第387話 そんなことよりジンジャークッキー

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 今日の予定は屋敷の改装に使う木材の調達。ちょっと水路の向こう側に行ってみようかと。


『ショウ君。転移魔法陣のこと、気になりませんか?』


「氷姫アンシアの話? まあ、気にはなってるから、ちょっと確認しとこうかなって。あ、その間オフレコにしておいて」


『はい』


 ルピやスウィーたちをともなって教会裏へと。

 確認したいことというのは、


「リュ〜」「ニャ」


「いつもありがとうな。えっと、シャルにちょっと聞きたいことがあって、教会の中でいい?」


「ニャ!」


 というわけで、教会の中、翡翠の女神の木像の前へと場所を変える。


『シャル君に何を聞くんでしょう?』


「えっとね。シャルさえ良ければ、前に住んでた島からどういう状況で死霊都市……人のいる街に転移してきたか教えてくれる?」


『あ!』


「ニャニャ」


 こっちでの生活にも慣れただろうし、話せるようなら聞いておきたいところ。

 シャルも別にトラウマとかになってるわけじゃなさそうで、順を追って説明してくれた。

 それをミオンにも伝えつつ確認する。


「じゃあ、いつもは撃退してたゴブリン数匹どころじゃなく、さらにオークまで来たから、言い伝えに従って洞窟の中へ逃げ込んだ、と」


「ニャウ」


「で、それでも追いかけてきたから……転移魔法陣ってわかる?」


「ニャニャ」


 あの転移魔法陣は『どうしようもなくなった時に、島の外に助けを呼びに行くもの』と伝わっていたらしい。

 けど、それを使うには、上に乗っている大きな岩を壊す必要があって……


『シャル君たちで壊したんですね』


「あ、いや、なんか壊す仕掛けがあったらしいよ。土砂崩れで通行不能になったのはそのせい?」


「ニャン」


 助けを呼びに行くことになって、シャルが仕掛けを動かしたと。

 で、障害物だった大岩は壊れたんだけど、それとは別に戻る道で土砂崩れも起きて、生き埋めになるとパニックになったみんなが……という流れらしい。


「ニャ……」


「シャルが謝ることじゃないよ。それにあのタイミングで良かった。もっと前なら、まだアンデッドがうろうろしてたんだろうし……」


『そうですね』


 いや、そもそもそんな可能性は無いように、ラムネさんの島から無人島スタートできたのは死霊都市が解放されてからだったかも?

 タイミング的にはそれでも間に合うよな……


「ありがとう。だいたいわかったし、予想と合っててちょっと安心したかな」


『えっと、どういうことでしょう?』


「氷姫アンシアが買い取った転移魔法陣って、どれもしばらくは使えないだろうなって」


『え?』


 ベル部長やセスの話だと、ケット・シーの一件が起きる前から、ゲームドールズやファンの人たちが使えるか試してたらしい。

 そりゃまあ試すよな。使えたら一気に価値があがるし、その先の展開は撮れ高もありそうだし?


