日曜日

第413話 娘をよろしくお願いします

 日曜日。

 いつものようにミオンの家に来てお昼を作ってって、もう慣れちゃってるけど、気にしないことにした。

 今日のお昼は手巻き寿司をその場で作るのではなく、事前に好みを聞いて作っておく方式で。

 魚はお刺身を買ってくれば済むんだけど、それ以外はせっせと準備。

 キュウリの細切り、玉ねぎスライス、レタス、ツナマヨ、そして、玉子焼きはミオンと頑張って作ったかいもあり、


「今日も美味しかったわ。それに、澪がお料理の手伝いなんて……」


 ちょっとうるっと来てる雫さん。

 こういうのはその気になればと思うけど、普段のことを考えればなのかな。


「ところで合宿は8月なのよね?」


「あ、はい」


「じゃ、その間、澪をよろしくお願いね」


「はい」


 ヤタ先生もいるし、別々に行動することもないだろうし、問題ないかな。

 宿泊先がゴルドお姉様、ベル部長の叔父さんが経営する民宿なのが気になるぐらいで……


「それで、翔太君はお盆はご実家へ?」


「はい。兄妹揃って父方の祖父のところへ行くことになってます」


 母さんの、母方の祖父母は顔も見たことがない。というか、いるの?

 小学三年の時にふと疑問に思って親父に聞いたんだけど、苦笑いでかわされてしまった。なんかこう、聞いちゃいけない雰囲気を察したので、それからは聞いてない。


「それに澪も連れていってもらっていいかしら?」


「あー、はい。来たいんだよね?」


「ぅん」


 そういうことなら全然オッケー。

 まあ、暇でしょうがないかもだけど……


「あ、椿さんも来るんですよね?」


「いえ、私もお休みをいただきますので」


 とニッコリされるんだけどいいのかな? 雫さんもニコニコしてるからいいのか?

 まあ、真白姉と美姫がいるから問題ないか。


 ………

 ……

 …


「よっと」


「ワフ!」


 旧酒場のバックヤード、ロフトの上で目覚めると、ルピがすぐ甘えてくる。

 昨日はあのあとトゥルーたちの魚獲りに付き合ってからログアウトしたので、夜までには山小屋まで戻っておきたいかな。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


 外へ出るとセルキーたちが楽しそうにおしゃべりをしてて、


「キュ〜」


 気づいたトゥルーが飛び込んでくるのを受け止める。

 あと、スウィーとシャルたちだけど……


「〜〜〜♪」「ニャ!」


「ああ、カムラス採りに行ってたんだ。じゃ、まずはご飯にしようか」


 最近はセルキーの子たちが俺の料理を覚えてくれたおかげで、量や種類を用意するのも苦労しなくなった。

 なので、新作を教えてあげるのが良いんだろうけど、今日はいまいち思いつかず、いつかに作ったアクアパッツァで。

 ラズとスウィーたちには、採ってきたカムラスをコンポートにしたものを。


『ショウ君。昨日見つけた洞窟の先は行かないんですか?』


「うん。指輪の件もあるし、上から行けるようになるまでは保留かな。それに、まず装備を整えて、次に行くメンバーも考えてかなって」


 権限付きの扉があったってことは、控えめに見てもマルーンレイスぐらいの強い敵が出てきそう。

 この島の北端ってことは、最後に行くべき場所な気もしてるし、今の装備はちょっと心許ない。


『そうですね。ちゃんと準備して行ったほうがいいと思います』


 鍛治が上限突破して、工芸(鍛治)も取れてるので、剣鉈と複合鎧はいいものにしたいんだよな。

 扉の先に誰を連れて行くのかっていう問題もある。ルピとラズは絶対についてくるとして、スウィー、トゥルー、シャルあたり?


「まあ、次の水曜はパーンたちと水路の向こうかな?」


『あの森の妖精さんは紹介しますか?』


「あー、ギリー・ドゥーはなんか人見知りというか、恥ずかしがり屋っぽいし、無理はさせたくないな」


 まだ島民じゃないのもあるし、短編動画の方にもアップしてない状態。

 そんな話をしていると、


「キュ〜」


「ん? どうしたの? ……って、アズールさんじゃん」


 南東の空に見える青いドラゴンがだんだん大きくなって、いつものように堤防へと着地。今日はすっと人型に変身し、そのまま走ってくる。


「今日も急でごめんね」


「いえいえ、今日は違う方角から来たみたいですけど……」


「見つけてきたよ。ニーナさんに教えてもらった島」


「『えっ!』」


 アズールさんの説明だと、この島よりも大きいんだけど『C』みたいな形をしてて、その中心に塔のようなものがあったそうだ。で、その周りにはこの島よりも小さい島がいくつかあると。


「上から見た感じ、どこも人は住んでなさそうだったね〜」


「えっと、その施設がある島からここへは真っ直ぐ飛んできたんです?」


「うん。ほぼまっすぐかな?」


「上陸できそうな場所ってありました? 砂浜とか港とか」


「北東部分が砂浜だったかなあ。ちょっと断定はできないけど、そんなふうに見えたよ」


 じゃあ、無人島スタートできる可能性もあるよな。

 そこからミオンがスタートして、俺が転移魔法陣で迎えに行ければ……


「それでショウ君はどうするの? 今から行ってみる?」


「あ、えーっと、いろいろ準備してからじゃないと……」


 今からってアズールさんに乗ってってことなんだろうけど、まずはその島でミオンが無人島スタートできるかを調べたい。

 俺の島から南東に500km。で、島の形が特徴的だから、見つけやすいとは思うけど。


「っと、その前に報告しとかないとなんだった。預かったピアノなんだけど、僕らの知り合いのドワーフでも厳しそうかな。機能はわかるんだけど、正しい音が鳴ってるかどうかがわからないんだって」


「あー……」


『調律できる人がいないんですね』


 リアルでも専門職の人がいて、なんて言うんだっけってなってたんだけど、ミオンの説明で思い出した。調律師だ。


「それで、聞いてた話だと、誰かできる人間に依頼するって話だよね? それって死霊都市でってことになるのかな?」


「えっと、そのつもりなんですけど、ギルド設立した後になりますし、そっちも細かい部分を詰める時間をもらえますか?」


「オッケー、オッケー。じゃあ、もうしばらくドワーフたちに預けておくね。南の島の件は、何かあったらいつでも声かけてね」


 ミオンが南の島から無人島スタートできるか確認しないとだけど、まずはマップ上の場所を特定しないとだよな。

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