木曜日
第403話 もう一つの抜け道
ピピピっとアラーム音が鳴って、午後2時15分を知らせてくれる。
お昼を食べたあと午後1時から、宿題30分+休憩15分+宿題30分のスケジュール。
これで合宿までに宿題の半分は終わる計算。
「ふう。今日はこれくらいでいいかな」
『はい』
「終わりにしましょ」
俺とミオンでそういうスケジュールを組んでたんだけど、ベル部長も参加してくれることになった。
これにはヤタ先生もニッコリ。なんだけど、今日はまだ学校でお仕事(職員会議?)があるそうで、ここにはいない。
ちなみにセスはもう宿題を全部終えているそうで、先にIROに行ってしまっている。
「そういえば、今晩、アズールさんがピアノを取りに来るんですけど、それとなくドワーフのダンジョンと白銀の館の話とかします?」
「う……、そうねえ。あんまり露骨に誘導されてもってところかしら? ラムネさんの島の話とかをした方がいいかもしれないわね」
『PVでお城が映ってましたが、猫ちゃんたちの国があるんでしょうか?』
あのお城、壊れてたよな。
それに、シャルを鑑定したときに『かつては』ってあったし、やっぱりもう王国自体はないんだろうか……
「普通は気になって調べるところなんでしょうけど、ラムネさんだから……」
「あー……」
『なるほどです』
昔のこととかどうでもいいよね! っていうノリだもんな。
今あることを楽しむタイプだからこそ、人気もあるんだけど……
「ファンクラの人たちは?」
「ラムネさんのフォローと、ケット・シーたちを保護するのに手一杯って感じよ。本土の人たちも手伝いづらくてね」
とのこと。そりゃそうか。
ケット・シー王国の話、前にスウィーに聞いてもらおうかと思ってたんだった。
なんかこう、いい感じのタイミングがあればなあ……
***
「ルピ。スウィーたち呼んできてくれる?」
「ワフン」「「バウ」」
ランジボアのローストをペロリと平らげたルピ、レダ、ロイが食後の運動とばかりに、森の神樹の方へ駆け出していった。
ラズは生のレグコーンを器用に食べ、ほっぺをぷっくり膨らませている。
「美味しい?」
「クルル〜♪」
パーンたちが作った野菜、味が濃厚な気がするんだよな。
これに醤油を塗って焼いたら、めちゃくちゃ美味いと思うんだけど……
「っと、スウィーたちには……」
すぐに出せそうなのは、ドライグレイプルぐらいしかないな。パプの実がもう無くなってるし……
「今日は南側をぐるっとまわることにするよ」
『はい。シャル君たちも呼んであげたらどうですか?』
「あ、そうだね。っていうか、ケット・シー王国の話、散歩しつつ聞いてみるか」
そんな話をしていると、スウィーとフェアリーズが来て、迷わずドライグレイプルが盛られた木皿へと。
「ありがとな」
「ワフ〜」「「バウ〜」」
3人をきっちりと撫でて褒めてから、
「今度はシャルたちを呼んできてくれるかな?」
「ワフッ!」「「バウッ!」」
今度は階段の方へ駆け出して行くのを見送って、さて……
「スウィー、ちょっと聞きたいんだけど……」
「〜〜〜?」
ドライグレイプルをもぐもぐしつつも、俺の質問に耳を傾けてくれる。
なんで、まずはスウィー自身が『ケット・シー王国』について何か知ってたりしないかって話を。
「〜〜〜……」
「ん? 厄災よりもずっと前って……」
スウィーの話を要約すると、ケット・シー王国そのものについては知らないけど、ずっとずっと前からフェアリーや妖精たちは存在していて、人間と仲良しだったころもあるし、人間から逃げてたころもあったとのこと。
それはまあ、良い人も悪い人いるからしょうがないけどねって感じだそうだ。
「ちなみにスウィーっていくつなの?」
と素朴な質問をしたら、
「〜〜〜!」
「いでっ!」
フライングクロスチョップを食らった。
女性に年齢を聞いちゃダメなのは、妖精も同じらしい。
『もう! スウィーちゃん! ショウ君、大丈夫ですか?』
「大丈夫大丈夫。今のは俺が悪かったし、ごめんごめん」
「〜〜〜……」
ジト目のスウィー曰く、妖精の成長とは精神的な部分が大きいので、人の尺度でいうところの年齢はあまりあてにならないとのこと。
「まあ、俺らプレイヤーも歳を取るのかって言われると微妙だもんね」
『あ、そうでした』
でも、ルピは成長してるんだよなあ。
いや、それはよくて、
「スウィーからシャルにケット・シー王国のこと聞いてくれる?」
「〜〜〜¥」
「じゃ、パプの実で新しいデザート作ってあげるから」
相変わらず現金なスウィーに約束を取り付けたところで、シャルとケット・シーたちがやってきた。
煮干し(ブランチョっていう小魚)をおやつ代わりに渡すと、みんな美味しそうに食べてくれる。
「島の南側をぐるっとまわってこようと思うから、みんなで一緒に行こうか」
「ニャ!」「「「ニャ〜!」」」
………
……
…
「〜〜〜?」
「ニャ〜ニャ」
南西へと向かう道すがら、スウィーがシャルに「ケット・シーの王国ってどうなったの?」って質問をしてくれている。
で、聞かれたシャルなんだけど、特に悲壮な雰囲気とかもなく、ごく普通に「昔は王国があったけど、王様がいなくなって終わった」的な話を。
「えっと、王様がいなくなると終わるの?」
「ニャ〜ニャ」
「へー、戦わなきゃダメってなったら、誰かが王様に選ばれるんだ」
王の血統みたいなのがあるんじゃなくて、ケット・シーが一丸となって戦わないといけなくなったら、王が現れるシステム(?)らしい。
『じゃあ、今は王様がいないから平和なんですね』
「まあ、ラムネさんもケット・シーたちを大事にしてくれてるっぽいし、俺たちがあんまり心配してもしょうがないか」
でも、元いた島に帰らなかった子や、新たに島から本土へと来ちゃった子もいるらしいんだよな。
あ、そうだ!
「シャルは厄災のことって知ってる?」
厄災ってだけじゃわからなそうなので、この世界からマナが無くなりかけた日のことについて聞いてみたんだけど……
「ニャニャ〜……」
さすがにその時はかなりやばい状況になったらしい。島にあったお城が壊れたのはその時っぽい。
その時の話をスウィーとシャルでしてるんだけど、
「え?」
『どうしました?』
「スウィーが『神樹の近くで過ごさなかったの?』って聞いて、シャルが『うん、神樹の側にみんな集まって過ごしました』って」
『あ! じゃあ、ラムネさんの島にも神樹が……』
「スウィー。神樹での移動ができるのって、スウィーだけだよね!?」
「〜〜〜♪」
神樹の道を開けるのは妖精の王族だけ。しかも知ってる場所に限られるらしい。
とりあえずは一安心、かな?
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