第465話 幸蓉樹の妖精

 最上階からスタートした探索は現在地下5階。


 9階は執務室と資料室で、資料室には稼働記録みたいな本というか冊子が山のように置かれていた。当然、全部読んでる暇はないのでスルー。


 8階は事務室。だだっ広い部屋に、職員室みたいに事務机が並んでたけど目新しいものはなし。


 5、6、7階は個室が多い感じで、ヒトミさんの話だと研究室の集まりらしい。

 部屋を全部見てまわりたいところだったけど、これも時間がもったいないので、各階で1部屋だけ見て終わりにした。

 こっちでは応用魔法学の本や、空間魔法、結界魔法、重力魔法の魔導書、あとは魔導刻印筆なんかが残ってたので、ベル部長が持ち帰ることに。


 2、3、4階は製作室。ここは最初に見たのでスルーして下へ。

 1階が基幹部と倉庫だけど、ぶっとい柱があるだけで倉庫は空っぽ。ヒトミさんの話だと、この柱の中には魔導線がぎっしり詰まってるらしい。


 地下へはエレベータで移動。

 地下1、2階は精錬室で、ここで作られたインゴットが上の製作室へと転送されていたようだ。

 結構な量の魔導鋼インゴットが転送魔法陣(送付専用)の上に放置されていて、回収するとしても後回しということになった。


 地下3、4階は大型作業室だけど、ここは広くなった製作室って感じだったので見るだけで終わり。

 そして、気になってた地下5階の大型転送室。ヒトミさんの話だと、この大型転送魔法陣は送付専用とのこと。


「ふーむ、ここからどこに、何を送っていたのであろうな」


「気になるところだよねー」


「あ、送る先はヒトミさんに聞けばわかるはずです。多分……」


 うちでもニーナに聞いたらわかったし。

 いや、わかったっていうのは語弊があるかも? 転移先の名前がわかった感じだっけ。


「そうなの? えっと、ヒトミさん、この転送魔法陣はどこに繋がってるの調べてもらえるかしら?」


[はい。測位情報を照会中……照会完了。転移先は北方大型魔導船造船所です。座標情報は……]


「「「は?」」」


 俺たちがびっくりしてる一方で、アズールさんが何かしら思い当たる節があるのか、考え込んでいる様子。


「ごめん。多分、竜族の支配地域だと思うんだけど、アージェンタにも聞いてみるよ」


「え、ええ、お願いします」


 分かり次第、俺に連絡が来ることになって、今日のところは戻ろうということになった。

 時間もそろそろ午後10時半だし、地下6〜9階は採掘場ということなので。


「兄上。ミオン殿に連絡を」


「りょ」


 ギルドカードを持って話しかける。


「ミオン。今、大丈夫?」


『あ、はい。終わりましたか?』


「駆け足だったけど今日のところはね。そろそろ戻るけど、そっちはどう?」


『えっと……、いろいろ話したいことが』


 何かあったっぽい?

 声の感じからしても大丈夫なんだろうけど……


「戻りましょう」


 エルさんが護衛についてるとはいえ、白竜姫様がいるもんな。


 ………

 ……

 …


「ショウ君」


「ミオン、お疲れ」


 古代遺跡を出て階段を降りると、ちょうどミオンたちも戻ってきたところっぽい。

 エルさんの腕には白竜姫様が抱かれていて、寝ちゃってるっぽいな。それはいいんだけど……


「えっと、そっちの子たちは妖精で合ってるよね?」


「はい。キジムナー君たちです」


 シャルの隣にいるのは、赤い髪に緑の目の男の子たち。葉っぱの服に木の実のネックレスがよく似合っている。


【キジムナー:友好】

『幸蓉樹の妖精。善悪を見極める目を持ち、善き者には幸福を、悪しき者には報いを与えるとされている』


 ……

 なかなかすごそうな妖精だけど、まあ、無人島スタートして普通にプレイしてれば仲良くなれる感じだよな。


「ニャニャ」


「ジュジュー♪」


「〜〜〜♪」


「うん、よろしく」


 シャルが「うちの島の主人です」って感じで紹介してくれた。

 スウィーも含めてすごく仲良くなってるみたいだけど、ベル部長もセスもいったい何がって表情。

 当然、アズールさんもなんだけど、その視線の先にはエルさんが。


「皆でアームラの実を採って食べていたんだが……」


 寝ちゃってる白竜姫様を起こさないよう、少し声を落として話すエルさん。

 みんなでアームラの林に来て、和やかなおやつタイムをしてたら、遠くからうらやましそうに覗いてたらしい。

 で、いつものようにスウィーが誘って……っていう。


「なるほど。えっと、アームラの樹って、この子たちの持ち物だったりしない? 俺たち、若木まで取っちゃったりしたけど」


「〜〜〜♪」


「ああ、ちゃんと話してオッケーもらったんだ」


 それを聞いて一安心。

 ミオンが持ってきていた甘味を分けてあげたり、シャルのおやつだった煮干しも食べたりしたそうで。トゥルーと気が合いそう。


「じゃあ、また今度来るときにおみやげを持ってこないとかな」


「はぃ」


 あ、いや、ちょっと待て。キジムナーって、この子たちだけじゃないよな?

 南の島の大きさって、多分うちの島と同じ、いや、それ以上ありそうだし、この子たちだけってことはないはず。

 スウィーに通訳してもらうと、


「ジュジュ〜」


 たくさん……

 わーっと両腕を広げられたから、かなりいるんだろうなあとは思う。


「兄上。今日のところはいったん終わりにせんか」


「あ、すまん。スウィー、俺たち帰るって伝えてくれる?」


「〜〜〜♪」


「ああ、見送りに来てくれたんだ」


 ミオンから明日また夜にって伝えてあるそうなので、その時にもう少しちゃんと話をしないとだな。


***


 リビングへと戻ってきて反省会。反省は特にしないけど。

 ヤタ先生は今日もほろ酔いで、洗い物をしに行った。


「そうそう。ミオンは『テオ・マクディル』って名前に覚えがあったりしない?」


 9階で見つけた書類に書かれてた名前。どこかで聞いた気がするんだよな。


「えっと、ニーナさんの資料室に落ちてたギルドカードの名前が……」


「あ! あー!」


 さすがミオン!

 なんのことだかさっぱりなベル部長と美姫に、うちの古代遺跡の資料室で見つけたギルドカードのことを話す。

 多分だけど、俺が持ってる『蒼月の指輪』の元の持ち主のはず……


「なるほど。であれば、兄上の『蒼月の指輪』で書類箱が開いたのも、まさにということかの」


「本来は見つけても開けられなくて、開け方を探して右往左往という想定だったのかもしれないわね」


 俺が『蒼月の指輪』を持ってきて、いきなり最上階まで来てるのが、そもそもルートとして逆走なんじゃないかっていうのが2人の意見。それはまあ否定できない……


「それよりキジムナー君たちはどうするのかしら? ショウ君の島に引っ越したり?」


「え? いや、さすがにそれは……」


 ないとも言い切れないか。

 シャルたちは元々いたラムネさんの島から、うちの島に引っ越したようなものだし、それ以外に本土で生活してる子たちもいるし。


「今度来た時にでも話してみますけど、南の島に住んでるのを無理やりとかはしないすよ」


 隣でミオンもうんうんと頷いてくれてる。

 うちの島に遊びに来たりとかしてくれると嬉しいけど……

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