IRO運営(5):南の島に降臨した女神

「砂糖吐きそう……」


 バッタリと机に突っ伏したミシャP。

 GMチョコはそれを生温かい目で一瞥したのち、視線をエアディスプレイへと戻した。

 そこには南の島へと降り立ったミオンと迎えに来たショウたちの楽しそうな様子が映っている。


 無人島スタートからの一連の状況は、今後の調整のためにも記録されており、ミオンのそれも当然記録されている。

 映っているのは、それを確認するために再生したものだ。


「ザ・青春って感じで微笑ましいじゃないですか」


「えー、チョコちゃんって、高校の時ってリア充側だったの〜?」


 顔を上げてめんどくさい絡みをするミシャPだが、そこは華麗にスルー。


「ミオンさんが普通に本土スタートしたら、絶対にバレて大騒ぎになってたでしょうし、運営的にはありがたいと思いますけど?」


「そうなんだけどさー。っていうか、島の子たち強すぎない? 自爆まで仕込んであったストーンゴーレムコマンダーも通用しなかったみたいだしー」


 戦闘ログでは迎えに来たショウと島の精鋭たちが圧勝。

 最後の手段=自爆もバレてきっちりと対処されている。


「島の子たちもメインストーリーに合わせて調整されてるはずなんですけどねえ。まあ、ウリシュクのパーン君は族長で、かつ、魔銀ミスリルの鍬も装備しちゃってますし」


ちおしゅぎゆつよすぎる……」


 本来ならもっとあと、具体的にいうと来年春ぐらいにウリシュクと遭遇し、そこから徐々に仲良くなってやっとの強さが既にという状態。


「シャル君もケット・シーの王様候補の1人ですし、細剣レイピアを使徒に下賜されるっていう内部フラグも立ってますね。あ、来てなかったですけど、トゥルー君もセルキーの王様にかなり近づいてて……」


「やめて! プロデューサーのライフはもうゼロよ!」


 また机に突っ伏したミシャPを放置し、コーヒーサーバーへと向かうGMチョコ。

 ちゃんと2人分淹れる優しさは残っているらしい。


「そういえば、ミオンさんのキャラって特殊キャラにしないんです?」


「んー、悩んだんだけど、普通にプレイしたいみたいだし、余計なお世話かなって」


「特異点ですからねえ」


 何かしら強制しようとしたり、誘導しようとしたりすると、その反動が何十倍、何百倍にもなってワールド全体へと返ってきてしまうだろう。


「公式キャラと本人のプレイヤーキャラは別にしておかないと、贔屓だなんだと言い出す人たちもいるし」


「私たちが悪者になるだけならいいんですけど……」


「そういうこと。それになんかほっといても翡翠の女神っぽいスキル構成になりそうだし? ずっとプレイしてるうちに……ならワンチャン?」


 手元でミオンのキャラとスキル構成を確認。

 神聖魔法と精霊魔法の純ヒーラー方向に進むようだし、農耕や園芸も翡翠の女神のイメージのままだ。


「そういえば、ミオンさんってスキル取らなくても演奏できると思うんだけど」


「あー、ピアノ弾けるそうですよ」


「だよね」


 とGMチョコの言葉に頷き、机に置かれたコーヒーをずずっと啜る。

 屋敷にあったピアノが修理され、それをミオンが弾くようなことになれば、最高に撮れ高の高い絵になるだろう。

 残念なことに、現状でPV採用は許可してくれなさそうだが……


「あとはこれだけど……」


 ショウから送られてきた問い合わせ、無人島スタート直後に迎えに行けると……の件がディスプレイに映る。


「これってどう返事するの?」


「普通に『検討しますけど、既にあげたSPを回収はしませんよ』しかないですよね」


「そうなんだよね。ま、そろそろ外洋航海できる船も造船されそうだし、無人島スタートは閉じちゃってもいいかな?」


「いいと思いますよ」


 とその提案にGMチョコも頷く。

 タイミングとしては、夏休み終わりの8月末。メンテナンスを挟まないマイナーアップデートでということに。


「ん〜〜〜! 今日のお仕事はこれで終わり?」


「あー、あと一件だけ。今日じゃなくてもいいですけど、これ一応見ておいてもらえます?」


「は〜い」


 GMチョコから転送された書類に目を通したミシャPが微妙に困った顔に。


「そんな困ることです?」


「ミオンちゃんの歌、ショウ君に演奏して欲しいってゲームモードでいいの? まさか楽器習ってくれとも言えないし」


「ゲームモードでいいと思いますけどね」


「それって演奏したことになるのかな?」


「エア・ギター好きの人に怒られますよ」


 そう言われてなんとなく納得するミシャP。

 自動演奏モードをゲーム内から取り出すことは難しくない。

 そもそもバーチャル空間での楽器演奏の練習機能をゲーム内に取り込んだものだからだ。


「じゃあ、それはいいとして『幻獣や妖精たちのコーラスも、今までのゲーム内での合唱っぽく』ってのは? こっちの方もかなり無茶振りだと思うけど」


「ようはゲーム内AIのライブ感で歌わせてくれってことですよねえ。いっそのことゲーム内収録とか提案してみます?」


「うう、それはなんかヤダ」


 ミシャPの中に、ゲーム内はあくまでゲームで楽しんで欲しいという気持ちがあって、そこで仕事をさせてしまうのは違うだろうという思いがある。


「じゃあ、ゲーム内っぽくは無理ってことで返事しましょうか」


「うん。どうしても合唱が欲しいって話なら、収録までにゲーム内で合唱してくれることを祈ってもらいましょ」

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