第449話 最上位管理者権限

 しっかり昼寝し、夕方には軽く散歩。

 美味しい夕食もいただいて、準備万端でIROへと。

 ちなみに、ヤタ先生は今日も飲みらしい……


「じゃあ、これをお願いします。木彫りのルピはちょっと遅れるかもしれないんで、その時はおまけをつけるって伝えてもらえますか?」


「おっけー」


 と相変わらず軽いアズールさん。

 魔銀ミスリルのインゴットを、今後のことも考えて3本渡しておいた。次にまた鉱石の依頼を出すときに、報酬に使ってもらうってことで。

 で、今日は本腰を入れて古代遺跡の探索の予定だけど、


「それで、今日は一番上を見に行こうかと思ってるんですけど、いいです?」


「うん、いいよー。あ、一応、理由は聞かせて?」


「単に下の方の階層には制御室はないんじゃないかなってだけなんですが……」


 うちの島や魔術士の塔みたいに上にも階層がある古代遺跡なら、最上階が有力候補だろうという話を。


「なるほど。そういえば、死霊都市のアレも地中に沈むまでは、あそこが最上階だったもんね」


 今はその最上階が地上で、以前は塔だった部分が地下に広がるダンジョンとなっている。

 その辺の歴史に興味がある人たちが調べたところによると、50階あるんじゃないかって話だそうで、現状は地下20階を目指してるぐらいなんだとか。


「こっちは準備オッケーよ」


「うむ」


 ベル部長とセスは昨日と変わらず。

 俺とミオンに加えて、ルピたち幻獣チーム、スウィーたち妖精チームが揃っている。


「じゃ、行きましょう」


「ワフ!」


「おっけー」


 いつも通り、俺、ルピ、ラズが斥候役で先行。

 セスとレダ、ロイ、パーンがいつでも前に出れるように後ろに並ぶ。

 その後ろにベル部長、ミオンとスウィー、シャルがいて、最後尾をアズールさんが守ってくれる形で。

 まあ、何かあるとして、最上階に行ってからだろうけど。


「じゃ、乗ってください」


 何事もなく転移エレベータに到着。

 全員が乗り込んだところで、


「最上階のボタンが反応しないわね……」


「え?」


 ベル部長が最上階、△10のボタンを押してるんだけど……反応なし。

 俺が使ってる時は、押したボタンだけが点灯状態になって、その後すぐに転移が発動してたと思うんだけど……


「えっと、魔術士の塔の時と同じです?」


「どうかしら? あの時はボタンが暗くなっていたから、押してダメなのは当然だと思ったのだけれど……」


 明るいのに押してもダメだと「なんで?」だよな。

 不思議に思ったアズールさんが覗き込んで鑑定してるのかな? でも、首を傾げてるし、いまいち原因は掴めてないっぽい?


「ショウ君」


「ん?」


 ミオンが俺の左手を取って……ああ、そういうことか?

 ベル部長に変わって、俺がボタンをポチっと押すと、


「あっ」


「おお!」


 △10だけが点灯し、ふっと体が軽くなって……転移が終わったっぽい。


「ねえねえ? どういうことだったの?」


「えーっと、多分、俺が持ってる『蒼月の指輪』の最上位管理者権限が必要だったんじゃないかなって。だよね?」


「はぃ」


 その話にベル部長もセスも驚いてて……あれ? 管理者権限の指輪の話ってしてなかったっけ。

 やらかしてたんじゃないかっていう視線が痛い……


「ワフ!」


「っ、ごめん。詳しい話は後で」


 地上10階フロアへの転移はとっくに終わっていて、エレベータの扉が開けっぱなしだ。

 ぱっと見、エレベーターフロアっぽいし、特に敵がいるような感じはしないけど、かなり不用心だったと思う。


「そうね」


「ルピ、レダ、ロイ」


「ワフ」「「バウ」」


 先んじて降りて、前方と左右を警戒してくれる。

 感知共有に異常は無しだけど、それ以前に広くない。というか狭いし、前方に扉が一つだけあるという。


「お約束ではあるが……」


「だよなあ」


 開けたらボスってパターンかな?

 慎重に近寄って、まずは開ける前にミオンに扉を確認してもらう。


「権限が必要なものだと思います」


「りょ。やっぱり最上位管理者権限がないとダメってパターンかな」


 本当なら下のフロアで手に入れるとかかな?

 それか非常階段が別にあって、ここ以外の入り口があるとか。


「開けるわよね?」


「ですね。えっと……」


「はいはい。僕はまあ、みんなが危ないようなら参戦かな? 加減をミスって塔が壊れちゃうとまずいからね」


「あ、はい……」


 その答えにセスもベル部長も頷いてくれる。てか、強すぎてチート攻略になりかねないもんな。ということで、突入のための準備を。

 スウィーには念の為のあかりを出してもらい、全員にミオンの加護がかけられる。


「じゃ、俺が開けてルピたちと入るから」


「うむ。我が続いて、何かあった時は前に出ようぞ」


 ラズは相変わらずフードにいて、俺の死角を補ってくれる役周り。

 パーンとシャルはミオンのそばにいてもらって、相手によっては参戦で。


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。最上位管理者権限を確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 ふっと扉が軽くなったのを確認し、ゆっくりと、でも少しだけ押し開ける。

 扉の向こうは暗く、スウィーがすかさずあかりを出して中へと入れてくれた。


「ワフ」


 まずはルピが入り、レダとロイがするりと続く。

 感知共有に反応は無し。照らされてる範囲には何も見えず、だだっ広いんだろうと推測。


「〜〜〜?」


「俺がやるよ。広いし2つあったほうがいいかな?」


 光の精霊のあかりを2つ、天井近くに出したことで、ふわっと部屋全体が明るくなり、


「「「え?」」」


 かなり大きな、直径2mほどの金属の球が部屋の中央に鎮座していた。


「なんだこれ……」


 表面の光沢を見る感じ魔導具っぽい?

 慎重にゆっくりと近づくと……


[警告。最上位権限所持者の接近を確認。解除コードを通知してください]


「え?」


 解除コードってなんだ?

 振り向いてベル部長を見ても、当然、首を横に振っているし、ミオンも同じく。

 アズールさんはなんだかワクワクしてるっぽい表情で……ダメっぽい。


「兄上も心当たりはないのだな?」


「ないな。いや、待て……」


 うちの島でロックが掛かってた扉の解錠コードって『4725』だったよな?

 みんな他に思い当たる何かがあるわけでもないみたいだし……


「4725」


[解除コード不一致。侵入者を排除します]


「うわ、ごめん!」


 全然違った!


「しょうがあるまい! その方が我の出番もあるというものよ!」


 セスが俺の前に立って、大盾を構える。

 この球体がどういう攻撃してくるんだろうと思ったら、流体っぽく不定形になって、そのまま四つ足の獣のような姿に変身した。

 鑑定するにはちょっと遠いけど【ポリモゴーレム】という赤いネームプレートが浮かぶ。


「おお! すごい!」


 ……アズールさん、嬉しそうだなあ。

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