第456話 南の島の美味ミルク

「キュ〜!」


「「キュキュ〜」」


 古代遺跡入り口の扉が開いて外が見えたところで、トゥルーが駆け出し、お付きのセルキーたちが追いかけていく。

 外にモンスターがいないのは分かってるけど、


「レダ、ロイ」


「「バウ!」」


 2人に護衛をお願いする。

 今日の予定は、トゥルーたちをこの南の島に連れてくるのと、スタート地点のコテージの周りの散策。

 あと、こっちでもログアウトしやすいように、簡単なベッドを用意しておこうかなと。


「じゃ、近場を散策しつつ、木材調達かな?」


「はぃ」


 今日のメンバーは。俺とミオン、ルピ、レダ、ロイ、ラズ。スウィー、パーン、シャルに、トゥルーと年長のセルキー二人。


 島の陸地へとつながる階段を下りていくと、トゥルーたちが何か相談中。


「どうしたの?」


「キュ〜。キュキュ?」


「ああ、湾内は多分大丈夫だと思うけど、しばらくはこの辺りだけにしてね。俺が手が空いたら一緒に行くから」


 このあたりに強いモンスターが出ることはないと思う。

 無人島スタートして、すぐ近くにやばい敵がいるとかない……よな?


「キュ〜♪」


「「キュキュ」」


 しっかりと返事をしてから、浅瀬の方で泳ぎ始めるトゥルーたち。

 何かあっても伝えてくれるように、レダとロイに監視員をお願いしておく。ルピもだけど、2人もちゃんと泳げるし。


「「バウ」」


 で、えーっと、


「ショウ君。こっちです」


「りょ」


 まずはミオンのスタート地点だったコテージの一室に移動し、ざっくりと部屋の中を確認する。

 しっかりした石造りなのは、塩水による劣化と流されないようにかな?

 セーフゾーンなのはうらやましいけど、家財道具が全くないのがなあ……


「リュ?」


「そうだね。ベッドぐらいはないとかな」


 広さはそこそこあるし、ダブルベッドを二つぐらいがいいかな。

 となると、木材は大きめのが2本あればってところか。


「よし。じゃ、ちょっと散策に出ようか」


「はぃ」


 ………

 ……

 …


「クルル〜♪」


「うん。どんどん落としていいよ」


 水上コテージ群を一通り散策すると、北側へと通じる道を発見したので、その道沿いに進みつつ、良さそうな樹を探している。

 その良さそうなのは、


【アレケス】

『暖かい地方に広く分布する樹木。幹は建材、葉は各種素材、実は食用になる』


 前にヤタ先生が気づいてたけど、ヤシで間違いなさそう。

 スウィーが選んだ一本を伐採する前に、ラズに実の収穫をお願いしているところ。


「おっと」


 落ちてきたアレケスの実、結構ずっしりと重い。

 キャッチしてはミオン、パーン、シャルに渡して行くんだけど、樹が大きいからか結構な数が。


「こんなに取れるんですね」


「うん、俺も驚いてる」


 まあ、明日にはベル部長たちが来るし、余ったら持ち帰ればいいんだけど。


「〜〜〜?」


「中身の果汁ならすぐ飲めるよ。ちょっと待って」


 鑑定すると【アレケスの実】って出てて、ちゃんと食用と書かれてるんだけど、リアルのココナッツって味が微妙って聞いた記憶があるんだよな。

 軽く手で叩くとコツコツといい音がしたので、剣鉈を取り出して先端を切り落とす。


「おっとと! ミオン、空のコップある?」


「はぃ」


 穴を開けると果汁がぎっしり詰まっていたので、こぼさないようにコップへと。

 試しに少しだけ飲んでみると……


「なんか微妙な味。不味くはないけど……」


「そうなんです?」


「飲んでみる?」


「は、はぃ」


 ミオンがちょっとだけ口をつけ、小首をかしげてからもう一口。

 やっぱり不思議そうな顔をして、


「すごく薄いスポーツドリンクでしょうか?」


「あー、似てる。あとは果肉をココナッツミルク、アレケスミルクにできるかだけど……ちょっと待ってね」


「はぃ」


 ミオンが不思議そうな顔をしてるけど、前もって調べておいたので、魔導食材加工器(フードプロセッサー)を持ってきてある。

 中身の白い果肉とさっきの果汁を入れてから、蓋をしてスイッチオン。しばし待つ……


「お? 良さそう」


 鑑定してみると、


【アレケスミルク】

『アレケスの果汁と固形胚乳から作られた甘い乳状の食材。

 料理:飲料、調味料として利用可能』


 繊維質がかなり残ってるので、亜魔布でぎゅっと絞り濾してコップへと。


「おお、ほんのり甘くて美味しい!」


 そのままミオンに渡すと、


「美味しいです!」


「〜〜〜!」


 当然のようにスウィーが自分にもと騒ぎ始めたので、みんなで回し飲み。

 トゥルーたちが来るかもだし、魔導フードプロセッサーを渡して、作り方をざっくりと説明。


「足りなくなったらお願い」


「はぃ」


「じゃあ、俺たちは樹を切るから、ちょっと離れててね」


 俺とパーン、ラズで伐採作業をしてる間、ミオンたちはミルクタイムということで。


「えーっと、こっちに倒す感じでいこうか」


「リュ」


 パーンには倒れる方向を制御するためのロープを引いてもらっている。

 ラズがいてくれるおかげで、高い場所にロープをかけるとかも楽になったのが嬉しい。

 ガッツリと斧を振ることしばし……


「パーン、ラズ。そろそろ倒すよ」


「リュ!」「クルル〜」


 2人が離れたのを確認し、幹をぐっと押し込んで、倒れていくアレケスを見守る。上の方が重そうだからか、倒れ始めると勢いがすごい。

 ズシーンと大きな音を立てて地面へと横たわったところで、パーンがさっそく枝打ちを始めてくれる。


「ショウ君」


「ん?」


「スウィーちゃんたちと他の場所を見てきていいですか?」


「あー、そうだね。ルピもついていってくれる?」


「ワフ!」


 ルピ、スウィー、シャルがついていけば大丈夫だよな。

 あんまり遠くまで行かないようにっていうのと、何かあったらギルドカードで連絡ってことで、ミオンたちを見送る。


「じゃ、俺たちは続きをやろうか」


「リュ!」「クルル〜♪」


 ………

 ……

 …


 大きなアレケスの樹を2本切って、材木にするところまで完了。いったん、コテージの方まで運んでおきたいところだけど……


「そろそろトゥルーたちも呼ぼうか。パーン、お願いできる?」


「リュ」


 トゥルーたちも満足しただろうし、ミオンたちもそろそろ戻ってくる頃だと思うんだけど……


『ショウ君。今、大丈夫ですか?』


「あ、ミオン、大丈夫だよ。どうしたの? 何かあった?」


『建物の屋根が見えるんです。多分、教会だと思います』


「え!?」

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