第414話 無人島スタート

「じゃ、いろいろ決まったら連絡してね!」


 そう言って、アズールさんは東の空へと飛んでいった。

 この後、山小屋へ帰る予定だったけど……


「今って、3時ぐらい?」


『はい。もうすぐ3時になるぐらいです』


「りょ。山小屋戻る予定だったけど、ちょっと後回しにするよ」


『は、はい。えっと……』


 じゃあ、何をするのかっていうと、まずはアズールさんが来た方向を正確に測らないとかな。


「<石壁>」


 薄い石壁を1m四方のサイズで出して地面に敷く。石壁っていうより石板だな。

 これに魔導刻印筆で、島の地図を解ってる範囲で描いてみる。

 地図スキル、取っておいて良かった。絶対にないよりマシだろうし。


「〜〜〜?」「キュ?」


 ルピやラズ、スウィーにトゥルーたちが「何してるの?」と不思議そう。

 今いる港、入り江はこういう形で、俺たちがいるのがこのあたり……


「えーっと、俺たちが今ここにいて、これがあの洞窟の上の高台ね」


「キュキュ」


「アズールさんってどの方向から来たっけ? このへん?」


 そう尋ねると……高台よりも少し南寄りのところを指し示す。

 ルピ、スウィー、ラズもうんうんって感じなので合ってるっぽい。


「じゃあ、この方向に真っ直ぐ行ったあたりが、アズールさんが見てきてくれた南の島っぽいな」


『えっと、ショウ君。その方角を調べて一体何を?』


「ミオンがそこから無人島スタートできれば、俺が転移魔法陣で迎えに行けるかなって」


『あ!』


 問題は距離なんだけど、ニーナが約500kmって言ってたんだよなあ。

 この島の南北の長さは10kmぐらいだとして、50倍行った先になるはず。


「ミオン、前にキャラ作ったところで終わらせてたけど、この島の場所はわかるよね?」


『はい! もちろんです!』


「りょ。じゃ、今からログアウトして、その島を探してみようか」


 まずは島が見つかるかどうか。

 島の形が特徴的で見つけやすいはず。方角がちゃんと合ってればだけど、そこはアズールさんが真っ直ぐ来てくれたと信じたい。

 うまく見つけられて、かつ、そこから無人島スタートできればベストなんだけど……


 ………

 ……

 …


「ぉ、おかえりなさぃ」


「うん、ただいま。えっと、さっきの地図書いたところ、見てみようか」


『はい!』


 さっきまでの俺の配信アーカイブを開き、最後の方までシーク。

 今いる場所から、アズールさんが見えた場所に向けて、真っ直ぐな線を引いたところで一時停止。


「おっけ。これとミオンの配信を重ねて、俺の方で誘導するって方法で大丈夫かな?」


『はい。やってみます』


「りょ。じゃ、いってらっしゃい」


「ぁぅ。ぃってきますぅ……」


 そんなに照れられると、こっちが恥ずかしくなる件。でもまあ、少しずつ慣れていかないとだよな。


「っと」


 ミオンから俺限定配信の招待が届いたのでオープン。

 キャラ作成の最後、スタート地点を選ぶところが表示された。というか、すでに俺がいる島が中央に表示されている。


『ショウ君。見えてますか?』


「うん、大丈夫。地図を合わせるから、もうちょっと待ってて」


『はい』


 ミオンの配信ウィンドウの前に、俺の一時停止中の画面を半透明にして重ねる。もう少し薄くしてもいいかな……


「おっけ。じゃ、次は南の島の方角だけど」


『トゥルー君たちが見つけたのは……このへんでしょうか?』


「もうちょっと下かな?」


 ミオンが指した場所を調整し、方角があったところでズームアウト。

 一定以上ズームアウトすると、島が消えるのが意地悪いよな、IRO運営……


『これぐらいでしょうか?』


「いい感じだと思う。多分、俺よりミオンの方が操作は上手いと思うよ」


 前に、島に後から誰かがスタートできたりしないかチェックしたときも、スムーズに操作してたし。

 そのままアズールさんが現れた方向へとスクロールし、おおよそ島の50倍ぐらい離れた場所まで。


「ストップ。そのあたりだと思う」


『はい』


 ミオンがスクロールを止めて、その場所を中心にズームインしていくと……


「『あ!』」


 画面の左下の方に島がいくつか現れた。

 そしてその真ん中にある島がまさに『C』の形をしている。


『こ、これでしょうか?』


「他の島に似た形はないし、多分それで間違いないと思う。あとは、その島のどこかにスタート地点があれば……」


 ミオンがその島を中心に拡大する。

 まずチェックするのは砂浜があるらしい北東。そこが一番可能性が高いんだけど、


『ダメみたいです……』


 上も下もダメっぽい。反応してないな。


「えっと、南の端っこはどう?」


 南の端もダメ。

 そこから外周をぐるっと調べてみたけど、やっぱりどこもダメで、


『ここからは無理なんでしょうか……』


「……あえて真ん中あたりとかどうかな?」


『え? は、はい。……選択できます!』


 来た! 中心から少し北側? なんで海の上なのか不思議だけど……


「そこからスタートしよう」


『ショウ君。もし、島の転移魔法陣が使えなかったり、転移先がここじゃなかったりした場合は……』


「その時はアズールさんに頼み込んで、俺をその島へ運んでもらうから」


『はい!』


 再開時のアップデートで、無人島スタートが可能なのは1アカウント1回だけになっちゃってるのが痛い。

 でも、今のこの島が転移魔法陣の先である可能性が高いし、最悪、乗せてもらって迎えに行けばいいだけの話。

 それが無理ならミオンのキャラを作り直し。ベル部長に全部話して、死霊都市までミオンを送ってもらうって手もある。

 ミオンが恐る恐るスタートボタンを押すと、画面が一気にホワイトアウトして……


『えっと……』


 カメラに最初に映った場所はなんか家の中っぽい? 内装はレンガ造りの小屋って感じだけど、窓や扉の枠だけあってその物はないっていう……


『あ!』


 お約束の【無人島を発見しました!】のワールドアナウンス。続いて【無人島発見】【最初の上陸者】【最初の島民】の三つの褒賞をゲット。


「無人島スタート成功おめでとう」


『はい! ありがとうございます!』


「えっと、そこってセーフゾーンだよね?」


『えっと……』


 メニューを開くと、名前の横にセーフゾーンを意味する緑の●が。当然っちゃ当然なんだけど、ちょっとほっとする。


「じゃ、ちょっと外を見せてもらえる? 迎えに行く時の目印にしたいから」


『はい!』


 ミオンが正面に見える出入口を出ると、


「『あ……』」


【古代遺跡を発見しました!】


 その視線の先に見えたのは、巨大な塔だった……

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