第502話 (仮)マナガルムの木像

「明日はそんな感じの予定だから」


「うむ!」


「へー、いいじゃん」


 夕食後のデザート、焼きプリンを食べつつ頷く美姫と真白姉。

 明日の午前中に真白姉は学生寮に戻り、その後、シーズンさんの実家のバイトの打ち合わせに行くんだとか。


「真白姉も来れたと思うんだけど、タイミング悪くてごめん」


「ああ、気にすんな。美姫、邪魔すんじゃねーぞ」


「わかっておる」


 リアル収録って言っても、俺たちは別室から見てるだけだろうし、邪魔も何もないと思う。

 それよりも、


「真白姉、IROでシーズンさん連れ回してるみたいだけど、無理矢理じゃないよね?」


「ねーっての! あいつ、マジでやりたくないことは、ぜってーやらないタイプだしな。着物モデルのバイトで相殺してるからいいんだよ」


「ああ」


「なるほどのう」


 IROで連れ回してる分は、リアルで連れ回されてるってことらしい。

 まあ、真白姉も着飾るの自体は嫌いじゃないもんな。


「そういえば公国の南だっけ? そこで何してるかは、まだ内緒?」


「んー、まあ、そろそろバラしてもいいか」


「姉上。無理に言わんでも良いのだぞ?」


「いんや。そろそろ、ベルちゃんには話すつってたし、お前らなら問題ねーだろ」


 美姫セスは『白銀の館』のギルドマスターなわけだし、俺は俺で他に話す相手はミオンだけだもんな。


「ま、あたしの説明は適当だから、あとで静流に詳しく聞けよ」


「りょ」「うむ」


 マリー真白姉とシーズンさんが公国の南、モンスターに里を追われたエルフたちがいる開拓地に行った時の話。

 最初のワールドクエストで、モンスターがポップしてた古代遺跡(通称、エルフの遺跡)のさらに奥に行ってみたらしい。


「で、まあ、そこに別のエルフの集落があったんだよ」


「ほほう!」


「えええ……」


 エルフの遺跡の入り口をスルーし、その先にある峡谷に沿って進んでる途中で、その別の集落のエルフたちと遭遇したそうだ。


「たまたま?」


「だな。あいつらが狩ろうとしてた猪が出て来てよ。思わずやっちまったんだが、それで揉めそうになってな」


「獲物を横取りするなという話か?」


「だな。ま、その誤解はすぐ解けたんだけどよ」


 その後、そのエルフの里へ行って交流を深め、ワールドクエストがらみの話をいろいろと説明したんだとか。主にシーズンさんが。


「ふーむ。そのような里が今まで見つかっておらなんだのが不思議よの」


「いや。その話は近くの開拓地にいるやつなら、だいたい知ってんぜ?」


「え?」


 開拓初期に関わった人たちで、逃げてきたNPCエルフと仲がいいプレイヤーは、マリー姉たちが見つけた別のエルフの集落のことを聞いていたらしい。

 ただ、個々人が他言しないようにしてたそうで、それがうまく機能してたんだとか。


「もともと逃げてきたエルフたちと交流があったみたいでよ。その辺の話はしたんだが、どうしたもんだかって話でな」


「へー」


「ふむ。ベル殿たちに話して良いということは、公国や他の国と交流を始めるということか?」


「だな。ま、あたしたちは顔繋ぎしてただけだ」


 それで行ったり来たりしてたのか。

 まあ、真白姉も困ってる人に頼まれると断れないタイプだもんなあ。


 ***


「じゃあ、お義姉さんも南の島へ来られたりしますか?」


「いや、またそのエルフの集落に行くんだって。そこからさらに奥に古代遺跡があるって聞いたみたいで」


「そうなんですね。一度、会ってみたかったです」


 あー、俺も一回ぐらいは真白姉のキャラと会ってみたかったかも。セスとベル部長とは会えたし。

 そんな雑談をしつつなんだけど……


「終わりました」


「おお、早い」


 やっぱり、楽譜が読めるからなのかな。

 アージェンタさんにもらった名曲楽譜集2巻、それなりに曲数のある本で、写す冊数もあったんだけど、あっさり書き写し終わった模様。

 やっぱり筆記スキルが影響してるのかな?


「俺はもうちょっとかかりそう」


「はぃ。お茶を淹れてきますね」


「さんきゅ」


 おやつの気配を感じたのか、スウィーとフェアリーズがミオンについていく。

 作り置きのクッキーがあったはずなので、それとルモネラジャムかな?


 おやつ休憩を挟んで仕上げを再開し……


「できた」


【工芸(木工)スキルのレベルが上がりました!】

【工芸(細工)スキルのレベルが上がりました!】


 スキルレベルも順調に上昇。それぞれ6と5に。

 高さ50cmのお座りしたルピの木像。うん、凛々しいと可愛いが同居できてる。


【(仮)マナガルムの木像】

『マナガルムの木像。パプの木材で作られている。

(解説修正、追加可能)

 作品名:(未定) 作者名:ショウ 制作年:月白歴2466年』


 名前が仮のままはまずいよな。『ルピの木像』だとまんまだし、何か考えないとだけど、


「どうかな?」


「すごいです!」


「ワフ〜」


 ミオンもルピも満足してくれてるようで何より。

 あとはこれを自作複製して、複製した方を依頼を受けてくれた人に。オリジナルは教会のミオン……翡翠の女神像の隣に置こう。


「ショウ君。これはどうやって渡すんでしょう? 転送箱にはちょっと収まりきらないですよね?」


「あ、どうしよ?」


 南の島でガジュから『白銀の館』の人に渡してもらうとか一瞬考えたけど、出どころが不自然すぎるよな。となると、


「やっぱりドラゴンさんに来てもらう方がいいと思います」


「だよなあ。そういえば、白竜姫様はいつ遊びに来るんだろう」


「こちらからお手紙を出しませんか?」


「そうだね」


 ギルドカードで聞いてもいいんだろうけど、向こうも忙しいだろうし、手紙の方が気が楽なんだよな。

 それと、せっかくなのでミオンに書いてもらおう。俺よりずっと字が綺麗だし。

 木彫りのルピを運んで欲しい件と、白竜姫様の滞在はいつ頃になりそうかと……


「あと何か、ミオンの方であったりする?」


「えっと、ショウ君が良ければ、お米のことを聞いてみませんか?」


「あー、ハクか……」


 醤油や味噌を作るのにハク、お米が必要なんだけど、全然探せてないんだよな。


「うーん、水曜のライブで向こうの川の上流を調査するけど、それで見つからなかったらでいい?」


「はぃ」


 一番ありそうなのが、あのあたりなので、そこを調べても見つからなかったら、もう聞いてみてもいいか。

 あ、そうだ!


「ああ、マリー姉たちが探してるらしい古代遺跡についても書いておいた方がいいよね?」


「ぁ……」


 アージェンタさんたちが古代遺跡を管理してるわけだし、マリー姉が何かやらかしたときにフォローしてもらおう……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る