第500話 一番怖いのはプレイヤー

 夜のIROは久々に南の島へ。

 昼に作った剣鉈、もとい、ククリナイフはミオンに褒められたんだけど、ライブで使うのはしばらくお預けになった。

 いろいろと考えて、隠密スキルのことをバラすのは、本土でも対策が取れるようになってからの方がいいんじゃないかなっていう。


「ミオン」


「はぃ」


 ミオンの手を取って、幸蓉の神樹の樹洞うろを出る。

 そこには先に出ていたスウィー、シャル、パーン、そして、ガジュの姿が。


「ジュジュ〜」


「ガジュ、久しぶり。今日はよろしく」


 そういえば、俺たちがいない間にコボルトの襲撃はなかったそうだ。

 白銀の館の人たちが、アームラの林から集落前までの遊歩道を作るついでに、変わったことがないかを確認してくれているらしい。


「〜〜〜?」


「うん。トゥルーたち呼んできて。ルピもお願い」


「ワフン」


 ミオンはというと、前と同じで「女神様が来た!」と囲まれている。

 まあ、いつものようにシャルたちがうまく仕切ってくれてるので、あっちは大丈夫だろう。


「リュリュ?」


「ジュ〜ジュ」


 パーンはガジュたちに教えたモーブプラ(サツマイモ)畑が気になるようなので、様子を見に行くとのこと。集落の北側だし問題はないかな。

 で、俺はまず聞いておかないといけないことを。


「ガジュ。今、島に来てる人たちからの提案なんだけど……」


 集落の前の広場に交流できる場所を作っていいかという話を。

 門前町っていうほどの大きさじゃないけど、まあまあ人が来て、あれこれ売り買いできる感じの場所になる予定。


「ジュジュ〜♪」


 大歓迎とのことで良かった良かった。

 で、そういう場所を作るとなると、


「コボルトはその人たちで退治してくれると思うんだけど、ガジュたちも気になる?」


「ジュ!」


 ぐっと両拳を握る仕草は意外と好戦的……というか、因縁の相手だからかな?

 とりあえず、すぐに建物ができたりするわけじゃなくて、徐々に増えていくだろうことを伝えておく。


「じゃ、それは伝えておくとして、今日はおみやげを持ってきたんだよ」


「ジュ?」


 大量というほどでもないけど、包丁、フライパン、鍋を持ってきた。

 俺だけだと持ちきれなかった分は、


「ごめん、ミオン。鍋出してくれる?」


「ぁ、はぃ」


 昼の作業分だけなんで、それぞれ五つ六つぐらいしかないけど、料理とかは集まってやってるみたいだし、とりあえず足りると思う。


「ジュ!?」


「うん。アームラとかハーブもたくさんもらったし」


「ジュ〜♪」


 さっそく、他のキジムナーたち、料理をする子たちにそれらを配るガジュ。

 受け取った子たちも嬉しそうで良かった良かった。でも、包丁は危ないので程々にして欲しい……


「キュ〜♪」


「お、トゥルーも久しぶり」


 樹洞を通って現れたトゥルーが、いつものように俺に飛びついてくる。

 トゥルーに会うのもずいぶん久しぶりになっちゃって申し訳ない感じ。


「〜〜〜¥」


「はいはい。お疲れさま」


 スウィーに働いた分の報酬を、ということでドライグレイプルを。

 ガジュたちも食べたことがないだろうし、たくさん持ってきた。


「これ、みんなも食べてみて。あ、ダメだったら残していいからね」


「ジュジュ〜」


 ルピたち、ラズ、シャル、トゥルーたちも一緒に。

 パーンが先に行っちゃったのが、ちょっと申し訳ないので、また後で差し入れに行こう。


「キュキュ〜?」


「ジュ。ジュジュ〜?」


「えーっと……、ミオン、ガジュたちがうちの島を見に来たいらしいけど、どう?」


「はぃ、もちろん」


 トゥルーがセルキーの里に招待したいって話なんだけど、それなら港だけじゃなくて、いろんなところを案内したい。

 まあ、それはそれとして、今日はやらないといけないことがある。


「じゃあ、とりあえずパーンたちと合流しようか」


「ジュジュ〜」


 ………

 ……

 …


 みんなでキジムナーの集落を見て周り、防犯面のチェックを重点的に。

 加えて、ガジュたちに罠の作り方を教えたりしてるうちに時間切れになったので、

慌てて屋敷まで戻ってログアウトした。

 門前町(?)を作ることを、ガジュたちが許可してくれるかって件、ベル部長に報告するって約束してたし。


「すいません。待ちました?」


「大丈夫よ、5分ほど前に来たところだから。それで、キジムナーちゃんたちの話はどうだったの?」


 ガジュも大歓迎って話をそのままベル部長に伝えると、ほっとした表情へと。


「そうそう、島の外、本土には来ないのかしら?」


「それは無いかと。ガジュたちって幸蓉樹と暮らしてるので、それが無い場所には行かないみたいで」


「良かったわ」


 その答えに俺もミオンも首を捻る。


「えっと『良かった』って?」


「別の無人島スタートをした人が、古代遺跡を見つけて、本土と繋がったらしいの」


「「え?」」


 俺とはまた違った感じで、先にエサソンっていう妖精と出会い、そこから古代遺跡を発見。探索してるうちに転移魔法陣を発見したらしいんだけど……


「転移先がアンシアさんが持ってる転移魔法陣だったみたいで、それでいろいろ揉めてるみたいなのよね」


「うわぁ……」


 ライブ中に発見し、視聴者に乗せられる形で使ってみたらっていう……俺も気をつけよ。

 揉めてる内容も、まあ、なんとなく想像はつく。


「やっぱり、共和国のアンシア領に属さないかとかそういう感じですか?」


 推測があってたみたいで、なんとも苦笑いのベル部長。

 ただ、その無人島スタートした人、サバナさんっていうプレイヤーさんらしいけど、結局、自分の島へ戻って転移魔法陣は封印しちゃったんだとか。


「あー……」


「アンシアさんは粘り強く交渉を続けるって言ったそうだけど……どうかしらね?」


 転移魔法陣を買い上げたのも、それが理由だったんだろうし、妖精がいる島は喉から手が出るほど欲しいんだろうな。


「ショウ君がライブですぐ封印宣言したのは正解だったわね」


「まあ、俺はもともとソロのつもりでしたし、誰かの力を借りなくても全然平気だったからいいんですけど」


「彼女、武器や防具が無くて大変そうなのよ」


「やっぱり……」


 サバナさんはエルフなのもあって、精霊魔法メインで戦ってるんだけど、武器防具は更新できないままらしい。


「それはキツいっすね。俺はすぐに魔導炉と採掘場を見つけられたからなあ」


「そうね。ショウ君の前例があるから、遺跡の探索を続けるそうよ。それが詰んだ時にどうするかでしょうね」


 今回のことで、サバナさんのライブには視聴者がずいぶん増えたらしいけど、そうなるとうるさく言う人も出てきそうなんだよな。

 うちはミオンが防波堤してくれてて、ホント良かったよ……

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