第493話 ライブに備えてレッスンを

 家具なんかの調度品に関しては、木材の調達なんかも考えると、それなりに時間がかかることを伝えておく。

 俺もずっとそればっかりだと飽きるし、湖の向こう、リゲルがいた湖の北東側を調べたいのもある。


「わかるわかる。同じことずっとやってると飽きるよねー」


 腕を組んでうんうんと頷くアズールさん。

 賛同してくれるのは嬉しいんだけど、


「そういえば、南の島の古代遺跡で倒したポリモゴーレムの残骸とコアってどうでした?」


「アズール。今、ここで報告できますか?」


「おっけー。じゃ、まずは残骸の方だけど……」


 魔導多態鋼という金属でできていた例の残骸。

 アズールさんの話だと、空間魔法の<自由変形>を使って、その形を変えることができるらしい。

 ポリモゴーレムはその自由変形がコアから指令され、いくつかの形態を取るそうだ。


「いくつか?」


「うん。蛇みたいな形とかもあったみたいだね」


「なるほど」


 コアからはそれ以外にも、体の一部を石礫のように飛ばしたりとかできたらしい。

 俺たちがそれを喰らわなかったのは、一気にコアを抉り取ったからだよな……


「コアに関しては、まだまだ解析が足りてないけどねー」


「その自由変形の魔法って、何にでも使えるものなんですか?」


「えーっと、どう説明すればいいかな。自由変形ってマナを使って、物の形を変える魔法なんだけど、その物によって難易度が違うんだよね」


「やっぱり硬いと難しい?」


「そうだね。だいたい硬度と一致してるけど、厳密にはマナが干渉しやすい物質の方が楽なんだよ」


 柔らかいものはそもそも変形しやすいらしい。そりゃそうだよな。

 けど、硬いものでもマナが干渉しやすい物質というのは存在して、魔銀ミスリルなんかもそうなんだとか。


「えっと、じゃあ、もらった残骸に自由変形の魔法をかければ、思った形にできます?」


「うん。でも、凹んだりするのを防げるわけじゃないし、欠けた部分は元に戻らないから、いまいち使い勝手悪かったんじゃないかなあ」


 結局、ポリモゴーレムも作ってみたはいいけど、実用性があったかと言われると微妙だったんじゃないかって話。

 純粋な戦闘力なら、マギアイアンゴーレム3体の方がコスパも良かっただろうと……


「だから、ショウ君が何か使い道があるなら持ってくるよ」


「使い道ですか。うーん……、ああ、工具とかならありかも? いろんな工具に変形できるなら、それ一本持ってればいいですし」


「なるほど。道具として使うのは利便性がありそうですね」


 とアージェンタさん。

 まあ問題は、俺がまだ自由変形の魔法を使えないことなんだけど。

 空間魔法のレベル上げたいし、なんかいい練習方法を考えないとだよな……


 ………

 ……

 …


「またね〜!」


 竜篭から手を振る白竜姫様をみんなで見送り。

 アージェンタさんとアズールさんが空の向こうに消えたところで、ほっとため息を一つ。


「お疲れ様でした」


「ミオンもお疲れ。ピアノは大丈夫そう?」


「はぃ。ショウ君も弾いてみませんか?」


「あー、うん。弾いてみるよ」


 明日のライブでいきなり弾くことになるよりはいいよな。自動演奏ができるのかも確認しておかないとだし。

 ミオンにどう座ればいいかから教わって……姿勢もちゃんとしないとダメらしい。


「結構大変なんだ……」


「慣れですよ」


 そうニッコリされるだけで、うん、頑張ろうと思ってしまう安直な俺。

 で、きっちりと構えたところで、


【演奏アシストをオンにしますか?】


 といつものが来たので、当然オンを選ぶ。


【古代童謡<お昼寝の時間>が選曲されました】


 これは魔導神楽笛で演奏したことあるやつだ。

 今回はまず自動演奏のアーツが有効かどうかを……可能っぽい。けど、


「まずは自分でやってみるよ」


「はぃ」


 スローテンポなやつを選んでくれたのは、まだピアノに慣れてないからかな?

 体に伝わってくるアシストが指だけでなく腕に、そして足にもアシストが伝わってくるのが難しい!


「足は右側のペダルだけ意識すれば大丈夫です」


 ミオンのアドバイスに従って右側だけ意識……っていうか、真ん中と左側ほとんど使わないのかな?

 なんとか左右の手と右足だけに集中して、かなり拙い感じだけど、一応最後まで演奏することができた。


【演奏スキルのレベルが上がりました!】


「うーん、なんかこう……」


 スキルレベルは上がったものの、音ゲーで常に『Good』しか出せない状態の演奏はお世辞にも上手いとは言えないんだよな。


「十分、弾けてる方だと思います」


「それはまあ、音ゲーをアシスト付きでやってるから……」


「えっと、初めてで最後まで混乱せず演奏できるのはすごいんですよ?」


 IROのピアノの演奏アシストは、プロのピアノ教習に使われているものとほぼ同じスペック。それも六条のグループ会社が作ったフルダイブ教習システムなので、当然っちゃ当然なんだけど。

 で、ピアノの運指を習うのも同じくアシストで体に教え込んでいくわけだけど、最初は4小節ぐらい弾いたところでパニックになるらしい。


「ショウ君は右手も左手もちゃんと弾けていますし、足も最初戸惑ったあとはすぐに修正できてました」


「あー、そういう無駄に器用なところは親父ゆずりかも……」


 じいちゃんもかな?

 ナットは……できなかったような気がするな。なんか「なんで、お前そんなことできんだよ」とか言われた記憶がある。


「最初にそれができるようになるまでが大変なので、小さい頃に習った方が良いんです」


「へー、そうなんだ」


 諸説あるもののピアノは4〜6歳で習い始めるのが良いというのが一般的だそうで、ミオンは5歳から始めたそうだ。


「ショウ君はそれをクリアできてますから、本当にあとは慣れればですよ」


「さんきゅ。なんかちょっとやる気出たかも。あ、でも、自動演奏も試させて」


「はぃ」


 明日のライブに間に合うように特訓とかは、さすがにちょっと辛い。なので、自動演奏を試してみたんだけど、


「演奏は大丈夫だった?」


「はぃ」


「なるほど。じゃあ、あとはMPに気をつければ大丈夫か」


 一曲通して演奏したところで、MP結構持ってかれた感じなんだよな。

 バフ・デバフで戦闘を支援するアーツだって考えたら、自動演奏でMP消費は妥当なところかな?

 まあ、戦闘するような場所にピアノはないだろうけど……

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