水曜日

第425話 お引っ越しとお隣さん

 夏休みの宿題も終わりが見えてきた。

 今週中に終えてしまえそうだし、来週からの合宿は気兼ねなく楽しみたいところ。


「これぐらいにしようか」


『はい』


「2人ともいいペースですねー」


 ヤタ先生が宿題を軽く確認して、満足そうに頷いてくれる。そして、ベル部長の空っぽの席に目線を……

 セスの話だと、明日のライブで死霊都市の南の教会へ行き、そこから例の副制御室を見に行くらしい。

 そのための下見? まあ、いろいろあるんだろうと思うし……


「ベル部長も土日で終わらせるって言ってたんで」


「ベルさんはいつもそう言いますねー」


 うん、藪蛇だったな、これ。

 変なフォローせずに、さっさとIRO行こう。


「じゃ、俺らはIROやってきます」


「はいー。見せてもらっていいですかー?」


 俺は特に問題ないのでミオン次第だけど、


『はい。大丈夫です』


「おけ。じゃ、行こうか」


 ………

 ……

 …


 IROの配信設定だけど、俺はミオン限定配信をデフォルトにしている。そして、ミオンは逆に俺限定配信がデフォルト。

 で、ヤタ先生はミオンのゲームプレイを見たいということなので、ミオンの方をヤタ先生限定配信に変更してもらった。

 ミオンとはパーティを組んだままだし、ヤタ先生の声も流れてくるはず。


「大丈夫?」


「はぃ」


 ログインしてロフトベッドから降り、後からログインしてきたミオンに手を貸すと……


『あらあらー、2人同じベッドでログインしてるんですかー?』


「いや、そうするしかないんで……」


 俺が隣の倉庫で寝起きしてもいいんだけど、ミオンがそれはダメっていうからしょうがない。

 それはそれとして、魔導転送箱に着信があるらしく水晶が光っている。昨日、アズールさんに出した手紙の返事だろうなあ。


「ワフ?」


「うん、スウィーたち呼んできて。あ、ミオン、開けて確認しちゃって」


 中身のチェックはミオンに任せて玄関の扉を開けると、ルピが駆け出し、いつものようにレダとロイが追いかけていく。

 今日は昼のうちに屋敷へと引っ越す予定。

 こっちにある本だったりを全部持っていかないとだし、その後、この山小屋をどうするかをスウィーと相談しないとだ。


「どう?」


「えっと、アズールさんが明日の夜に来たいと」


「明日なら大丈夫かな?」


『ドラゴンが来るんですかー?』


「ええ、ミオンがスタートした無人島を調査したいって話で」


 調査するなら一緒にって話をすっぽかして行っちゃったからなあ。要望通りに明日の夜でオッケーしよう。

 ミオンから手紙を受け取って確認……、アズールさんからの手紙はシンプルなので、返事も出しやすい。さくっと返事を書いて転送箱へ。


「〜〜〜♪」


「スウィーちゃん、こんにちは」


 やってきたスウィーが新たに定位置となったミオンの左肩へと座る。

 俺は褒めて欲しそうにしているルピを撫でるお仕事を。


「ショウ君。スウィーちゃんにお引っ越しの話を」


「うん。えっと、教会の向こうの屋敷に引っ越そうと思うけど、スウィーたちはどうする? 今まで通りここの神樹に住むのでもいいし、一緒に屋敷に来るのでもいいよ?」


「〜〜〜……」


 むむむと腕を組んで考え込むスウィー。

 やっぱり神樹を離れるのは嫌とかなのかな?


「スウィーちゃん、一緒に来ませんか? お屋敷に住めば、冬も暖かく過ごせますよ?」


「〜〜〜!」


 ミオンのその言葉に、あっさり屋敷への引っ越しへと転んだ模様。

 まあ、フェアリーだって寒いのは嫌だよな。


「みんなで屋敷に住むってさ」


「良かったです」


 シャルたちも冬になると教会じゃ寒いだろうし、いつでも来れるようにしておくか。……キャットタワーとかあればいいのかな?


「〜〜〜?」


「ん? この山小屋と隣の蔵はちゃんと維持するよ。神樹を使うこともあるからね。ただ、本とかは持っていくよ」


 あと、魔導保存箱は持っていかないと辛い。

 ルピたちのための肉だったり、トゥルーからもらった魚の干物だったり、パーンからもらった野菜だったりのために。


『室内で育つような植物をー、この山小屋で育てるというのもアリかもですねー』


 なるほど。

 ミオンを見ると、やってみたいという感じなので、


「じゃ、そのあたりはミオンに任せるよ。スウィーと相談してやってみて」


「はぃ」


「〜〜〜♪」


 ………

 ……

 …


 山小屋にあった荷物は手分けして運搬。

 魔導保存箱は中身を入れっぱなしだときついので、取り出してそれぞれのインベントリにわけて。


「ニャ?」


「うん。ここでいいよ」


 途中でシャルたちケット・シーが応援に入ってくれたので、食器やなんやらといった細々としたものをお願いした。

 お高いキャビネットだったり、転移魔法陣を隠すために作ったミニチェストだったりは、重力魔法で軽くして解決。


「じゃ、残りは本だけだし、これは俺にやらせて」


 食材を魔導保存箱に戻したり、食器類を片付けたりは終了。

 残ってる本に関しては自分できっちり分類したい。


「はぃ。私はパーン君と畑の世話に行きますね」


 あとで合流したパーンたちは、畑の方を優先してもらった。

 おかげでというか、屋敷の周りの雑草はほぼ無くなってて、最初に見たイメージと全く違う感じになっている。


「りょ。レダ、ロイ、お願い」


「「バウ!」」


『過保護ですねー』


 スルースルー。

 持ってきた本をお高いキャビネットと新しく作った本棚へ仕分ける。

 そういえば、応用魔法学も火と風はまだ取ってないんだよな……


「あ、だめだ。これは掃除してるうちに、本読んじゃうやつ」


 気にせずさっさと片付けちゃわないと。

 ゲーム内の本、背表紙に文字が書いてあったりしないけど、装丁がかなり違うから分類はしやすい。


『そういえばー、今日のライブは何をするんでしょー?』


「今日は屋敷に引っ越したことを話して、あとはギルド作ったことを報告ですかね」


 ピアノの件、直せても調律できない話を最初の依頼として出す予定。その報酬は何がいいかを、ライブで聞いてみようかなと。

 そんな話をしつつ、本の整理も終わったので、ミオンを手伝いに行こうかと思ったら、


「あ……」


『あー、これはー、ショウ君を呼んだ方がいいかもですねー』


 というヤタ先生の声が。

 何かあったっぽいけど、慌てた雰囲気でもないし、そもそもやばいならレダかロイが報告に来るはずだし。


「え? どうしたの?」


『今そちらにミオンさんが向かってますよー』


 とのこと。

 そばにいたルピが先に玄関へ向かったので、俺もと思って立ち上がったところで、


「ショウ君。森の妖精さんが会いに来ました」


「へ?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る