第417話 ボーイ・ミーツ・ガール

 淡く優しい光で照らされる古代遺跡の通路を進む。

 転移魔法陣があった部屋から真っ直ぐ進み、左に45度折れてまた真っ直ぐ。

 その先には、


「これは転移エレベータかな?」


『部長が以前行った、魔術士の塔の物に似てますね』


「あー、確かに」


 そして、その左右には、


「これは非常用の階段っぽいね」


『みたいです』


 右側が上り、左側は下り。

 上りの方の先を見上げると、しばらく進んでから左に折れて続いているので、おそらくはこの転移エレベーターの周りをぐるぐると回る螺旋階段なんだろう。


「わざわざ階段で上る必要はないよな」


 エレベータが動いてればだけど、天井のあかりがあるし使えると思う。


『ショウ君。今いる階ってわかりませんか?』


「うーん……。普通のエレベータだと扉の上に階数が書いてあったりするんだけど」


 今いる場所、階は多分地下だと思う。

 ミオンの配信で見た塔(採掘施設?)はコンクリートっぽい白さがあったし。


「〜〜〜?」


「ごめんごめん。とりあえずこれに乗ってみようか。階数ボタンでわかるかもしれないし」


『あ、そうですね』


 扉の右側にあるボタン、上向きと下向きの三角があるので、上の方を押してしばし待つ。


 チーン プシュゥゥ……


 聞き慣れた音がして、扉が左右にスライドして開くと……うん、空っぽ。


「乗るよ」


 皆にそう声をかけて乗り込むと、やっぱり扉の右側にボタンがある。

 これは間違いなく転移エレベータだよなと思っていると、


[ご利用ありがとうございます。行き先階ボタンを押してください]


『これは部長が聞いたのと同じですよね?』


「だね。定型のセリフなのかな」


 並んでいるボタンには階数が書かれていて、一番上が『△10』で一番下が『▽30』と。

 今光っているところは『▽10』なので、地下10階ってことかな?

 で、おそらく出入り口があるであろう地上1階は『△01』と日本式……


「じゃ、1階へ行ってみようか」


 みんな乗り込んでることをしっかり確認してから『△01』と書かれたボタンを押す。

 扉がゆっくりと閉まって、ふっと体が宙に浮いたかと思うと、チーンという音がして、もう到着したっぽい。

 プシューという音と共に扉が開くと、目の前に見えたのは短い廊下。その先に見える扉がおそらく外へと繋がってるんだろう。


「多分というか確信なんだけど、ミオンがいる島に来れたと思うよ」


『え?』


「いや、古代遺跡発見とか無人島発見のワールドアナウンスが出なかったからさ」


『あ!』


 無人島発見の方は島そのものを見てないからって可能性もあるけど、外に出て改めて見直せばそれもわかるはず。

 ここの扉も権限が必要なやつだった。もう少し先に続くのかなと思いつつ、「はい」と答えて両手で押し開けると……


「うわ、なんか風が」


 いかにも南の島という空気が俺たちを出迎えてくれた。

 1階出たはずだけど、少し高い場所っぽい?

 二車線はありそうな広い石畳の道が続いてて、その先には島の樹々が見えるだけ。


「ワフ!」「「バウ!」」


「気をつけろよ〜」


 とりあえずは真っ直ぐ進むしかないんだけど、ミオンがスタートしたコテージみたいなところはどこだろう?

 ルピたちを追いかけて、しばらく距離をとったところで振り返ると、


「うん。これは間違いないよね?」


『はい!』


 ミオンの配信で見た塔。近くで見るとめちゃくちゃでかい。

 見上げると地上10階のはずだけどてっぺんがかなり高いので、1階ごとの天井が高いのかな。


「ワフ!」


「うん?」


 ルピたちに追いつく手前で気づく。

 道の先端は下り階段がずっと続いていて、その先に見えたのは、ミオンがいるはずの水上コテージ群だった。


 ………

 ……

 …


「クルル?」


「ん? もうちょっと待っててね。女神様が来るから」


 階段の下の方に腰掛け、ミオンを待っている。

 北側の海辺沿いに並ぶコテージだけど、どれも同じ形をしてて見分けがつかないから。


「〜〜〜♪」


「リュリュ!」「ニャニャ!」


「いやいや、この島の探索はまた今度な」


 コテージの脇に小さな植木鉢があり、そこに小さな白い花が咲いている。

 手入れをされないまま放置されてたっぽいけど、海辺の花だけあって自生する力が強いんだろうなあ。


「ワフ!」


 ルピがすっと立ち上がって右を向くと、その先には……


「ミオン!」


「ショウ君!」


 走ってきたミオンをキャッチして抱きしめる。

 いや、うん、ちょっと恥ずかしいんだけど……


「はー、良かった」


「はぃ」


「えっと、みんなに紹介させてくれる?」


 そろそろ離してくれないと、みんなの視線が痛い。

 ルピたちはお座りして尻尾ふりふりの興味津々だし、スウィーはびっくりしすぎてぽかーんってなってるし、パーンとシャルは平伏してるし……あれ? ラズは?


「クルル〜♪」


 ラズがミオンの肩に移動して頬擦り。


「〜〜〜!?」


「うん。翡翠の女神様だよ」


「ぁぅ……」


 公式の女神に認定されてるんだし間違いではないよな。

 今ここにいるミオンは別扱いになるんだろうけど。


「っていうか、パーンもシャルも顔上げなよ」


 そう言われてようやく顔を上げた二人。

 しゃがみこんだミオンが頭を撫でるとすごく嬉しそうな顔になって、やっぱりこれって翡翠の女神にそっくりだから?

 それを見たルピ、レダ、ロイが隣に並んで……順番待ち?


「とりあえず座ろうか」


「はぃ」


 で、持ってきたおやつを食べることに。

 時間はまだ午後10時前だし、ここで少しのんびりできる余裕がある。


「リュ?」「ニャフ?」


「ん? もちろん、ミオンも島に一緒に来るよ。これからはいろいろ手伝ってもらうつもりだし」


「ぅん。が、頑張ります」


 そこは頑張りすぎない程度でいいかなと。

 戦闘関連で無理をさせるつもりはないし、俺がほったらかしにしてるスキルとかを……


「そういえば、スキルってまだ取ってない?」


「はぃ。相談してからと」


「おけ。基本的に興味があるやつを取ればいいと思うけど……」


 やっぱり神聖魔法を取ってもらうべきなのかな? 教会に行って、自分の姿の女神像の前で?

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