第434話 旄羊毛の良質なローブ

 夕飯を終え、洗い物も済ませてログイン。

 なんだけど、ゲーム内はあいにくの雨……


「うーん、どうしようかな? ミオンはどうする?」


「私はローブを仕上げます」


「もう出来そう?」


「はぃ」


 クロ、ラケ、アトたちと一緒に作っていたローブが完成するらしいので、それは楽しみにしておくことに。

 俺は……ルピの木彫りを作るかな。明日のライブで報酬の一例(?)として、これでいいのかってことを確認したい。

 ダメだったら凹むけど、報酬として渡した後に言われるよりはいいし。


「ちょっと木材取ってくるよ」


「はぃ」


 床の張り替えをした時の木材の余りは、玄関を出たところにある倉庫に保管してある。

 そこからいい感じのやつを調達し、寝室の作業場スペースへと戻ってくる。

 ミオンもそこに座り込んで裁縫をしてるんだけど……


「この部屋、土足禁止にしようか?」


「あ、いいですね」


 そうなると絨毯とか敷かないとかな? いや、ここは畳っていう手も……

 靴を脱ぐ場所が欲しいし、作業スペースの部分を一段上げてかな? まあ、どっちにしても、天気がいい日にやろう。


 2人でのんびりと雑談しながらの作業。

 スウィーたち、パーンたち、シャルたち、クロ、ラケ、アトたちが遊びに来たりと賑やかで楽しい。


「そういえば、紫鋼しこう鉱石って本土だと手に入るのかな?」


「はぃ。部長たちがよく行くドワーフのダンジョンで手に入るそうですよ」


「マジかー。じゃあ、それも依頼に出すかなあ……」


 剣鉈を新しくするための重銀鋼インゴットを作るのに必要な鉱石。

 南の島の古代遺跡、採掘施設で掘れる可能性もあるんだけど、そっちを当てにしすぎてもなあと。

 そろそろ水路の向こうの森のさらに向こうを探索したくもあるし、北端で見つけた塔(?)にも行きたいし。


「うん。ざっくりこういう感じだけど、どうかな?」


「すごいです。ルピちゃんが見えてきました」


「さんきゅ」


 荒く削り出したところでちょっと休憩。

 パプの葉茶でも淹れようと立ち上がったところで、


「お茶なら私が」


「あ、じゃあ、お願い」


「〜〜〜♪」


「甘い物もだって」


「はぃ」


 保存箱にとろとろ干しパプがあったはずだし、それかな?

 お茶と甘味を置けるよう、立てかけてあった折りたたみの小机を出す。これは蝶番が余ってるなあと思って作ったやつ。

 ついでだし、依頼書も今のうちに用意しておこう。まずは『壊れたピアノの修理』からかな。


「はぃ。どうぞ」


「さんきゅ。うん、美味しい」


 リアルの方でもお茶の淹れ方は椿さんに教わってるとのこと。

 木皿に盛られたとろとろ干しパプは、さっそくスウィーたちが群がって、もう半分近く無くなってるし。

 ちゃんともう一皿用意してあるのを、みんなに渡してくれている。


「依頼書ですか?」


「うん」


 依頼内容の次は達成条件。

 直ったかどうかの判定、調律が終わってるかも含めてだけど、ここはまあ信用するってことでいいか。で、報酬として転移魔法陣っと。


「これでいいかチェックしてくれる?」


「はぃ」


 これが問題ないなら、同じ書式で『楽譜本の収集』と『紫鋼鉱石の採掘』も作ろう。

 しっかり目を通してくれてるミオンを待ちながら、お茶を啜る。


「内容は大丈夫だと思います。最後にサインを入れて完成ですね」


「サインか。なるほど」


 それを発行したギルドメンバーのサインが必要らしい。

 ミオンが書くわけにはいかないので、俺が名前を書いて、これで完成かな?


「これって偽造とかされないのかな?」


「どうなんでしょう? 部長に聞けば教えてくれるかもです」


「あ、そうだね」


 ベル部長自身は詳しくなくても、白銀の館の生産組の人とか知ってそうだもんな。


「さて、続きやろうか」


「はぃ」


 ………

 ……

 …


「出来ました」


「お、見せて見せて」


 ミオンが嬉しそうに見せてくれたのは、クリーム色の滑らかな手触りのローブ。

 アトたちがエクリューの毛から作った布と余らせていた亜魔糸が使われてるらしい。

 で、笹ポで染めた亜魔糸を使って薄緑の刺繍が入ってるんだけど、これはクロとラケによるものなんだとか。

 目立たない感じだけど、草木を模した模様がすごい……


旄羊ぼうよう毛の良質なローブ】

『妖精たちが育てたエクリューの毛、亜魔糸によって編まれたローブ。

 防御力+16。MP回復30秒ごとに+8。気配遮断スキル+1。精霊魔法スキル+1』


 ……

 気配遮断と精霊魔法に補正が入ってるのって、クロとラケの刺繍のおかげ?

 いや、パーンやシャルが育ててくれたエクリューだからっていうのもあるか……


「えっと、初めてにしては上出来、いや、すごい出来だと思うよ。っていうか性能が良すぎる気がするし、ベル部長にはおいおい話そうか……」


「はぃ。ありがとうございます」


 俺が作るとミオンのスキルが上がらないし、最初はごく普通のローブができると思ってたんだけどなあ。

 まあ、ミオンの裁縫スキルはあっという間に5になってたし、元々器用なところにクロ・ラケ・アトのフォローが入れば当然か……


「あとは鎧だけど、俺の複合鎧のお下がりでいい?」


「はぃ」


「サイズ直ししちゃって、あ、鉄板が重かったら外してもいいかも?」


「そうですね」


 ミオンはSTR低めだし、この先もそんなに増やさないはずだし、重いぐらいなら外したほうがいいよな。

 ああ、そうだ。水晶の鉱石も依頼出そう。あれって神聖魔法+1だし。

 少しだけ発注するっていうのもなんだし、木箱に一箱ぐらい? 余った分はアクセサリーにして、次の依頼の報酬ぐらいにしようかな。

 っと、その前に、


「ローブ、着てみせてくれる?」


「はぃ」


 一気にヒーラーらしく、しかもめちゃくちゃ高位な感じに見えてびっくりする。

 翡翠の女神が地上に降りてきてますっていうのも、あながち嘘でもない気がしてきたんだけど……


「ど、どうですか?」


「あ、うん、すごく似合ってる。えっと……綺麗だよ」


「は、はぃ……」


 これはオパールのブローチを早く作らないと……


***


 IROをログアウトして、バーチャル部室へと。

 アズールさんの連絡待ちだけど、明日のライブで依頼のことはもう話せると思うので、そのことを報告に。


「『戻りました』」


「おかえり、兄上!」


「悪いわね」


 時間は午後11時を回っているので手短に。

 依頼をピアノ修理以外にも3つ、『楽譜集の調達』『紫鋼鉱石の調達』『水晶原石の調達』それぞれ用意したことを話しておく。


「ふむ。それらの依頼の募集は同時に掛けるのか?」


「そのつもりだけどまずい?」


「死霊都市の出張所に人が溢れる可能性があるわね」


 俺からの依頼にプレイヤーが殺到するんじゃないかっていう……


「そんな来ます?」


「来るでしょ……」


「来ないわけがなかろう……」


『来ますよ!』


 なんか考えておかないとダメっぽい……

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