水曜日

第484話 島主の帰還

「ばあちゃん……」


「美姫はまだまだ子供だねえ」


 帰省も今日で終わり。

 すでに予約してあった自動巡回バスが来ていて、俺と真白姉で荷物を積み込んでいるところ。

 美姫は毎度のことだけど、ばあちゃんと抱き合って別れを惜しんでいる。


「翔太。正月はどうなりそうだ?」


「あー、うーん……。母さん次第かな」


 俺のその答えに真白姉の表情が曇る。

 さすがに母さんの仕事も年末年始は休みだろうけど、家に帰ってくるかは不明。

 真白姉は母さんと顔を合わせるとピリピリしがちだし、帰ってこない方が平和だったりするんだよな。

 でも、いい加減、ミオンのことを紹介しないとって気がするし……


「また、揃ってこっちへ来てもいいんだぞ。澪ちゃんを連れてな」


 確かにその方が気が楽かも?


「真白!」


「お、おう……」


 呼ばれた真白姉がばあちゃんと抱き合う。

 普段は『ばばあ』なんて言ってるけど、真白姉もばあちゃんのこと好きだもんな。


「澪ちゃんもおいで」


「は、はぃ」


 あ……、まあ、本人が嫌がってないからいいか。

 ちなみに、俺が呼ばれることはない。ばあちゃん的にじいちゃん以外の男はダメらしいので。


「じゃ、行くよ」


「ああ、気をつけてな」


 美姫、ミオン、真白姉と乗り込んで、最後に俺。

 そして、いつものようにお昼のお弁当を受け取った。


「体に気をつけるんだよ」


「うん。ばあちゃんも、じいちゃんもね」


 ドアを閉め、じいちゃんたちが離れると、自動巡回バスがゆっくりと動き始めた。

 2泊3日なんて、あっという間だよな……


 ………

 ……

 …


 帰宅したのは午後3時前。

 いつもの駅に迎えに来てくれていた椿さんが、俺たちを家まで送ってくれた。


「2人とも、洗濯物出しといて」


「おう」「うむ」


 さて、冷蔵庫が空っぽだし、とりあえず晩飯どうにかしないとなんだけど……やっぱりスーパー行かないとだな。

 まあ、急ぐ必要もないし、お茶淹れて少し休憩してからにするか。


「翔太。茶くれ」


「うん。今、淹れるから」


 先に戻ってきた真白姉がリビングへと。

 美姫も階段を降りてくる足音が聞こえて……


「兄上。ベル殿から報告したいことがあると連絡が来ておったぞ」


「え? マジ? 一息ついたら、晩飯の買い出しに行こうと思ってたんだけど」


「昨日の夜遅くゆえ、急ぎというわけでもなさそうだがの」


 うーん、気になる……


「翔太ぁ〜、あたしが買い物行ってきてやるよ」


「我も行く!」


 真白姉と美姫で買い物に出てくれるそうなので……、面倒だし、もうお惣菜か何かでいいか。

 ああ、せっかくだし、揚げ物買ってきてもらおうかな。


「じゃ、揚げ物とサラダ用の野菜で。とんかつでもメンチカツでもコロッケでも、好きなものでいいよ」


「おう!」「うむ!」


 ***


「ちわっすー」


「ショウ君」


「ごめんなさいね。今日帰ってきたばかりなんでしょう?」


 バーチャル部室にはミオンとベル部長が待っていた。

 で、何やら動画を、いや、アーカイブを探してる感じ?


「ミオンはもう聞いてたり?」


「ぃぇ」


「ミオンさんも、ついさっき来たところよ。少し待ってちょうだいね」


 ミオンも帰宅したら連絡が入ってたのに気づいて、急いで今から部室に行くと返事をしたとのこと。


「えっと、これはディマリアさんが自分だけに配信していたアーカイブなので、そのつもりで見てちょうだい」


「はあ……」


 白銀の館のコアメンバーの人だよな。樹の精霊を自力で見つけた人で、農業とか園芸とかそっち系の人。

 ベル部長がアーカイブを再生し、シークして前半部分を飛ばす。

 ちょくちょく止めて確認してるけど、他のコアメンバーと南の島で道づくりを手伝ってくれてた感じか。


「ここね」


「ぁ……」


「あ! そっちはカマキリが!」


 3人が教会へと続く参道の整備をし始めて、俺もミオンもそのことを思い出す。

 というか、教会で名も無き女神像を見つけたのもあって、カマキリの話を伝え忘れてた……


「っ!」


「ええ!? なんで3匹も出てくるんだよ!」


 崖上から現れたのは俺たちもだけど、ザックマンティスが3体同時に現れて、囲まれるディマリアさんたち。

 草刈りに来ていたからか戦える武装でないらしく、めちゃくちゃ苦戦してて……


「「あ!」」


 ルピにスウィーにシャル、そして、ガジュ。

 当然、レダとロイ、フェアリーズ、ケット・シーたちもいて、さらにキジムナーたちも現れて……


「ということなのよ」


 ザックマンティス3体を倒し、さっさと撤収していった。


「良かったです……」


「うん。あとで褒めてあげないと」


 知らない人には見つからないように言ったはずだけど、自由にしていいとも言っちゃってたし、なにより、ちゃんとした理由があるんだと思う。


「ふふ、やっぱりね」


「「え?」」


「ルピちゃんたち、勝手に行動してたみたいだけど、怒らないであげてくださいってディマリアさんがね」


「ははは……」


 そもそも、ザックマンティスが出ることを、俺が伝え忘れてたのが悪いわけだし。

 ディマリアさん、そして、バッカスさん、ゼルドさんから謝罪と、当然このことは秘密にすると。

 配信も自分で見返す用の自分自身への配信しかしてないし、PV採用も全拒否にしてあるとのこと。

 まあ、南の島自体、ごくごく一部だけ知ってる極秘事項だもんな……


 ***


「ぉはよぅ」


「うん、おはよ」


 2日空いただけで、ずいぶん久しぶりな気がするな。


「ワフッ!」


「ルピ。久しぶり」


 飛び込んできたルピがいつも以上に甘えてくるんだけど、体が大きくなったからか勢いがすごい。レダとロイもやってきて……順番待ちかな?


「〜〜〜♪」


「スウィーちゃん、久しぶりですね」


 今の定位置、ミオンの左肩へと座るスウィー。

 フェアリーズもやってきて、ミオンの周りを漂う。


「ルピ、スウィー、留守番ありがとうな。あと、南の島であったことも聞いたから」


「ワフン!」


「〜〜〜!」


 素直に認めて胸を張るルピに対し、スウィーは自分が彼らを助けようと決めたので、責任は自分にあるからと……めずらしく女王様らしさが。


「ショウ君は怒ったりしませんよ」


「うん、ありがとうな」


「ワフ〜」


 ルピを撫で、レダとロイも撫でる。

 その様子にスウィーがほっとため息を。


「あとシャルたちもいたんだよね?」


「〜〜〜♪」


 うんうんとスウィー。

 夕飯の用意はすぐ終わりそうだし、教会に行ってシャルとパーンには会えそうかな。トゥルーには夜に会いに……


「ぁ……」


「え、どうしたの?」


「ショウ君。転送箱に着信が」


 久しぶりの転送箱の着信。ってことは、アージェンタさんからだよな。

 あー、大型魔導船造船所だったっけ? その話なんだろうなあ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る