水曜日
第455話 いろんな海を見に行こう
合宿三日目。
ぽつぽつと雨が降っていて、それはそれで風情がある。
朝ごはんを食べてから、オーナーさんの運転する車で市街地へと。
「雨の時の海ってこんな感じなんですね」
「不思議です」
市街地まで少し遠回りになるが、海沿いのルートを選んでくれた。
昨日は青く輝いていた海がグレーに染まっていて、なんだか物悲しさを感じる。
「ショウ君は、島で雨の日はどうしてるんだい?」
「えーっと、屋敷か遺跡の鍛冶場で何か作ってることが多いですね。そういや、本土で雨が降ってる時って?」
「ダンジョンに潜る分には、あまりお天気は関係ないかしらね」
「そうよの。野外のクエストは受けづらくなるが、エミリー嬢の家庭教師もあるので、やることには困らんのう」
野外の討伐クエストとかは、やっぱり泥まみれになるから受ける人も減るそうだ。
とはいえ、雨が続くと報酬が若干上乗せされたりと、苦労に見合うだけの実入りはあるんだとか。
そんな話をしているうちに市街地へと入った。
「ここが一番お勧めのお土産屋さ。まあ、島の駅だから無難ともいうけどね」
左折した車が駐車場へと向かう。
「あー、道の駅じゃなくて、島の駅なんですね」
雰囲気はじいちゃんちに行く途中にある道の駅と同じ。
お土産屋だけでなく、フードコートや野菜の直売所も一緒にあるパターンだ。
「ではー、適当に見て回るということでー」
「フードコートで待ってるから、ゆっくりと見て回るといいよ」
オーナーがそう言ってフードコートへと向かう。
ヤタ先生はというと、俺たちをほったらかして、お酒が並んでるコーナーへ……
「去年もそうだったわ。気にせず見て回りましょ」
「あ、はい」
ということで、まずはぐるっと一周。
シークヮーサージュース、島らっきょうの漬物なんかは買おうと思ってたので、ちゃんとあるかどうかを確認。
それ以外にも塩だったり、黒糖だったり、ジャムだったりと欲しい物が結構たくさん……
「お土産は接待交際費に計上できるから、セスちゃんの分は私が、ショウ君の分はミオンさんがお願いね」
「はぃ」
「いいんだ、それって」
椿さんからも「何か買ったら領収書を」って言われてたけど、お土産でもいいらしい。
そういう事ならと、欲しい物は遠慮せず買う方向で。
なんか、美姫とベル部長が琉球ガラスのストラップ? キーホルダー? どれがキャライメージ合う合わないって話をしてるけど、それ大事なことなのかな……
***
天気が良くなれば観光にって話だったんだけど、雨足が強まったので明日に持ち越し。
島の駅であれこれ見てる時間も長かったので、そのままフードコートでお昼を食べ、まっすぐ戻ってきた。
ソーキそば、美味しかったから家でも作ってみよう。麺は買っておいたし。
「ちょっと行ってトゥルーに聞いてくるよ」
「はぃ」
俺、ルピ、スウィーの3人で神樹経由でセルキーの里へ行き、トゥルーに南の島に行ってみたいか聞いてくる予定。
行きたいという返事なら、ギルドカードを使ってミオンに連絡。大型転送室で合流して南の島へという感じ。
ミオンはしばらく会えてないクロ、ラケ、アトのギリー・ドゥー三姉妹に近況報告に行きたいとのことで、レダとロイ、シャルに護衛についてもらう方向で。
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」
こういう玄関のやりとりって普通だよな?
………
……
…
「よっと」
神樹の
先に出たルピが、近くにセルキーがいないか確認してくれてるけど、いないっぽいかな?
「ワフ?」
「洞窟まで行こうか。途中で誰かと会うだろうし」
「〜〜〜♪」
のんびりとオリーブの樹々を歩いていると、予想通りというか収穫中のセルキーたちに遭遇。
話を聞くと、トゥルーたちは今、漁に出ているということで、洞窟はまっすぐ抜けて港の方まで歩いてきた。
「お、あれかな? おーい!」
「ワオォ〜ン」
俺の呼びかけは微妙だったけど、ルピの遠吠えはしっかり聞こえたようで、波間に浮かんでいたセルキーたちが気づいてくれた。
「おおー、速い……」
セルキーたちが一斉に岸へと向かって泳いでくる姿はなかなかに壮観。
そして、その先頭には俺が渡した三叉槍を持ったトゥルーの姿が。
「キュ〜♪」
「久しぶりでごめんな」
飛びついてきたトゥルーの頭を撫でつつ、追いかけてきたセルキーたちを待つ。
なんか、魚を抱えてる子とかもいて、ちょっと申し訳ない感じに。
「えっと、ちょっと落ち着こうか。話したいことがあるんだ」
「キュ〜」
トゥルーと年長の2人以外には漁の続きに戻ってもらい、俺たちは海岸べりに座る。
まずは南の島の話、以前、トゥルーにも方角を確認してもらったけど、その先にあった島のことを話す。
ミオンが来た時に話せば良かったんだけど、あの時はミオン=翡翠の女神様ってことで騒ぎになっちゃったからなあ。
「向こうにも綺麗な海があるんだけど、トゥルーたち行ってみたい?」
「キュ!?」
まあ、うん、びっくりするよな。
ひとまず落ち着くのを待ってから、どうやって向こうに行くかとかを説明する。
スウィーがフォローの説明を入れてくれるのがありがたい。
「キュキュ?」
「うーん、全員はちょっと大変かな? 初めての場所になるし、できればトゥルーと護衛の2人がいいかなと思うんだけど」
「「キュキュ!」」
その提案に深く頷いてくれる2人。
一応、その南の島も今後ずっと行ける場所じゃないかもってことは話しておく。
地下10階にある転移魔法陣は、ベル部長が公表する前に回収する予定だし、俺が転移魔法を使えるようになるには、もうしばらくかかりそうだし……
「〜〜〜♪」
「ああ、そうか。神樹を見つければいけない事もないのか」
こっちからは行けて、向こうからはいけない道になるんだよな。
高位の妖精はスウィーぐらいだし(あとトゥルーも?)、そもそも島の神樹には普通に到達できないもんな。
「ワフ」
「そうだね。まずは連絡かな。ミオン?」
『はぃ。行きますか?』
話が早くて助かる。
向こうもちょうど戻ってきて、連絡しようかと思ってたところらしい。
「じゃ、さっそく行こうか」
「キュ〜♪」「「キュキュ!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます