第485話 お互いの最重要

 夜は早めにIROログイン。

 大型転送室の奥。竜の都と繋がっている転移魔法陣の前でアージェンタさんたちを待っている。

 魔導転送箱に来ていたのは、予想通りアージェンタさんからの手紙で、大型魔導船造船所についてわかったことがあるので、直接話したいとのこと。


「ワフ」


「お、来た」


 転移魔法陣が光り、現れたのはアージェンタさんとアズールさん。


「ショウ様、お久しぶりです」


「やっほー」


「いえいえ」


 深々と頭を下げてくれるアージェンタさんの隣で、アズールさんはいつものように気安い挨拶を。

 じゃあ、さっそく場所を変えてと思ったら、また転送魔法陣が光り、現れたのはバーミリオンさんと、その腕に抱っこされてる白竜姫様。


「おう! 久しぶりだな!」


「こんにちは!」


「あ、うん。こんにちは」


 いや、まあ、白竜姫様は来るかもなと思ってたからいいけど、バーミリオンさんまでとは思ってなかったな。

 悪魔の動向を監視してるとか聞いてたけど、アージェンタさんを見ると、


「すいません。どうしてもと言うので……」


 ずっと監視で張り付いてるのでたまには休みをくれということらしい。

 まあ、お酒は大事な話が終わってからということで、まずは屋敷まで移動。

 途中でシャルやパーンとすれ違ったけど、もうドラゴンが来ても驚かないし、なんなら白竜姫様に手を振ったりしてる。


「ミオン。ただいま」


「お帰りなさい。みなさん、ようこそです」


 ミオンにはおもてなしの用意をしてもらっていて、テーブルには軽食が用意されている。

 話しながら食べられるように、バゲットを使ったオープンサンド。

 以前のライブでも作ったレーズンやオーカーナッツを練り込んであるパンも。


「お邪魔いたします」


「ごはーん!」


「すっごく美味しそうなんだけど!」


「話、食ったあとで良くね?」


 うん。やっぱり、そうなるよな……


 ………

 ……

 …


「じゃ、私たちは隣でおやつにしますね」


「うん。よろしく」


「おやつー♪」


「〜〜〜♪」


 サンドイッチでの食事会は終わり、真面目な話をするということで、ミオンと白竜姫様、スウィーは隣の部屋へと。

 マンゴープリンをたくさん用意してあるので、仲良く食べてもらえればかな。


「じゃ、本題の方を」


「はい。まずは古代遺跡を調査していただき、ありがとうございます。無事『白銀の館』の方々で押さえていただき、我々としても一安心です」


 アージェンタさんがお礼を言ってくれてる間も、バーミリオンさんとアズールさんの目は小さな酒樽へと向いている。


「えっと、あの古代遺跡なんですけど、地下11階以降の話って聞きました?」


「はい。それに関してですが、やはり物量といいますか、多くの人員を投入する以外ないかと思っています」


「確かに……」


 アージェンタさんにアズールさん、バーミリオンさんがいればなんとかなりそうな気もするけど、さすがにそれはズルだよなあ。

 ベル部長やセスは、のちのちの大規模レイドコンテンツの可能性もあるとか言ってたし、そっちはもう任せよう。


「これについて、今後はかの島に訪れる人を増やしていくという方針を伺っておりますが、ショウ様もそれでよろしいでしょうか?」


「はい。ただ、キジムナーたちの住んでいる場所は立ち入り禁止でお願いしてます」


 彼らが大事にしている幸蓉の神樹のこともあるし、静かに生活してるところに踏み入ったりはしないで欲しい。

 キジムナーたちが自分から集落の外へ出て、プレイヤーたちと交流を持つのは全然いいと思うんだけど。


「それが良いでしょう。ああ見えて、彼らは敵とみなすと容赦がない妖精です。無用な衝突を避ける意味でも住み分けには意味があるかと」


「そうでした……」


 キジムナー、鑑定のフレーバーテキストだと、悪人には容赦ない感じだったよな。

 人が増えた時に、そういうトラブルが起きる可能性もベル部長とセスに伝えておかないと。


「それはオッケーってことで、早く造船所の話をしようよ」


「今日はそっちがメインなんだろ?」


 そう急かす2人をアージェンタさんが睨んで黙らせる。


「ショウ様は、あの島に採掘施設を作る際に、どうやって人員を移動させたと思われますか?」


「え? そりゃ、俺たちみたいに転移魔法陣で移動したんじゃないです?」


「最初に転移魔法陣を置いた人は?」


「あー、そうか。じゃ、やっぱり船……、ああ! 大型魔導船?」


「はい」


 リアルでいうところの大航海時代みたいなのが、ずいぶん昔にあったらしい。

 こっちの世界だと海のモンスターがいるせいで、もっと大変だろうと思ってたけど、大型魔導船ならってことか。


「じゃあ、あの南の島もそうやって見つかった島なんですね。あ、うちの島もか」


「おそらくはそうかと。そして、例の採掘施設では、新たな大型魔導船を作るための資源が採掘され、部品の製作も行われていたようです」


「確かに作業室とかありました」


 その話にうんうんと頷いているアズールさん。

 口を挟むと睨まれるからか、バーミリオンさんは暇そうで、おつまみ用に出してある煮干しをポリポリと。


「その部品の転送先は竜の都の北西、竜の尾と呼ばれる場所になります」


「じゃあ、そこで大型魔導船を作ってたんですね」


「はい、おそらくは。そして、すでに完成している大型魔導船が一隻あるのです」


「えっ!?」


 アージェンタさんの話だと、完成してる大型魔導船が一隻と、組み立て途中のものが一隻あるんだとか。


「まあ、俺らには用のないもんだがどうする?」


「ショウ君が欲しいなら、あげちゃっていいんじゃない?」


「いやいやいや。俺がもらってもしょうがないですって!」


 その船でどこへ行くんだよって話だし、だいたい、その船ってもっと先のアップデートのものなんじゃ……


「あの船を譲るのはダメよ」


「お姫様ひいさま


 あ、白竜姫様、覚醒してる。

 肩にスウィーが乗ってるのはいつも通りだし、ミオンが手を引いているから違和感がすっごいけど。


「座りましょうね」


 ミオンが追加した椅子に座って、その膝の上に白竜姫様を乗せる。覚醒してるけど、そこは素直なんだ。


「ショウに渡しちゃダメなのか?」


「ダメよ。あれがどれだけ希少なものなのか考えなさい」


 神妙な顔持ちでそう言いつつも、ミオンがスプーンですくったマンゴープリンを口に入れる。


「ショウ様は島での静かな生活をお望みです。現存する大型魔導船はおそらくあの一隻のみ。もし、それを手に入れたことを……」


「あー」


「そうだな。すまん」


 アズールさんもバーミリオンさんも理解してくれたようで何より。

 俺としては、ミオンやルピたち、スウィーたちとのんびり暮らせる場所であることが最重要なわけで。


「アージェンタ。それよりも例の話を」


「はい。ショウ様、この島にお姫様の別荘を用意していただけませんか?」


「「え?」」

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