第402話 隣の芝生は青い

<はーいー、終わりましたよー>


『お疲れさまでした!』


「うん、お疲れ」


 今日のラストは「おやつ何かな」で、自動演奏できたので楽だった。

 というか、自動演奏できるようになるんだったら、普段からガンガン演奏しておいた方がいいんじゃないか?

 いや、でも、他にもやることが山ほどあるんだよな……


『ショウ君?』


「あ、ごめん。ところで今日ってどれくらいの人が見てたの?」


<今日のライブの同時視聴者数は5万人弱でしたよー。ドーム球場が満員なぐらいですねー>


 ご、5万人……。ドーム球場が満員って、もはや完全に有名アイドルなんだけど。いや、もう有名バーチャルアイドルだけど!


「えっと、ミオンは緊張しなかった?」


『はい。最初にショウ君が隣にいてくれましたから』


「まあ、そりゃ心配だし」


 今日のコメントも荒れてはいなさそうだけど、後でちゃんと確認しとかないとなあ。


<ではではー、私はこの辺でー。二人とも今日はゆっくりしたほうがいいですよー>


『はい』


「ありがとうございました」


 ヤタ先生を送ってから庭に目をやると、スウィーたちはアップルタルトの残り……ではなく、レッドマルスに齧り付いてる。

 パーンたちは畑仕事の続きをやるつもりなのか、誰がどこを担当するのか相談中。で、シャルたちは、


「ニャニャ?」


「狩りに行くつもり? いいけど……、レダ、ロイ」


「「バウ!」」


「シャルたちについて行ってくれる? グレイディアとかなら大丈夫だろうけど、ランジボア相手は無理しないようにね」


「ニャ!」


 手のひらを出すと、ちゃんとそこに手を添えてくれるシャル。

 アライアンスになってるのを確認してから、シャルたちを見送る。


『ショウ君はどうしますか?』


「屋敷の改装の続きかな。パーンはどうするんだろ?」


 相談中のパーンとウリシュクたちを眺めてると……どうやら終わったみたいで、庭の手入れをする子たち、畑で収穫をする子たちと分かれていく。

 で、パーンは、


「リュ!」


『手伝ってくれるんですね』


「うん。あと少しだし、今日のうちに木の板の部分は終わらせておきたいかな」


 ………

 ……

 …


「『あ』」


 転送箱の水晶が光っていて、開けてみると手紙だけがポロッと入ってるんだけど……これはアズールさんだな。


『ショウ君へ


 明日の夜に行くから、よろしくね!』


 軽い……


『シンプルですね』


「まあ、アズールさんらしいかな」


 既読通知の代わりに甘味を送っておこう。

 レッドマルスタルト、白竜姫様も気に入ってくれると思うし。

 あ、そうだ。


「ニーナ。明日、アズールさんが来た時に俺がいなかったら、この山小屋まで来てもらって」


[はい。了解しました]


 アズールさん、待ち切れないだろうからね。


『ショウ君。部長からIRO終わったら部室に来て欲しいと』


「あ、おけ」


 なんだろ?

 合宿の話……は終わってるし、ヤタ先生はもういないはずだし、やっぱりIROで何かあったのかな?


***


「おかえりなさぃ」


「うん、ただいま」


 待ち構えていたミオンに手を引かれて席へと着くと、ベル部長とセスが微妙な顔をしている。


「ごめんなさいね。ちょっと確認したい噂があるのよ」


「噂?」


「ショウ君が以前ライブで見つけた転移魔法陣が、死霊都市に繋がってるんじゃないかって噂が広まってるのよ」


「『え?』」


 ベル部長の説明を聞いて納得したんだけど、ラムネさんの島の転移魔法陣が死霊都市に繋がってたし、それならあの屋敷で見つけたやつもって話になるのか。いや、当然なるよなあ。


「兄上はその転移魔法陣は封印したままなのか?」


「そりゃもう。誰か来たら嫌だし」


 隣ではミオンもうんうんと頷いている。

 あれはもう封印とライブでも言ったんだけどなあ。まあ、明日、アズールさんとそれの話をするんだけど。


「最近始めた新人さんたちに本土から無人島に行きたがる人が多くて、ラムネさんのところも苦労してるみたいなのよね」


 うーん、気持ちはわかるけど、うちの島を開放するつもりはさらさらない。

 ルピたち、スウィーたち、トゥルー、パーン、シャルたちも、みんな見せ物じゃないんだし。


『ショウ君みたいに無人島スタートすればいいと思います』


「ははは……」


「もちろん、私やセスちゃん、白銀の館の皆もそう思ってるわよ。でも、夏休みにも入って、新規さんが増えるとどうしてもね?」


 そうは言われてもなあ。

 死霊都市と繋がってる方の転移魔法陣も早く回収しないとダメかな、これ……


「今日のライブではその手のコメントはあったのかしら?」


『確認していませんが、私が見ていた限りではなかったと思います』


「ヤタ先生もいてくれてたし、何か不穏だったら言ってくれてたかと」


「なら安心ね」


 と頷きあうベル部長とセス。

 うちのライブは割と雰囲気固まってきてるから、いきなりそんなこと言いだす人はいないかな?

 最近始めた新人さんなら、その時間は絶賛プレイ中だろうし。


「正直、今の新人さんたちが無人島に行ってみたいっていうのは、単に妖精とか幻獣に会ってみたいだけだと思うのよね」


「我もベル殿に同意よの。ケット・シーやノームは見れるようになったものの、フェアリー、セルキー、ウリシュクは兄上の島にしかおらんからのう」


 そういえば、ライブ中だったのでやめといた「スウィーたち以外のフェアリーの存在」について聞いてみた方がいいのかな?


『他の無人島スタートした方々はどうなんでしょう?』


「他にうまく行ってる人は聞かないわね。それに、最近は無人島スタートしたって話も聞こえてこないわよ」


「おそらくだが、スタートできる無人島が少なくなっておるのではないか?」


 無人島スタートしたあとに諦めた人が結構いて、その島が再スタートできる状態に戻るまでロックされてるせいだろうというセスの推測。

 確かに、無人島スタート再開する時になんかそんな話あった気がする。三ヶ月だっけ? 再開時期から換算しても、まだまだ先になるよな。


「前にショウ君の探し方を見せてもらったけど、あれからさらにスタートできる島が減ってるとなると……ねえ?」


 どこか攻略ページとかに書かれてればまだしも、島がどこにあるのか、方角も距離もさっぱりわからな……


「どうした、兄上?」


「うちの島の場所ってバレてないよな?」


「アージェンタ殿が飛んでいった方角からある程度はバレておるようだがの」


 苦笑いしつつ教えてくれるセス。

 ただ、バレたからといって行く方法がないので……ということらしい。

 そういえば、南洋なんちゃらが無人島スタートできる島なのかな? できるなら、ミオンをこの島に迎えられる可能性が……

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