第483話 白銀の館・南の島での遭遇

 アームラの林からキジムナーの集落前まで、獣道だったところを整備し、2人並んで通れるサイズの歩道になりつつある。


「石畳にして柵をつけると、いい感じの遊歩道になりそうですね」


「本来ならそこまでしたいところじゃがのう」


「ま、そのあたりはおいおいだな。もう一つ、やんなきゃいけない場所があるんだろ?」


 バッカスが言う場所とは、アームラの林から教会まで続く道。

 ショウたちが少し草刈りをしたとはいえ、雑草が生い茂っており、参道というのもはばかれる状態だからだ。

 そこを改めて綺麗にし、割れた石畳は交換するという予定なのだが……


「ベルさんはまだでしょうか?」


「そろそろ来る頃だと思うんじゃがの」


「ユキさんがオンみたいだし、もうすぐ来るだろ」


 ユキとベルは午後9時に、具体的には15分後ぐらいに合流予定だ。


「先に始めてしまいましょうか」


「そうじゃな。今日中に教会の姿が見えるようにしておきたいのう」


 3人で話しながらアームラの林を北へと向かっていると、


『みなさん、聞こえますか? 聞こえてる方は進捗をお願いします』


「おう。キジムナーの里への道は一段落だ。今から参道の方に取り掛かろうと思う」


 ユキからの進捗確認にバッカスが答え、ディマリアが続けて問いかける。


「こちらで先に始めてもいいですか?」


『はい、お願いします。ベルたそがちょっと遅れるそうなので』


 それを聞いて頷きあう3人。そうと決まればやることをやるだけ。

 早くに始めて早く終わらせるに越したことはないと、さっそく作業に取り掛かるのだった。


 ◇◇◇


「ワフ」


 ルピがスウィーたちのところまで戻ってきました。

 アームラの実を採りに出たスウィーたち一行でしたが、先客がいたので様子をうかがっていたのです。


「ニャ?」


「〜〜〜♪」


 その先客、バッカスたちがアームラの林の北側へと行ってしまったので、ようやっと先へ進めます。

 ルピ、レダ、ロイが先行し、バッカスたちが戻ってこないかを警戒。

 その間にスウィーとフェアリーズ、ガジュとキジムナーたちがアームラの実を収穫し、シャルたちは万一のことを考えての護衛ですね。


「ジュ〜」


「〜〜〜♪」


 つる籠に熟したアームラの実を収穫していくフェアリーズとキジムナーたち。

 今すぐここで食べたそうな顔のスウィーですが、それはワーネに止められました。

 待ったぶんだけ美味しくなると自分に言い聞かせて耐えるスウィーでしたが……


「うわぁあああっ!」


 大きな叫び声と悲鳴が聞こえたのは、この場所から北の方角。

 先ほどいたバッカスたちが向かった方向で、


「ワフ」


「「バウ」」


 ルピがすぐさま、レダとロイを偵察に出し、スウィーたちのところへと戻ってきました。

 ここでどうするかを決めるのに、相談した方がいいだろうと考えてです。


「ワフ?」


「〜〜〜……」


 腕を組んで、うーんと考え込むスウィー。

 こういう時、ショウならどうするだろうと……


「ジュ!」


「〜〜〜?」


「ジュジュ〜」


 彼らを助けたいと声を挙げたのはガジュ。

 優しくて良い人たちだから、これからも仲良くしたいとのこと。


「〜〜〜♪」


 スウィーも心を決めました。

 そう、ショウならガジュのお願いを断ったりしないから。


「〜〜〜!」


「ワフッ!」「ニャ!」「ジュ!」


 ティル・ナ・ノーグ遊撃部隊、出動です!


 ◇◇◇


「不甲斐ない声をあげとる場合かっ!」


「いや、びっくりするだろっ!」


 バッカスとゼルドがディマリアを庇いつつ言い合う。

 参道の草むしりしていたところを、崖上から3体のザックマンティスが現れて囲まれてしまった。


「ギュアァァ!」


「えーい、うっとうしい!」


 手に持った鍬の先で、ザックマンティスの鎌を弾き返すゼルド。

 いつも使っている戦槌ウォーハンマーを持ってきてさえいれば、ザックマンティスは苦労しない相手だ。


「全く。油断したらこれかよ!」


 バッカスの方も、先が三つに分かれた、いわゆる備中鍬で応戦中。

 こちらも戦斧ウォーアックスがあればだが、昼の作業でモンスターが出なかったため、すっかり油断していた結果だ。


「樹の精霊よ、茨を……」


 ディマリアの精霊魔法が発動し、地面から湧き上がった茨がザックマンティスの足に絡みつく。しかし、


「ギシャァァァ!」


「きゃあ!」


「ディマリアさん!」


 茨を持ちまえの鎌で切り払って自由を取り戻すザックマンティス。

 そのままディマリアへと襲い掛かろうとして……


「ガウッ!!」


「ニャ!!」


 ルピのクラッシュクローを食らって横へと吹っ飛び、さらにシャルの細剣のスラッシュに両方の鎌を切り落とされた。


「〜〜〜!」


「「「〜〜〜!」」」


 続いて、スウィーの号令でフェアリーズから放たれた光の矢が、バッカスとゼルドの前にいたザックマンティスへと突き刺さる。


「ニャー!」


「「「ニャニャー!」」」


 すかさずケット・シーたちが突撃!

 シャルと同じように、ザックマンティスの鎌を切り落とした。


「あ! お、おいっ!」


 バッカスたちが驚いている間にも、レダとロイが追撃を加え、ガジュとキジムナーたちがトドメを。

 彼らが持っているのは石の槍。それでザックマンティスの胴を的確に貫いていく。


「あ、あの……」


 ディマリアたちは既に、それが誰なのかに気づいているが、驚きで言葉が続かない。

 唖然とする3人が見守る中、最終的にシャルがしっかりと討伐を確認し終えたところで、


「〜〜〜!」


「ワフッ!」「ニャ!」「ジュ!」


 スウィーの号令で、ルピたちは仕事は終わったとばかりに撤収していった。


 ………

 ……

 …


「とまあ、そんな感じだったんだが……」


 バツが悪そうにそう説明したバッカスに、ベルとユキが顔を見合わせる。

 ベルはルピたちがこの南の島に来るかもと聞いていたが、まさかキジムナーの集落の外に出るとは思ってもいなかった。

 ショウが、他のプレイヤーに見つからないようにと、しっかり言い聞かせているだろうとばかり。

 一方のユキも、まさかの展開にやっと理解が追いついたようで、


「えっと、ベルたそ、このことは口外禁止でいいんだよね?」


「ええ、そうね。2人には話しておくけど、今後は絶対に・・・同じことがないようにお願いします」


「ああ、すまん。油断しとった……」


「次はちゃんと戦える装備をしておくよ……」


 ゼルドとバッカスがそう言って肩を落とす。

 そんな2人とは違って、ディマリアは別の心配をしているようで、


「あの、ルピちゃんたちが怒られたりは? 私たちが悪いので、ショウ君には怒ったりしないようにお願いできますか?」


「大丈夫ですよ。むしろ『よくやった』と褒めてくれると思います」


「そう、そうですよね」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る