第433話 レベルデザインの大胆な変更

「ふむ。依頼の報酬を転移魔法陣にすることで、兄上にはそれが不要なこと、今後いっさい、そのような理不尽な要求は叶わんことを知らしめようと」


「あー、なるほど。持ってるから使えるようにしろって言われるなら、それをもう手放しちゃえってことですか……」


「ですですー」


 今、ここにいる身内以外は「島にある転移魔法陣は1つ。屋敷の蔵で偶然見つけたやつだけ」と思っているはず。

 で、理不尽なことを言ってる連中は、それが本土に繋がってるんじゃないかっていう予想なんだろう。


『あの、部長に渡す転移魔法陣は、死霊都市と繋がっている方でしょうか? 南の島と繋がっている方でしょうか?』


「南の島へ繋がってる方であろうな。受け取った我らが南の島を押さえれば、竜族の要望にも答えられよう。兄上の悩みを一気に解決できる妙案よの」


「いいわね。うちとアライアンスに所属するギルドで管理すれば……、でも、私たちでいいのかしら?」


「アズールさんは俺が信頼できる人なら大丈夫って言ってくれましたし、食事会の時にアージェンタさんとも面識があるし、全然問題ないかと」


 なんなら、本土プレイヤーの中だと一番竜族と繋がってる気がするんだよな。『白銀の館』って。

 で、島の方はそれでいいとして、


「古代遺跡の管理者にって方はどうです?」


「それはすぐにとは言えないわね。スケジュールの問題もあるのよ。私たち以外もお盆の帰省があったりするし、一番戦力になりそうなレオナさんも月曜からV・REVOレボ・Jに専念する関係で2週間ほど不在なの」


「あー、V・REVO・Jか。そういう時期でしたね」


 Virtual Revolution Japanという、8月頭ぐらいに行われるVR格ゲーの全国大会。レオナ様はそっちのレジェンド枠に入ってて忙しいとのこと。


「次のライブで転移魔法陣を報酬にする件を話してしまえばー、あとはひたすら無視してれば問題ないでしょー。二人ともライブはしばらくおやすみでもいいかもですねー」


『いいと思います!』


「じゃあ、転移魔法陣は、今度、アズールさんが来た時に渡しておけばいいですかね?」


 次にアズールさん来るのいつだろう?

 手紙出して……って、あの後、アズールさんもエルさんもギルドメンバーになってもらったから、そっちで連絡すればいいんだった。


「いや、待て、兄上。島から死霊都市へとつながる転移魔法陣を、南の島へと置くのはどうだ?」


「ん? それって……ああ、そういうことか!」


 今は、俺とミオンがいる島(翡翠の女神の島と呼ばれてるらしい)に2つの転移魔法陣があって、


【死霊都市】○――○【翡翠の女神の島】◎――◎【南の島】


 となってるけど、美姫の言う通りに転移魔法陣(○)を移動すれば、


【死霊都市】○――○【南の島】◎――◎【翡翠の女神の島】


 ってことになる。

 そうすれば、俺たちが南の島に行ける状態のまま、死霊都市からも南の島へ行けるようになるので……


「あれ? ベル部長たちと南の島で合流できる?」


「いいですねー。せっかくですしー、合宿中に皆さん揃って南の島というのはどうでしょうかー」


「うむ! 兄上がおるのであれば、古代遺跡の件もクリアできるやもしれん!」


「そうね!」


 セスとベル部長は当然乗り気。

 俺もいいかなと思うんだけど、ミオンはどうなのかなというと、


『あの、私はまだキャラクターレベルも低くて……』


 とゲームに慣れてないことの方を申し訳なさそうな感じ。


「そこは兄上がフォローするので問題なかろう?」


「うん、それはもちろん。ミオンは嫌?」


『行ってみたいです! 部長やセスちゃんと会いたいです!』


「じゃ、一緒に行こうか」


 俺とルピ、ラズはいいとして、レダ、ロイ、シャルが護衛でいいかな?

