしいけど、悪魔が魔王国側へ向かってるのを見つけたらしい。

 なんか、もともと魔王国と悪魔たちの国が繋がってた街道があるみたいで、そこを進んでいる連中が見えたんだとか。


「悪魔の件については、近しいギルドにだけ伝えるでいいかしら?」


「いや、何かしら動きがあるまでは、伏せておく方が良いかもしれん」


 下手にどこかで話が漏れて、それで相手側に方針を変えられても面倒だと。

 それはそれで魔王国のプレイヤーたちが大変なんじゃと思うけど、


「何かしらイベントの起点になるなら、新規プレイヤーさんには嬉しいことだと思うわよ?」


「あー、確かに……」


 夏前のアプデで入った人たちは、まだワールドクエストもやってないわけで、その手のイベント未経験だもんなあ。


「ぁの……」


「ん? ミオン、何かある?」


「ショウ君のお祖父様とお祖母様が……」


「「あ!」」


 そうだった!

 じいちゃんとばあちゃん、確か魔王国スタートしてるって言ってたよな。


「連絡は……しなくていいか」


「うむ。せんほうが良かろう」


「そうなんですか?」


「ゲーム内で会って伝える分にはいいと思うけどね。あと、伝えなくてもなんとかしそうだし……」


 セスもうんうんと頷いている。

 じいちゃんとばあちゃんなら騙される心配とかもないし。


「……ショウ君の祖父母のことよね?」


「ええ。揃ってIROやってるって聞いて、俺たちもびっくりなんですけど」


 当然、ベル部長もびっくりだよな。

 まあ、じいちゃんばあちゃんの世代でも、ゲームが趣味って人は多いけど、フルダイブのMMORPGをやろうって人はそんなにはいないだろうし。

 そんな話をしていると、


「こんばんはー。そろそろライブの準備の時間ですよー?」


「あ、やべ」


 ヤタ先生が来て、今日がライブだったことを思い出す。

 ミオンの収録が終わったあと、港まで移動はしてあるけど、いろいろ準備しないと。


「じゃ、いってきます」


「はぃ。いってらっしゃい」


 ………

 ……

 …


「ごめん、あと何分?」


『5分ぐらいです』


「りょ」


 小型魔導艇はちょうど島北東部の河口付近に到着。速度を落としてゆっくりと侵入。

 船首ではトゥルーとお付きのセルキー二人が警戒してくれ、船尾方向はレダ、ロイ、シャルが見張ってくれている。

 今日のメンバーは、俺の足元に控えているルピと、フードに入ってるスウィーとラズを加えた10人。


<そろそろですよー>


「スピード落として進みながらスタートで」


『はい』


 この辺は前に来た時も流れが緩やかで、モンスターも出なかったし大丈夫だろう。

 さて、そろそろかな?


<10秒前……、5、4、……>


『みなさん、ミオンの二人のんびりショウタイムへようこそ!

 実況のミオンです。よろしくお願いします!』


【タイコスキー】「今日は釣り服!ヽ(´▽`)/」

【ピューレ】「いいよいいよー」

【ターバン】「今日は海か!」

【ベアメン】「トゥルー君待ってた〜(〃ω〃)」

 etcetc...


 土曜はトゥルーいなかったし、久しぶりだもんな。


『それではさっそく島へと繋ぎますね。ショウ君、ルピちゃん、島のみんな〜』


「ようこそミオン」


「ワフ」「〜〜〜♪」「クルル〜♪」


【ジュウロウ】「おおお! 船の上だ!」

【ウッピー】「ついに北端の塔!?」

【マジプ】「え? どこどこ?」

【メイケ】「南側とかですか?」

 etcetc...


 流れるコメントを横目に、さらにスピードを落とす。

 停止すると下流に流されるので、最徐行ってぐらいのスピードまで。


「以前、北端まで行く途中に川があったと思うんですが、その川を遡上してます」


 河口から西へと遡っているので、左手南側は鬱蒼とした森が、右手北側には草原が広がっている。


『草原ではフロスコットンを見つけたんですよね』


「そうそう。種を持って帰って栽培してて、ギリー・ドゥーたちが綿にしてくれてる」


【シデンカイ】「ギリー・ドゥー製コットン、だと?」

【ガフガフ】「うおおおお! 売って欲しい!」

【デンガナー】「それ、絶対に補正つくやつですやん」

【コンデンサン】「ショウ君、着替えないの〜?」

 etcetc...


 そういえば、初期服から着替えてないんだよな。

 ゲームだから汚れはほっとけば消えるし。


『新しく服を作りますか?』


「うーん、そうだね。今度、雨降ってやることない時にでも」


 ミオンが裁縫を頑張ってくれてるので、任せることになると思う。

 だから、曖昧な聞き方をしてくれたんだろう。


「キュ〜」


 右手側の草原の端まできたところで、トゥルーから声が掛かった。

 少し先で、滝って言うほどでもないけど、2mほどの段差になってるので、小型魔導艇だと無理そうだ。


「了解。えっと、右の川縁にあがろうか」


「キュ」


「「キュ!」」


 トゥルーとお付きのセルキー二人が周囲を確認してから飛び込み、すいーっと泳いで先に上陸してくれる。

 俺もあたりを見回して……問題なさそうかな。


「上陸するよ」


『はい』


 最徐行で川縁に寄せると、すっと船体が浮いて、そのまま滑るように上陸。

 コメント欄が沸いてるけど、慎重に船を停止させて……


「おっけ。みんな降りて」


「ワフ!」「「バウ!」」「ニャ!」


 ここから今日向かうのは川に沿って上流、島の中心の山の方。


『ショウ君。現在位置をお願いします』


「りょ。これ、見えるかな?」


『はい!』


 インベントリから取り出した地図を見てもらう。

 これは今日に向けて用意したもので、完璧ってわけじゃないけど、地図スキルが5あるので、まあまあ正確なんじゃないかな。


【ゴッソル】「地図キター!」

【ギガノト】「その地図、売って欲しい!」

【デイトロン】「<地図作成代:5,000円>」

【イザヨイ】「本土の地図と交換しませんか!?」

 etcetc...


 この地図、そんな欲しいものかな?

 ああ、世界地図とかインテリア用途なら、俺もちょっと欲しいかも……

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