火曜日

第448話 南の島での休息タイム

「ぁ、あの、どうですか?」


「うん、すごく似合ってる」


 ミオンの水着、タンキニと呼ばれるタイプだけど、フレアタイプなのでお嬢様っぽい。

 色もグリーンの濃淡と白の花柄がマッチしてて、これってやっぱり翡翠の女神様モチーフ?


「ああ、そうか。いいんちょが選んでくれたのこれ?」


「はぃ」


 いいんちょグッジョブと心の中で感謝しておこう。


 二日目も快晴。

 ビーチにはほどほどに人がいる感じだけど、この砂浜はベル部長の叔父さんであるオーナーさんや、近所の宿泊施設で譲り合って使う感じだそうで。


「去年は台風で、うちはハズレを引いちゃってね」


「そういうこともあるんですね」


 オーナーさん(ゴルドお姉様)は、かりゆしウェアに短パンがとてもよく似合っている。

 腕も足もガッツリと筋肉がついてて……、俺もちょっと筋トレしようかな?


「ショウ君。ミオンさん以外への反応はなしなの?」


「あー、すいません。似合ってますよ」


「……適当すぎよ」


「兄上にその手の反応を期待しても無駄よの」


 ベル部長はパープルのビキニにパープルのロングパレオっていう、すごく魔女を意識した感じのコーディネート。

 美姫はチェック柄のワンピースタイプだけど、これは奈緒ちゃんとお揃いだそうだ。前に柏原家とショッピングに行った時に買ってもらったやつ。


「もうちょっと男子高校生らしい反応があってもいいと思いますねー」


 そんなことを言うヤタ先生は全く泳ぐ気がないらしく、かりゆしなワンピースを着つつも、アームカバーに日傘っていう……お肌を気にしてらっしゃる感じ。


「伊勢家は姉上が裸族だった時期があるのでな。女子おなごの肌など見ても、兄上が動揺することなどないのだ」


「おい、うちの恥部をバラすな」


「「え……」」


 ベル部長もオーナーさんもドン引きしてるじゃん。

 ヤタ先生は知ってたのかニコニコしてるけど、ミオンは……裸族の意味がわかってないっぽい。


「?」


「あー……。真白姉って、風呂上がりとかにパンツ一丁で過ごす人だったんだよ。もちろん家の中だけだよ? あとさすがに高校上がってからはやめてくれたし」


「ぇ……」


 そういう反応になるよな!


「あー、お昼にまた来るから、めいっぱい楽しんでくれ」


「はいー。ありがとうございますー」


 オーナーさんが、苦笑いしつつ戻っていった。

 お昼時になったら、女将さんがお弁当を持ってきてくれるらしい。


「ではー、あとは適当にー。海へ入る前は準備運動を忘れずにですよー」


 と、大きなパラソルの下に陣取ったヤタ先生が、クーラーボックスから缶ビールをプシュッと。


「ヤタ先生……」


「大丈夫ですよー。ノンアルですからー」


 うん。あっちはほっとこう。


「そういえば、ミオンは泳げるの?」


「ぃぇ……」


「あ、そうなんだ。泳ぐ練習する? それとも……」


 と用意してくれてあった浮き輪とポンプを手に、美姫がやってきた。


「せっかく南の島まで来て、泳ぎの練習もなかろう」


「ん」


 まあ、そういうことなら、浅瀬でのんびりかな。

 そういえば、島の南の砂浜でも海水浴とかできるんだよな。

 なんなら、トゥルーたちとってのもあるし、ちょっと考えとくか……


「ベル殿は普通に泳げるのだな」


「ええ。こう見えてスポーツは得意な方よ?」


 大きなビーチエアマットを持ってきたベル部長なんだけど、それを俺に預けて素潜りしたりと、普段からは想像できないアクティブさ。


「へー。それなら魔法剣士とかもありだったような……」


「近接職はダメね。チュートリアルの戦闘で無理ってなったもの」


 職業適性みたいなのを見るために、冒険者ギルドでチュートリアルを受けるんだけど、近接攻撃が怖いらしい。


「美姫ちゃんは平気だったの?」


「うむ。キャラも前衛メインを考えて作っておったのでな」


「そういや、お前、痛覚設定も最大まで上げてみたりしてたな」


 ドヤ顔の美姫にミオンもベル部長も驚いている。

 わざわざそんなことするプレイヤーいるのかよっていう……


「ちなみに姉上は痛覚設定を最大まで上げたままだぞ」


「マジか……」


 曰く、籠手で攻撃を受ける時の感度を上げるためらしい。そこまで必死になってるのかよ。

 ちなみに、その真白姉は北陸、金沢にいるとのこと。なんでも、シーズンさんの実家が染物屋だそうで……加賀友禅? 本物の由緒あるお嬢様らしい。


「裁縫?」


「ああ、そういえば、シーズンさんって裁縫スキルでトップクラスなんだっけ」


「うむ。すでに上位スキルの工芸(裁縫)も高レベルになっておる」


「マリーさんが討伐したレアモンスターの素材を扱ってるせいかしらね」


 そんな感じで、結局、泳ぐっていうよりは、浅いところでパシャパシャしながら雑談してる程度の海水浴。


「お昼にしましょー」


 とヤタ先生から声がかかり、砂浜へと戻る。

 いつの間にか来ていた女将さんが、シートの上にお弁当を広げてくれて、結構な量があって大丈夫かな、これ。


「どんどん食べておくれ。余ったら夜食にでもするといいさ」


「じゃー、いただきましょー」


「「「いただきます」」」


 まずはシンプルにおにぎりを。

 塩昆布が食欲をそそるやつ……


「美味しい。おかかの味がすごい……」


「そりゃそうさ。この辺で獲れたカツオで作ったやつだからさね!」


 それ以外のおかずもどれも美味しんだよなあ。


「ま、海で食べるものはなんでも美味しいもんさ」


 そう言って豪快に笑う女将さん。

 ベル部長も美姫も、そしてミオンも美味しそうに食べている。

 ひとしきり遊んでのお昼だし、少し濃い味付けなのが美味しいのは確かだけど、女将さんの料理の腕もありそうだよな。


「午後はどうしますかー?」


「もう少し遊ぶ? それとも宿に戻って昼寝なんてのもいいわよ」


「あー、たしかに」


 泳ぐと眠くなるよな。

 しかも、ご飯を食べたら余計にだし、なんなら、美姫はすでに眠くなりつつあるのか、瞼が少し下がり気味……


「戻って昼寝にしようか。夜はまた大変だろうし」


「はぃ」


「うむうむ……」


 うん、美姫はもうダメだな。

 俺も眠くなってきたし、しっかり昼寝して夜に備えようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る