第492話 滞在準備は念入りに

「どう? 苦しいとか気持ち悪いとかない?」


「ブルルン♪」


 リゲルに馬具を一通り装着してもらって、違和感がないかを確認中。

 轡って金属を噛ませることになるので心配だったけど、どうやら大丈夫っぽい。

 昼のうちに作った轡と鐙には奮発して魔銀ミスリルを使ったので、それぞれに乗馬スキル+1がついた。

 鞍はアーマーベアの革で作ったんだけど、こっちは高品質ってだけで補正はなし。やっぱりレッドアーマーベアになってないとなのかな。

 凝りすぎてそっちに時間全部使っちゃったのは、ちょっと失敗……


「じゃ、乗ってみるよ」


「はぃ」


 鐙に足をかけて、ぐっと体を引き上げる。

 またがった先にある、反対側の鐙につま先を乗せて、


「うん、良さそう」


「ワフン」


「ニャ」


 ルピが合図し、シャルが周りにいたケット・シーたちに距離を取るように促す。

 最初はちょっと手加減して欲しいところなんだけど。


「軽く走ってくるよ」


「は、はぃ」


 教会の前を出て、下り坂を軽やかに並足で、ルピが楽しそうに並走中。

 坂を下り切ったところから、次第に速度を上げていくんだけど……かなり怖い。


「リゲル、それぐらいにして」


 手綱はあんまり強く扱いたくはないので軽く。それでも自転車以上のスピードで走ってる感じだよな。

 屋敷の前を通り過ぎたところで減速。Uターンし教会へと戻る。今度はゆっくりとでお願いした。


【乗馬スキルのレベルが上がりました!】


 乗馬スキルが3に。補正を入れたら5か。

 ルピたちの散歩の時にでも乗って、まずは5まで上げたいところ。


「ただいま」


「ショウ君。かっこいいです!」


「そ、そう? ちょっとは様になってきたのかな? リゲルのおかげもあるけど」


 少し色の濃いたてがみを撫でてから降りると、シャルたちが馬具を取り外してくれた。


「ありがとう。助かるよ」


「ニャ」


 なんか、シャルたちケット・シーとは相性がいいっぽい。

 普段はおとなしいって話だし、畑の野菜に手を出したりもしないので、繋がずに自由にさせている。

 パーンたちが野菜をあげたり、たまにグレイプルをつまみ食いしてるっぽいけど、それぐらいなら全然。


『ショウ君、今、大丈夫? そろそろそっちに着きそうなんだけど』


「はい。大丈夫です。今から迎えに行きます」


『あ、今日は地下の方じゃなくて、飛んで向かってるから』


 大型転送室を使って運んでくるのかなと思ってたけど、どうやらアズールさん自身で空輸中らしい。

 直接、屋敷の前に降りるって話なので、


「シャル、ごめん。あとよろしく」


「ニャ」


 リゲルのことはシャルたちに任せて屋敷へと。

 飛んでくる方向としては北東? 東北東? 確かそれぐらいだったと思うので……


「ぁ」


「お、あれかー……ってアージェンタさんもいるし」


 しかも、竜籠抱えてるっぽい。シャルたちを運んで来たやつだよな。乗ってるのは白竜姫様とエルさんかな?

 まずはアズールさんがすーっと降りてきて、最後はゆっくり慎重に着地し、ピアノが入ってるだろう大きな木箱をそっと置く。

 次にアージェンタさんが同じように降りて竜籠をそっと置くと、すぐに扉が開いてエルさんが降りてきた。ということは、


「おやつー!」


 白竜姫様が降りてきて、ミオンへと抱きつく。

 それを見てる間に、アージェンタさんもアズールさんも人の姿になっていた。


「姫様」


「あ、こんにちは!」


「はぃ、こんにちは」


 白竜姫様とエルさんはミオンに任せておけばいいかな。

 俺はその間に、


「すいません。大きなもの運んでもらって」


「いえいえ。今日はまた、お姫様ひいさまがどうしても行きたいと言いまして……」


「ま、ここに来れば美味しいもの食べられるもんねー」


 アズールさんらしい気安い言葉に苦笑いするしかないアージェンタさん。

 料理やおやつはいくらでも用意できるし、むしろ、その程度でいろいろとフォローしてもらってる方が申し訳ないというか……


「まずはピアノを運びましょう」


「あ、はい。えっと、箱を開けないと無理かな?」


「うん。ちょっと待ってねー」


 この大きな木箱、ピアノの修理をしてくれた人から、輸送中に傷つかないようにって話で作られたものらしい。

 アズールさんがその箱の側面を開けると、中にはしっかりとした枠があり、その中に綺麗な布に包まれたピアノが見えた。


「どう運ぶかは聞いてきたから、ショウ君は扉をお願い」


「はい」


 輸送の方法まで教わったらしく、アズールさんとアージェンタさんで運んでくれるというので……俺ができるのは扉を開けておくことぐらいだよな。


 ………

 ……

 …


 無事、リビングにピアノが戻ってきた。

 で、当然というか、ミオンに確認してもらう。


「どう? 問題なさそう?」


「はぃ。完璧だと思います」


 あれこれと音を鳴らし、どうやら大丈夫らしい。

 さっそくとミオンが簡単な曲を弾いてくれるんだけど……、どこかで聞いたことありそうだけど、曲名はさっぱり。


「すごいすごい〜!」「〜〜〜♪」


 白竜姫様とスウィーがすっごく喜んでるし、また後で聞かせてもらおう。

 それはいいとして、


「えっと、白竜姫様の滞在なんですが、当面はこの屋敷の食堂を綺麗に整える感じでいいですか?」


「はい、ありがとうございます」


 来週中には準備できそうなことを伝え、


「さすがに一部屋ってわけにもいかないでしょうし、お二人が来ても大丈夫なように他の部屋も整えておきます」


「え? いいの?」


「せっかくですし」


 豪華な調度品を用意はできないので、そこはシンプルな物になることを伝えておく。


「必要な家具の要望があれば、早めに言っておいてもらえると。できるできないの話もあると思うんで」


「そのあたりは私が」


 とエルさん。

 実際、俺らが不在時のあれやこれやをやるのはエルさんだもんな。

 何が必要かはミオンと相談してもらうことにしよう。


「そういえば、エルさんは料理とかできますよね?」


「いや、正直、あまり得意ではない……」


 ああ、確かに椿さんと同じタイプっぽい。

 そういうことなら、ミオンと一緒に頑張ってもらう感じかな。

 あとは魔導保存箱、大きめのを用意してもらった方がいいよな。白竜姫様、たくさん食べるだろうし……

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