土曜日

第435話 妖精たちとのんびり準備

 港へと繋がる坂道を下りていくと、セルキーたちが手を振って迎えてくれる。

 スウィーたちはカムラスの樹の方へと飛んでいき、ラズ、レダ、ロイがそれを追いかけるのを見送る。


「キュ〜!」


「お〜!」


 飛びついてきたトゥルーを受け止めたのはいいんだけど、


「キュ?」


「ごめん。ミオンは今日は来てないんだ」


 土曜の昼なので、ミオンはボイストレーニングの日。

 つまり屋敷でお留守番ってことなんだけど、夜のライブが終わったら、スウィーとシャルに迎えに行ってもらうつもりでいる。

 そのことを伝えると嬉しそうにしてくれるトゥルー。ミオンにも懐いてくれたみたいで良かった。


「キュ〜」


「うん。じゃあ、ちょっと船を出してくるから待ってて」


 旧酒場に荷物を置いて、さっそく……の前にワインを仕込んでおこう。

 ワイン樽用の資材は準備してきたので、自作複製スキルでサクッと作り、その中にグレイプルをたっぷり詰め込んでセット。


「ウニャ?」


「ん、シャル、どうしたの? スウィーの方はいいの?」


「ニャニャ。ニャウ?」


 あっちにはレダさんとロイさんがいるから大丈夫ですとのこと。

 それよりも、俺がお酒を作ろうとしてるのが気になってるらしい。


「シャルはお酒飲めるんだよね?」


「ニャウ」


 酒の味にはうるさい方ですと、ちょっとドヤ顔っぽいのが可愛い。

 でも、そういうことなら、


「前にスウィーとフェアリーの花蜜酒を作ったけど、あれってシャルがこれを操作したの?」


「ニャ……」


「いや、怒ってない怒ってない。というか、余ってる作物はお酒にすれば長持ちするし、贈り物にも使えるから、シャルたちにお願いしたいんだけど」


「ニャ!」


 味もよくわからない俺よりも、シャルに任せた方がいい気がする。

 問題は出来上がった酒樽をどうやって運ぶかなんだよな。俺には収納拡張をかけたインベントリがあるし、STRもかなりあげてるし。

 まあ、当面はもう一つの空っぽの倉庫の方に寝かせておけばいいか……


「っと、じゃあ、中サイズの樽は量産しておくから、シャルが好きなように使っていいよ。スウィーたちとも相談して……あ、フェアリーの花蜜酒は禁止ね」


 あれはいろいろとヤバすぎるので当面禁止にしておこう。

 それ以外の普通のお酒なら、俺がいない間も神樹を使って行き来してくれてるついでってことで。


 ………

 ……

 …


「トゥルー! そろそろ終わりにしようー!」


「キュ〜!」


 小型魔導船の甲板に並ぶ木箱。

 氷と一緒にいろんな魚が並んでいて、改めてセルキーたちは凄いなあと。


「「「キュキュ〜」」」


「ありがとなー」


 戻っていく船に並走、もとい並泳(?)してくれるセルキーたち。

 可愛いんだけど、トライデントが様になっててかっこいい。


 港に着くとケット・シーたちが木箱を運んでくれ、その先ではセルキーの女の子たちが魚を選り分けている。

 手のひらサイズの小魚は煮干しにしてもらって、主にケット・シーたちのおやつになる予定。

 出汁に使うっていう手もあるんだけど醤油がなあ……

 昆布、鰹節、煮干しもあって、大豆もあるのに醤油がないのが辛い。あとみりん。


「キュキュ?」


「あ、大きい魚は切り身にしておいてくれる? 今日はみんなで海鮮鍋にしよう」


「「「キュ〜!」」」


 海鮮鍋だけどちょっと洋風なトマト鍋と、スウィーたちには甘いコーンポタージュを作るつもり。

 本番が始まる前に用意できればいいし、残りの時間はどうしようかな……


「〜〜〜♪」「ニャ」


「ん? お酒できた?」


「ニャフ。ニャーニャ」


 先にセットしたグレイプルワインは出来上がったので倉庫に置いてくれたと。

 で、新しく仕込んだお酒が出来上がったので見て欲しいと。

 どれどれ……


【アクアビット(ウリシュク栽培)】

『ウリシュクが育てたオーダプラから作られた酒。香草や薬草を加えることもある。度数が非常に高いので注意。

 料理:調味料として利用可能』


 そういえば、前に試そうと思って忘れてたお酒だ、これ。

 度数が非常に高いってあるから、バーボンと同じでアージェンタさん向けの贈り物にかな?


「〜〜〜?」


「うん、問題ないよ。ありがとう」


 スウィーにオッケーを出して、2人を見送る。

 ああ、そうだ。トゥルーたちにその話をしておかないと。


「トゥルー。空いてる方の倉庫にお酒を置いておくけど、セルキーたちってお酒は?」


「キュキュ」


「あ、飲まないんだ」


 ブルブルと首を振るトゥルー。

 お酒は全くダメというわけではないけど、酔ってると泳げなくなるので基本的に飲まないらしい。まあ、酔って泳ぐのって、めっちゃ危険だっていうもんな。

 っと、そうだ。思い出した!


「トゥルー、これ見て?」


「キュ?」


 インベントリから取り出したのは、まあまあ完成品に近づいてきた木彫りのルピ。


「キュ〜♪」


「ありがとう。んで、トゥルーもモデルになって欲しいんだけど、いいかな?」


「キュ!?」


 驚いてるけど、専用のトライデントを持ったトゥルーのカッコ可愛いのを作りたい。

 トゥルーは嬉しいけど恥ずかしい感じ?


「〜〜〜?」


「キュ〜」


 私の分は作ってくれないのと戻ってきたスウィー。

 トゥルーもそれに賛成というか、スウィーを先にって主張なんだけど、


「いや、島に来た順番的にもスウィーが先だとは思うけど、フェアリーって羽の部分が難しいから、ちょっと後にまわしたいんだよ。スウィーだって、羽が折れたりしたら嫌でしょ?」


「〜〜〜♪」


 トゥルーを先にする理由を話すと、そういうことならと納得してくれた。

 羽の部分は依頼した水晶が届いたら、そっちでも試してみたいんだよなあ。

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