第471話 幸蓉の神樹
「ジュジュ〜」
「いやいや、頭を上げて。困った時はお互い様だし」
キジムナーのリーダー(?)が両膝をついて、深く頭を下げようとするのを慌てて止める。
スウィーやパーンの声かけもあって、ようやっと顔を上げてくれたキジムナー。赤髪を草を編んだシュシュで留めているけど、目つきはキリっとした男の子。
「ジュジュ」
「〜〜〜♪」
「あ、うん」
キジムナー君と両手で握手をしたところで、
【キジムナーの守護者:3SPを獲得しました】
【島民が200人を突破:5SPを獲得しました】
「は?」
「どうしました?」
「キジムナーたちもうちの島民になっちゃった」
「ぇ?」
ミオンもびっくりなんだけど、その様子が可愛い。
いやいや、守護者はともかく島民にカウントするのはバグっぽい気がする。これは問い合わせに投げておかないとかな……
「〜〜〜?」
「あ、ごめん。えっと、とりあえず攻めて来てたコボルトは、俺たちで倒したと思うけど、あれで全部なの?」
「ジュ! ジュジュ」
首を横に振って、あれで全部ってわけじゃないらしい。となると、
「ショウ君。キジムナーちゃんたちを」
「うん。助けてあげたいけど……どうするかな?」
打って出て、コボルトたちを一掃できれば一番いいんだけど、さすがに今日はもうそんな時間はない。ベル部長に伝えるのは当然として、
「とりあえず柵を直したりとかかな?」
「そうですね。私は怪我に備えて、ヒールポーションを作ろうと思います」
「ああ、いいね」
消費期限の問題があるけど、それでケチってもしょうがない。
ベル部長の話だと、しっかり封をしてあれば、だいたい一ヶ月ぐらいは保つそうだし。
「ニャニャ?」
「あー、うーん……」
「どうしました?」
「いや。シャルたちがしばらくここに残りましょうかって」
シャル以外のケット・シーは若手が多いけど、日々訓練をしているせいか、かなり強いみたいなんだよな。アトたちのフォローがあったとはいえ、コボルト相手は余裕だったし。
防衛だけを考えるなら、それが一番なのかな? 月曜から俺とミオンがしばらく来れなくなるのもあるし……
「〜〜〜?」
「ジュ。ジュジュ〜」
「え、神樹がある?」
「ぁ!」
神樹があるなら話は別。
スウィーが居てくれれば、行き来できるようになるし、滞在するのもそれほど苦にならないか。
「ジュジュ〜」
「え? 案内してくれるって……いいの?」
キジムナーたちを助けたからなのはわかるけど、そこまで一気に信用されるのもびっくりなわけで。
「ジュジュ!」
「あー、翡翠の女神様……」
「ぁ……」
ミオンが公式で翡翠の女神様になっちゃったからだろうけど、妖精たちがミオンを見ると「翡翠の女神様!?」ってなるんだよな。
「ワフ」
「〜〜〜♪」
ルピたちやみんなもOKということで、みんなで連れ立って、キジムナーの長の後をついていく。
キジムナーたちの集落、ガジュマルの大きな樹があちこちにあって、それぞれにツリーハウスが乗っていて面白い。
近くを通りがかったところで鑑定してみると【
「ジュ!」
「うわ、でっか!」
「すごいです!」
キジムナーが差した先に見えたのは巨大な幸蓉樹。高さは10m弱だけど、枝張りが30mぐらいあり、幹の太さも直径2mは超えている。
これがキジムナーたちの神樹だそうで、この樹を囲むように集落があるとのこと。
「リュ〜!」「キュキュ!」
パーンとトゥルーは自分たちの里にある神樹と比べて、その大きさに素直に感動している様子。
その一方で、スウィーとシャルはあんまり驚いてない様子で……
「ニャフ」
「え? そうなの?」
「どうしました?」
「いや、シャルたちがいた島、ラムネさんの島にもこれぐらいの大きさの神樹があったんだって」
スウィーの説明によると、神樹にもいくつかあって、翡翠の女神様が妖精たちに与えた若木を育てた神樹と、もともとあった大樹に妖精たちが集まって神樹になったものとの二種類あるんだとか。
「〜〜〜♪」
「このガジュマル、幸蓉樹はキジムナーたちが育てたから、神樹になったらしいよ」
「すごく大事にされてるんですね」
そんな話をしつつ、幸蓉の神樹の近くまで来ると、落ちてくる水滴を受け止めるような葉っぱで作られた器がいくつも並んでいる。
「これって雨水を集めてるの?」
「ジュジュ」
この神樹が雨水を集めてくれてるそうで、それを集めて飲み水にしてると。
その分、キジムナーたちが悪い虫がついたりしないよう、樹に登って害虫駆除とかしてるらしい。
「この神樹と暮らしてるんですね」
「だね」
いざという時には、うちの島への引っ越しも視野にとか考えてたけど、その選択肢は言えそうにないな。
「〜〜〜?」
「ジュジュ」
スウィーがちゃんと了解を取ってから、キジムナーと幸蓉の神樹へと近づいていく。
俺たちはちょっと手前でストップ。根っこが盛り上がってて、これ以上進むにはそれを踏まないとだし。
「〜〜〜♪」
「おおー……」
スウィーの小さな手のひらから緑色の、翡翠の色の光が溢れて神樹へと吸い込まれる。
ゆっくりと、嬉しそうに、枝が揺れ、その音がとても心地良い。
「リュ〜」「キュ〜」「ニャ〜」
パーンたちがお祈りを始めたので、俺とミオンもそれを真似ると、目の前にあった根っこがゆっくりと開いて大きな樹洞が出来上がった。
「〜〜〜♪」
「ジュジュ〜」
スウィーが妖精の道ができたことを説明してくれ、キジムナーも喜んでくれてるようで何より。
「えーっと……」
「今、午後10時前です」
「さんきゅ。すぐに帰れるようになったし、みんなで手分けしてやろうか」
「はぃ」
俺とパーンたちは柵の修理。ベッドを作るために切った木が置き去りなので、あれを運んできて使おう。
ミオン、ラズ、スウィーたち、アトたちで薬草を探してポーション作り。
トゥルーたちはキジムナーたちと魚を取りに行きたいらしいので、ルピたちに護衛をお願いした。
「ニャ?」
「シャルたちにお願いなんだけど、ここにいるキジムナーたちに困ってることがないか聞いてきてくれる?」
「ニャ!」
役割分担も決めて、みんなで1時間弱頑張ろうということになったんだけど、
「〜〜〜?」
「あー、名前。つけていいの?」
「ジュジュ!」
えーっと、俺のネーミングセンスはゼロなので、ミオンにお願いするしかないんだけど、
「ガジュ君、でどうでしょう?」
「それだ!」
うんうん。ガジュマルの樹にちなんでだろうけど、すごくしっくりくる。
やっぱりこういうのはセンスあるよなあと。
「じゃ、ガジュ。よろしくな」
「ジュ〜♪」
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