閑話:定例推し活報告会
プレイヤーには『死霊都市』と呼ばれ続けているが、すでにその面影はなく、朽ちていた建物はできるだけ綺麗に修復されている。
それらはプレイヤー間の同意によって『所有』しているとみなされ、売買や賃貸といった土地建物取引すら行われるようになっていた。
死霊都市南区。大通りに面した一等地。
かつての時代もその立地の良さを活かした店舗であったであろうそれも、今また多くのプレイヤーに愛されるレストランとして復活していた。
「いらっしゃいませ! あ、オーナーは2階の一番奥の部屋でお待ちです」
「ありがとう」
若い商人風の男、デイトロンはウェイトレスに笑顔を返して階段を上る。
1階は食堂風になっており、これから死霊都市の地下ダンジョンへ潜るものたちや、潜り終えて祝杯をあげるものたちで賑わっている。
2階は個室に区切られており、その一番奥はこの建物の所有者、プレイヤーズギルド『リヴァンデリ』の招待客専用の部屋だ。
軽くノックをし、
「どうぞー」
と返ってきたのを確認してから扉を開ける。
「あれ? みんな揃ってるってことは遅刻した?」
「いや、時間ぴったりだね。他のみんなが早かっただけさ」
そう穏やかに答えるのは『リヴァンデリ』のギルドマスター、『三ツ星』マスターシェフ。そして、
「それだけ事態を重く見てるってことだよー」
「あのスレはあかんやろ。早めに対処せな危ないわ……」
「うむ」
「島からもたらされる情報もそうですが、それ以上に我々ファンの癒しが無くなっては困ります」
『伯楽』ブルーシャ、『運び屋』リーパ、『山師』モルト、『司書』ミイ。
それぞれがクローズドベータ、もしくは、限定オープンからスタートしてる著名プレイヤーだ。
「じゃ、まずはいつも通り報告から入ろうか」
円卓に座る6人。
マスターシェフから順に、時計回りにそれぞれの活動報告を行う。
そう、彼らの『推し活』を……
………
……
…
「では、今回のあのスレッドの戯言に、氷姫アンシアは絡んでいないんですね?」
「全く関係ないとまでは言えんけど、あのスレで騒いどるんは魔王国スタートした新人連中やな。魔王都の酒場でめっちゃイキっとったわ」
「ふん。若いのう……」
ミイ、リーパ、モルトの会話を聞いて、ブルーシャが首をかしげる。
「いくら夏休みが始まったからといって、最近の若い子ってそこまでアレだったっけ?」
「MMO、いや、MOとかもやったことないのかもね」
とマスターシェフ。そこに、
「まあ、これはちょっとリアル寄りの話なんだけどね……」
デイトロンから話されたのは、夏休みを利用してIROでバーチャルアイドル活動をしてみようという人が増えているという話だった。
「特に大学生が増えてる感じだね。まあ、自分の口座とか持つ年齢だし、ゲームで遊びつつ、配信で小銭を稼ごうみたいな感じかな」
「なんやそれ」
「それ自体は別に悪いことではないと思いますが、再生数を稼ごうとか注目を集めようとかいう目的での炎上狙いなら……」
「お灸を据えねばなるまいて」
鼻息荒くそう言い放つモルト。
「まあまあ、ひとまずクールダウンしようよ。他人へのプレイ内容の強制なんてのは、運営が対処すべき問題だからね。一歩間違えば恐喝に該当するわけだし」
「それはそうだけどー」
「収まりがつきません」
デイトロンが宥めるが、ブルーシャ、ミイの女性陣は不満そうな顔を崩さない。
その様子に苦笑いする男性陣。
「それで、これからどうするんだい?」
「基本は様子見でいいと思う。ショウ君とミオンちゃんには、魔女ベルのサポートがあるみたいだし、いざとなったらUZUMEが黙ってないと思うよ」
「じゃ、その『文句が多い子たち』は見かけてもスルー?」
「いや、そこは『まさか口だけじゃないよね? 氷姫アンシアの島にでも行けば?』って誘導でいいんじゃないかな」
薄く笑ってそう答えるデイトロン。
「なんかまた悪いこと考えとるん? 怖いわ〜」
「アンシアさんが見つけた島ですが、おそらく動画に出ていた古代遺跡以外に目ぼしいものはないと思います」
ミイがすかさずそう答える。
彼女の調べによると、映っていた景色や古代遺跡の様子から島を特定。そこにあるのは、かなり古いタイプの採掘施設だろうという話だ。
「採掘施設じゃと? ショウ君の島のように
「いえ。私が調べた文献では
「ほーん。アンシアはそれがわかっとって人足が欲しいだけか。ほなまあ、頑張って掘ってもらおか。どうせ揉めるやろうけど、アンシアが困る分にはどうでもええわ」
「うーん、そっちはいいけど、幻獣とか妖精がいる可能性は?」
「そちらは何ともですが、彼らの対応次第では、またシャル君たちのように島から逃げ出すかもしれません」
そう困った顔で返すミイに、なんとも微妙な表情になる一同。
流石に放置は問題があると思ったのか、
「一応、うちのメンバーに見に行ってもらうー?」
「お願いします。無理のない範囲でいいですよ」
『伯楽』の通り名を持つブルーシャは、ショウのおかげで取れた調教スキルを最大レベルまで上げており、かつ、厩舎も営むギルドマスターだ。
彼女と彼女の仲間たちがいれば、幻獣や妖精の保護も任せられるだろうと、他のメンバーも納得する。
「じゃあ、今日はそんなところかい?」
「ああ、もう一つ、お願いしたいことがあるんだよ」
そう切り出すデイトロンに皆が不思議そうな顔をする。
必要な資金の調達&提供は行うが、個々人にこうして欲しいという要望を出すのは珍しいからだ。
「ゲーム内じゃないんだけどね。例のスレッドが匿名投稿不可になるよう、要望を出して欲しいんだよね。できるだけ多くの人を誘って欲しい」
その発言の意図を、他の全員が深く理解した。
「了解。実は騒いでる人は大していませんでしたってオチかもだね」
「ふん。10人いるかどうかも怪しいぞい」
「いいなー。学生さん、暇でさー」
「フォーラムなんかに張り付いてるから、いろんなレベルが上がらないんですよ……」
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