金曜日
第432話 理不尽な要求
「ちわっす」
「ショウ君」
今日で夏休みの宿題も終わらせようとバーチャル部室へと。
ミオンが待ってくれてたのはいつも通りとして、
「待ってたわよ」
「兄上、早う!」
ベル部長だけでなく、セスも待ってたっぽい。
あれ? 昨日のアズールさんの件は、宿題が終わった後にと思ってたんだけど?
「どうしたの?」
『部長たちの方から相談があるそうです』
席に着いたところでミオンからそんな話が。
で、ベル部長はというと、何か動画を……氷姫アンシアの動画?
「これを見てもらえるかしら?」
シークして再生が始まると、氷姫アンシアがどこか見たことがあるような塔にいて、そこから別の部屋に入る。そこには、
『え?』
「転移魔法陣だ……」
スタスタと歩いて行って、その転移魔法陣に乗ったアンシアが転移した先はどこか古代遺跡の中?
「どこだここ?」
俺が見慣れてる島の古代遺跡とは、微妙に壁面の色が違うと思う。
天井がうっすら光って照明になってるのは同じだけど、なんか暗いし。
その転移魔法陣がある小部屋を出て、通路っぽいところを無言で進むのが怖い。
いくつかの分かれ道を迷うそぶりもなく進み、やがて外の光が見えて……
「無人島スタートできる島っぽいのよね」
小高い丘の上に出たようで、その眼下には町……とは呼べないぐらいの集落が映し出された。
そのさらに向こうには川があって、そのまま海へと繋がってるところまで見える。
「うちの島じゃないと思います。ミオンが無人島スタートした南の島でもないかな?」
『はい。どちらとも海の色が違いすぎます』
「ああ、確かに」
この動画に映ってる海、黒っぽいんだよな。
うちの島の周り、スタート地点の砂浜のあたりは薄い青、トゥルーたちがいる港とか北端方面はちょっと濃い青。
南の島の海は、内湾だけしか見てないけど、エメラルドグリーンに近かったし。
「ん? これで終わりです?」
「もう少し先まで見てもらえるかしら」
高台から集落の方へと続く小道をゆっくりと下りていく。
途中で数人のプレイヤー(?)がいたが、アンシアが通りかかると頭を下げる徹底っぷり。
やがて、集落へと到着し、その中央にある広場で立ち止まったところで、
『この新たに発見された島は、マーシス共和国アンシア領に加わりました。今後、ある程度の条件をつけた上で、皆さんに開放する予定です』
とニッコリ。
そこで動画が終わった。
「うわぁ……」
「ひとまず、ショウ君たちがいる島じゃなくてほっとしたわ……」
「だが、少々困ったことになっておる……」
セスがそう言って見せてくれたのは、公式フォーラムなんだけど、
――――
【独占反対】離島の本土プレイヤーへの開放を求むスレッド【機会平等】
本スレッドは、初期プレイヤーのみが選択できた離島に、後発プレイヤーも訪れることができるよう働きかけるためのスレッドです。
――――
「は?」
目を通すと、要するに無人島スタートして転移魔法陣が見つかってるんなら、さっさと本土プレイヤーも行けるようにしてくれっていう主旨らしい。
「…………」
で、条件付きではあるけど、ラムネさんところも開放してるわけだし、さっきの動画の件もあって、氷姫アンシアもそれをやったんだから、うちの島も開放するべきじゃないのかっていう話で沸いていて……
「兄上?」
「ふざけんな! それで文句言われるぐらいなら配信やめる! いいよね?」
「は、はぃ!」
「なんで、俺が知らないプレイヤーにまで気を使わないといけないんだよ! 馬鹿馬鹿しい!」
「落ち着け、兄上!」
「あ、すまん……。すいません……」
ミオンもベル部長もびっくりした顔で……うん。
で、セスが話を続けようとしたところで、
「こんにちはー。宿題は終わりましたかー?」
ヤタ先生が現れて、宿題やらなきゃだったのを思い出す。
完全に頭に血が登ってたな、うん。冷静にならないと……
「すいません。ちょっとIROのことで話し込んじゃってて……」
「どうしたんでしょー?」
俺とミオン、セスの視線が一点に注がれて、その先にいるベル部長が深くため息をついてから説明を始める。
その説明を聞いたヤタ先生が、
「なるほどー。まー、そういう意見も出てくるでしょうけどー、気にするだけ無駄ですよー」
「はあ……」
「仮にショウ君の島に来れるようになったらー、次はルピちゃんに会いたいとかー、妖精さんと会いたいとかー、要求がどんどん膨れ上がるだけですー」
ヤタ先生の冷静な分析に深く頷くセス。そして、
「先生の言う通りであろう。なので、今後のライブではそれら理不尽な要求は全て無視し、かつ、絶対的に断る方針を公にした方が良いと思うのだ」
「そうですねー」
「でも、ショウ君はすでにあの転移魔法陣を使わないって表明してるわよね?」
「ええ」
ミオンも隣でうんうんと頷いてくれている。
これもう、ライブするたびに宣言するとかしないとなのかな?
はあ、めんどくさい……
「そういえば、兄上からも相談があると言う話だったが?」
「ん? ああ、ミオンが無人島スタートした南の島なんだけど……」
白竜姫様が島を押さえたいみたいな話で、そこにある古代遺跡、海底資源採掘施設も俺が管理者になって欲しいっていう……
「信頼されてるわねえ」
「兄上なら当然よの」
「いや、俺、そこまで手が回らないから、他の誰かに任せたいって話をしたんだよ」
南の島にある果実とか、海底資源だとかに興味はあるけど、だからといって全部を押さえるとか無理だし。
「竜族からは人員は出せんと?」
「出したいけど出せないって感じ? 例の有翼人をみたいな話も出たけど、それはちょっとってなったし」
「奴らか……」
「ああ、あの人たちはないわね……」
セスもベル部長も苦い顔。
一応、島に来たエルさんは、ごく普通に常識のある人だったのは伝えておく。
「ところでー、この間のライブで話していたピアノ修理依頼の件はどうなりましたかー?」
「あ、えっと、そっちは細かいところまで詰めたりしました」
ピアノ修理の作業場所とかも向こうで用意してもらった上で、グラドさんたちが立ち会ってくれることになった。どう直すのかが知りたいっていうのもあるだろうけど、すごくありがたい話。
もろもろ準備が整ってきたし、俺の方で依頼の達成報酬も決めて、次のライブで公表しようと思ってるけど。
「そのピアノ修理の依頼をー、ベルさんのギルドで受けるのはどうですかー?」
「え、俺は別にいいですけど……」
とベル部長を見る。
「こちらも問題ないわよ。最初の依頼はミオンさんとの繋がりで私に話が来たというのも、おかしな話ではないし」
「そうよの。難易度の高い依頼ゆえ、手を挙げづらいようであったしのう」
セスも問題ないなら良いかと思うんだけど、ヤタ先生はなんでそんなことを?
「ではー、その依頼の報酬を転移魔法陣にしてしまいましょー」
「『え?』」
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