 スウィーはまあ、ついてきたがったらでいいか。


「あ、当然というか他の人には、南の島で会えることは内緒にしてもらいたいんですけど……」


「ええ、それはもちろんよ」


 合宿中のライブについても相談し、次で転移魔法陣を報酬にすることを発表したら、帰省もあるので次回ライブは未定ということになった。

 ベル部長の方、『魔女の館』のライブは、明後日の日曜からペースを落とし、水曜と日曜の週2回に戻すらしい。


「次のワールドクエストが始まるまでは、ペースを落とそうと思っていたところだったのよ」


「はいはいー。方針が決まったところでー、宿題を終わらせましょうねー」


 ……そうでした。


***


「ワフ〜」


「おはよう、ルピ」


 ベッドから起き上がると、すぐにルピが飛びついてくる。


「ぉはよぅ」


「おはよ。ってどうしたの?」


「ぁの……」


 南の島に行くのにキャラが育ってないことを気にしてるのかと思ったら、二人で配信を始めたせいで有名になりすぎて、めんどくさいことになってる話の方を……


「いやいや、それは別にミオンのせいじゃないから」


 無人島スタートした時点で、一般公開ライブになっちゃってバレてたわけだし、それを見つけてくれたのがミオンで良かったと思ってるし。


「それにまあ……ミオンに会えなかった方が辛いし」


「は、はぃ」


 ニッコリされると嬉しいんだけど、めちゃくちゃ恥ずかしい……


「ワフッ!」「クルル〜♪」


「もちろんルピもラズもな」


 甘えてくるルピとラズをしっかりと撫でて、さて、今日は何をしようか。


「ミオンは今日はどうするの?」


「えっと……」


 ミオンはスウィーたちが起きてるようなら、花壇の手伝いをするとのこと。

 それと、クロ、ラケ、アトたちが来たら裁縫もするつもりらしい。


「じゃあ、俺は……アズールさんに連絡しないとだった」


 ギルドカードを持って話せばいいんだよな。

 これってミオンの近くで話すとどうなるんだ? まあ、いいか。


「アズールさん、今、いいですか?」


『あ、ショウ君? 大丈夫だよ!』


「急にすいません。南の島の件なんですけど……」


 ベル部長やセスたちと話した内容を、だいたいそのままアズールさんに話す。

 2人はアージェンタさんと面識があることも話しておこう。


『了解だよ。じゃ、死霊都市に着いて、もろもろ準備できたら連絡するね』


「はい、お願いします。それじゃ」


 ……ふう。本人が目の前にいないと、逆に気を使うなあ。


「ワフ」「「バウ」」


「ん、そうだね。時間も微妙だし、ちょっとルピたちと散歩に行ってくるよ」


「はぃ。いってらっしゃい」


 まずは教会でシャルやパーンたちに挨拶して、山小屋まで行って戻ってくるぐらいでちょうどかな?


 教会へ向かう道すがら、そういえば明日のライブをどっちでやるか考えてなかったのを思い出した。こういう時こそギルド通話だよな。


「あーあー、ミオン聞こえる?」


『はぃ。聞こえます』


「次のライブをどこでやるかなんだけど……」


 ライブの内容は、ピアノ修理の話がメインになるけど、逆に場所はどこでもいいんだよな。

 前回は屋敷でやったし、順番的には港の方かな? 移動は昼の間に間に合うだろうし。


『ぁ、他にもお願いしたい依頼があるんですけどいいですか?』


「え? 他に?」


『楽譜が欲しいなって』


「あ!」


 アージェンタさんから前にもらった楽譜集って、確か2巻だったかな。残りが何冊あるかわからないけど、ミオンが揃えたい本なのは間違いない。

 というか、ピアノの依頼だけで受注先も決めちゃってると文句言われそうだし、他の依頼もいくつか出した方がいいよな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る