「その転移魔法陣の先はどこも障害物が置かれてて、それで使えないんだと思うよ」


『シャル君がいた島と同じように、ということでしょうか?』


「そうそう」


『でも、ショウ君が見つけた転移魔法陣には、障害物がありませんでした』


「それは……俺が予想以上に早くあそこに辿り着いちゃったせいで、何かいろいろ変になったんじゃないかな」


 無人島スタートして、ゴブリンの集落を駆逐し、アーマーベアも(変異種になったのに)倒しちゃってっていう。

 山小屋にあった転移魔法陣を見つけたのがプレイ開始から1ヶ月弱。

 あの時点で転移魔法陣を使ってたら、アンデッドだらけの謎の場所(死霊都市)に転移してて……やっぱり封印してただろう。


「ベル部長やセスが心配してくれるのは、俺が今持ってる転移魔法陣の行き先を知らないからだしね」


『あ、そうでした』


 この島にまだ見つけてない転移魔法陣があるかもだけど、今、氷姫アンシアが使えないなら、ほっといてもずっと使えないはず。多分。


「なんでまあ、気にはなるけど、気にしすぎてもなってところかな」


『なるほどです。でも、それだとアンシアさんが転移魔法陣を買った理由がわかりません……』


「それなんだけど、今もうファンの誰かに無人島スタートしてもらってて、そこと繋がる転移魔法陣を探してるとか?」


 よくそこまでやるなあって感じだけど、俺の想像でしかないからなあ……


 ………

 ……

 …


 小川というか水路というか、その手前に腰ほどの高さに積まれた石壁。

 そこから向こうを確認し、少し右側、東側へと移動。


「このへんが一番川幅が狭いかな?」


『そうですね。ショウ君なら飛び越えれそうな気がします』


「じゃ、ここを向こうとの出入り口にしようか」


 石壁の魔法で立てた一片を持ち上げてわきに退ける。

 粒化の魔法で砂にしちゃっても良かったんだけど、帰る時に塞ぐ必要があるので。


「だいたい3mちょいか」


 向こう側は1mほど先がもう森になっていて、その奥の様子ははっきりしない。

 ただ、気配感知に不審な反応はないし大丈夫かな?


「ワフ!」「リュ!」「ニャ!」


「いいけど、気をつけてな?」


 ルピ、パーン、シャルが先に向こうに行くというのでOKを出す。

 川の深さも大したことないし、ルピは泳げるからいいけど、パーンとシャルも大丈夫なんだよね?

 と思ってるうちに、あっさりジャンプして向こう岸へと渡る3人。


『パーン君もシャル君もすごいですね』


「ワフ」


「ニャ」


 キョロキョロとあたりを確認し、警戒モードのルピとシャル。

 パーンがこちらを向いて俺を呼ぶと、


「〜〜〜♪」


 スウィーがすーっと飛んでいった。そりゃそうだよな。

 それを見てラズが俺のフードへとスタンバイ。


「じゃ、俺も行くよ。<減重>っと!」


 おおっ! やばい、飛びすぎ!


「ワフ〜」「リュ〜」「ニャ〜」


 見上げる3人を飛び越えて、木に激突する直前でなんとか着地。

 危ないところだった……


『ショウ君、大丈夫ですか!?』


「大丈夫大丈夫」


 減重の魔法かけた時の加減がまだまだ難しいんだよな。っと、ラズは?


「クルル〜♪」


「ああ、良かった。ごめんな」


 頬擦りするラズを軽く撫でてからあたりを見回す。

 うーん、見通しが悪い……


「なんか気になったりする?」


「ワフ」


 ルピもシャルもふるふると首を横に。

 パーンは何か見つけたのか、木の根元を覗き込んでいて、


「何か見つけた?」


「リュリュ」


 パーンが見て見てと指差した草を鑑定。


【ヴァレガノ】

『薄紫の花を咲かせる多年草植物。

 調理:葉は調味料として利用可能』


「あ、これオレガノかな?」


『ハーブですよね?』


「そうそう。肉とか魚の臭み消しに使うやつ」


 もっと香草類が増えると料理の幅も広がるんだけどなあ。

 ローストビーフ……ボアかな? 白身魚の香草焼きとかもいいし、ライコス(トマト)との相性も抜群のはず。


「リュ〜」


「ん、こっちはショウガ?」


 鑑定で分かった【ゼンジャー】っていう名前がいかにもっぽい。

 ショウガはいろいろ使い道が多くて嬉しい。


『ジンジャークッキーってショウガですよね?』


「そうそう。小麦粉あるし、砂糖、バター、ショウガ、あとナッツを混ぜたりするのも美味しいかな」


 ミオンとそんなことを話してると、


「〜〜〜!」


「ニャ!」


 スウィーの指示でゼンジャーを摘み始めるシャル。

 元騎士団長になんてことさせてるんだよ……

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