月曜日

第501話 忘れてた宿題

「お疲れ様でした。明日は本社スタジオにお越しいただくことになりますが、引き続きよろしくお願いします」


「はぃ」


 ミオンのアルバム収録初日。順調に2曲分を収録完了し終えた。

 俺と椿さんは見てるだけなんだけど、ミオンの方から時々、ニコッとされたりして……ちょっと恥ずかしかったり。


「それでは失礼します」


 椿さんの隣で俺たちも一礼し、いつものヴァーチャルスタジオへと戻ってきた。


「お疲れさま」


「はぃ。ショウ君、退屈じゃなかったですか?」


「いや、全然。ミオンの歌声ってやっぱりすごいなって」


 これは本当にそう思う。

 普段は吐息の上を澄んだ音が流れるように聞こえ、高音はすごく響く感じ?

 聴き入っちゃうから、リテイクが出る理由がさっぱりわからなかったり……


「明日の予定をよろしいでしょうか?」


「あ、はい」


 本社にあるスタジオって話だけど、車で30分ほどらしいので、真白姉の見送りをした後でも十分間に合う予定。

 というか、


「お昼ってどうします?」


「近くのお店を予約してありますので、時間まではそこでくつろいでいただければと」


 とのこと。経費で落ちるので心配はいらないらしい。

 なんか、すっごいお高い店だったりしそう……


「それでは、私は社長に報告に戻ります」


 とスタジオを退出する椿さん。

 時間は午後4時をまわったところで、IROにいけないこともないかな?


「ちょっとだけIROに行きませんか?」


「りょ。ミオンは何かあるの?」


「楽譜集の2を報酬分、書き写さないとです。ショウ君も、そろそろルピちゃんの木彫りを仕上げないとですよ」


「ああ! ごめん、忘れてた……」


 今日は夜もそっちに時間使おう。

 それにスウィーのも作らないとだよな。緑金鋼インゴットも用意できたし。


「じゃ、急ごうか」


「はぃ」


 ***


 ミオンと話して、前に出した依頼の整理を。

 ピアノの修理依頼に対する報酬は転移魔法陣で、これは渡して完了済。

 名曲楽譜集の買い付け依頼は届いていて、その分のワイン中樽は渡して完了済。ただ、こちらの2巻を書き写して渡すのを忘れていたので、それをミオンにお願いする。

 紫鋼鉱石の調達依頼も、もらった分に値する魔銀ミスリルインゴットを渡してあるので完了済。

 水晶原石の調達依頼は、受け取ってるのに『木彫りのルピ』を渡し忘れてたので、俺が急いで完成させないとだ。


「これで全部だよね」


「はぃ。次の依頼を何か出しますか?」


「うーん、すぐには思いつかないから、ちょっと考えるよ。あ、ミオンは欲しいものとかない?」


「私も考えておきます」


 ということで、中断していた『木彫りのルピ』の作業を再開することに。

 ミオンには名曲楽譜集2巻の写しをお願いする。


「ちょっと思ったんだけど……」


「?」


「書き写したのが俺じゃないってバレたりしないかな?」


 ミオンの方が圧倒的に字が綺麗なんだよな。

 俺はお世辞にも字が綺麗とは言えないと思う。真白姉よりはマシだけど……


「ショウ君が書いたお手紙は、ライブでは映ったことはないので大丈夫じゃないでしょうか?」


「それもそうか」


 可能性があるとして、今彫ってる木彫りのルピに入れる銘ぐらい?

 まあ、そっちは彫るわけだし、大丈夫かな。いや、待て。


「依頼書って俺が書いたやつが向こうにあるよね。それと比べられたり?」


「ぁ……」


「まあ、突っ込まれたら、竜人族の人に手伝ってもらったってことにすればいいか」


 近いうちに白竜姫様とエルさんが来るし、エルさんに手伝ってもらったってことにするのもアリだよなってことで。


「ルピ。ちょっと後ろ向いて」


「ワフン」


 しっかり理解して、後ろ向きにお座りしてくれるルピ。賢いし可愛い。

 それにしても、最初に会った時から随分と大きくなった気がする……


「レダとロイも彫ってあげたいな」


「ですね」


 そんな話をしていると、 


「〜〜〜?」


「心配しなくても、次はスウィーだから」


「〜〜〜♪」


 主張してきたスウィーに答えると「なら良し」とベッドの方へ飛んで行って、そのままお昼寝する模様。


「ぁ、ショウ君。欲しいものが思いつきました」


「お? なになに?」


「ジンベエさんに花瓶か植木鉢を作ってもらいませんか?」


「おお! いいね! 俺も参考にしたい……」


 でもこれ、依頼っていうか、ベル部長に頼めば良さそうなんだよな。

 指名依頼とかそういう感じでいいのかな? でも、


「指名して依頼だと、相手が断りにくくならないかな?」


 なんかこう、プレッシャーみたいに思われるのはちょっと悪いかなと。


「陶工スキルが上限突破してるプレイヤーさんに、花瓶か植木鉢を一点ずつお願いするのはどうでしょう? お屋敷や裏庭に飾るとお伝えしてです」


「なるほど。それなら数があっても大丈夫……かな? 一応、たくさん来すぎる可能性も考えて、上限決めておこうか」


「はぃ」


 広い庭だし、2、30個ぐらいなら余裕で置けそう?

 まあ、陶工で上限突破してるプレイヤーって、数えるほどしかいなさそうだけど。


「そういえば、陶工の上位スキルって……陶芸?」


「はぃ。他の工芸スキルと違って、レアスキルだそうです」


「え、そうなんだ」


 レアな要素があるんだろうけど、なんだろう?

 ひょっとして、セラミックとか作れたりするのかな。


「じゃ、次の依頼の話はライブで……、あ、いや、次のライブはトゥルーたちと向こうの川の上流に行きたいんだった」


「お馬さんが見えた平原ですか?」


「そこからさらに、さかのぼってみようかなって」


 小型魔導艇で行けるところまで行ってみて、そこで何か面白いものでも見つけられたらなと。


「気をつけてくださいね?」


「うん。ライブだし、無茶はしないよ」


 とかいうと、変なことが起きる気がするんだよな……

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