第464話 いつか何処かで

「これでどうかしら?」


[はい。非常用魔晶石へのマナ充填率は100%。現在より30日の稼働が可能になりました]


 ヒトミさん曰く、注ぐマナは管理者以外でも、複数人でも大丈夫ということなので、俺、ベル部長、セスの3人で満タンにすることができた。

 さすがに結構MPが減ったので、


「ワフ〜」


「さんきゅ。もうちょっと待ってな」


 下へと続く階段を見張ってくれているルピからマナエイドを受ける。

 警備ゴーレムはすでに俺たちを敵視しないようにしてくれているし、モンスターが急に現れることもないだろうけど。


「ヒトミさんに質問なのだけど、管理者が変わることってあるのかしら?」


[はい。管理者の変更は正規の手順によるものと、そうでないものがあります]


 正規の手順はベル部長が身につけている『蒼星の指輪』を、ヒトミさんの手順に従って譲渡すること。

 で、そうでないものは保全状態になってから、別の誰かが管理者になることで、要は再起動でリセットするっていうパターン。


「当面はマナの充填を怠らねば問題はないというところかの」


「そうね。あとは、この制御室に入れる人を制限しておきたいのだけれど……」


「「あー」」


 思わず、俺とアズールさんがハモってしまう。

 いずれこの南の島を一般公開すれば、当然、この古代遺跡もバレるわけで、そうなった時のことを考えると……


「ヒトミさん。この制御室にくる人を制限はできないかしら?」


[いいえ。完全に制限はできませんが、可能な限りそう設定することはできます]


 可能な限りってどういうって話なんだけど、すでに転移エレベータは『蒼月の指輪』の最上位権限じゃないとこの階に来れなくなってるらしい。つまり俺がいないと直通は無理。

 で、一つ下の階から来るのは『蒼星の指輪』の上位権限があれば来れるんだけど、俺たち以外を排除するようにゴーレムに警備させることはできるらしい。


「ふむ。ひとまずそれで良かろうて」


「そうね。その設定でお願いできるかしら」


[はい。設定します……完了しました]


 ちなみに、下の階にはマギアイアンゴーレムというのがいるそうだ。

 魔導鋼でできてるゴーレム? かなりやばそう……


「じゃ、さっそく下を見に行こうよ!」


 わくわくしてるアズールさん、そのマギアイアンゴーレムを見たいだけなんだろうなあ……


 ………

 ……

 …


 最上階(10階)から1つ下の9階へ続く階段を下りる。

 降りたところに扉があって、そちらはベル部長の『蒼星の指輪』の上位権限でも開けることができた。

 そして、その先には結構な広さ、教室2つ分ぐらいある部屋の中央にマギアイアンゴーレムが3体。


【マギアイアンゴーレム】

『魔導鋼で作られているゴーレム。アイアンゴーレム以上の硬さを持ちつつ、魔法への耐性も高い』


「普通に来たら、これと戦って勝たないとダメだったのか……」


「無視して階段を駆け上がっても、上にはポリモゴーレムが待っておると」


 あれと戦いながら、マギアイアンゴーレムが追いかけてきたら、完全に終わりだよな。


「ヒトミさん。この子たちが排除してくれるのよね?」


[はい]


 とのことなので、頼もしい限り。欲を言えば、ポリモゴーレムも復活させたいところだけど……アズールさん次第かな?

 一番奥にあるのは、やっぱり一番偉い人がいる場所のようで、かなり大きくて高級そうな机と、やたら立派な椅子がセットで置いてある。


「ヒトミさん。この部屋の説明をお願いできるかしら?」


[はい。地上9階は管理者の執務室、本施設の記録資料の書庫で構成されています]


 ここは執務室らしい。なんか無駄に広い気がするけど……


「どういう使われ方をしていたのかしら?」


[保全状態以前の記録は破棄されているため、回答できません]


「あー、ニーナと同じか……」


「厄災で保全状態になったと考えると、それ以前からこうだったというところかのう」


 うちの島ですらマナが無くなりそうだったわけだし、この島もそうなったんだろうな。となると、ここにもアンデッドがいたり? いや、でも、ゴーレムに排除される?


「ショウ君。ちょっとこっち来てー」


「あ、はい」


 俺たちがヒトミさんと話している間に、アズールさんは机を漁ってたっぽい。

 何かを見つけたらしく、俺を呼ぶってことは『祝福を受けし者』か『最上位権限』のどっちかだろうけど。


「これって開けられるかな?」


「これは……書類箱ですかね」


「であろう。同じようなものを、アミエラ子爵の屋敷で見たことがあるぞ」


 セス曰く、魔導機密箱という、書類が劣化しないようにするための鍵付きの箱らしい。

 俺が冷蔵庫がわりに使ってる保存箱との違いは、無理に開けようとすると中身が焼却される点なんだとか……


「おー、すごいね。じゃあ、かなり重要な書類が入ってそうな気がするねえ」


 俺が開けちゃっていいのか? って思わなくもないんだけど、どうせ持ち主はいなくなってるだろうしなあ。


「じゃあ、試してみます」


 そっと手をかけると、


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。最上位管理者権限を確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 そう答えると、カチッという音と共に閉じていた蓋が軽くなる。

 アズールさん、ベル部長、セスが固唾を飲んで見守る中、ゆっくりと開けると……


「書類っぽいけど、なんだろう?」


 こういうのは手分けした方が早いよなってことで、取り出した書類の束を4つに分けて全員に渡す。

 自分の分に目を通すと……


「辞令? 『南洋海底資源採掘施設の所長に任命する』って書いてありますね。名前はテオ・マクディル……あれ?」


「どうした兄上?」


「いや、どっかで聞いたような……」


 こういう時、ミオンがいれば覚えてそうな気がするんだけどなあ。

 まあ、いいや。あとで聞いてみよう。


「こっちは議事録っぽいねえ」


「こちらもそのようだの」


「私のはどうやら契約書のようね。指定の製品を作って納品する感じかしら」


 ただ、指定の製品が何なのかは不明。不明っていうか『PD-30476』とか型番で書かれているせいでさっぱり。

 さすがにアズールさんでもわからないらしい。


「これ、どうします?」


「ひとまず、箱ごと兄上が持っておいた方が良かろう。管理者のみが閲覧可能な内容を公にするのは……」


「そうね。今はまだ早い気がするわ」


「僕も賛成かな。他の場所もちゃんと調べればわかることかもしれないし」


 セスとベル部長は暗に『先のアプデの何か』のことを指してるよな。で、アズールさんも『一足飛びはダメ』ってあたり?


「わかりました。さっきの名前の件もあるし、あとでミオンと見直してみます」


「おっけー。じゃ、まだまだ見れてない場所があるし、次へ行こう」


 1階降りて部屋を探しただけだもんな。

 このフロアの残りの部屋もあるし、さらに下もあるし、サクサク進まないと終わらないな、これ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る