土曜日

第388話 屋根の修理とおやつの時間

 土曜のお昼過ぎ。

 ミオンはいつもどおり習い事のボイストレーニングで不在。

 明日の収録のために頑張ってるんだと思う。


 俺はというと屋敷の改装の続きを。

 まずは祭室で翡翠の女神像にマナを補充してお祈りを捧げる。


「明日の収録がうまくいきますように……」


 ん? これって、本人に本人のことをお願いしてるのか? まあ、いいや。

 あと、これから屋根の壊れた部分を直すんだけど、事故ったり怪我したりしないようにもお祈りしておく。

 俺の後ろで同じように手を合わせてくれるパーン。右肩に乗ってるラズもオーカーナッツを持ってお祈りしてくれている。


「じゃ、始めようか」


「リュ!」


「クルル〜」


 メンバーは3人。

 屋根に上がっての作業なので参加できないルピがしょげてたけど、レダ、ロイと巡回警備にあたってくれるようお願いしてある。


 正面玄関から表に出て、まずは屋根に上がるためのハシゴを立てかける。

 そのうち必要になるだろうと思って、テスト期間中に作っておいた。


「よし。じゃあ……」


「リュ」


「あ、パーン?」


 止める間もなく、とんとんと上っていくパーン。というか、手を使わずに上がっていってびっくりする。


「リュ〜」


「あ、うん」


 俺も上ってくるように合図されたので、俺も……しっかりと一段ずつ上がっていく。

 屋敷は一階しかないけど、天井が高い分、屋根も結構高い場所にあるんだよな……


「よっと」


 上りきったところで振り向くと……

 うん、これは落ちたら絶対に怪我する高さ。


「クルル〜」


 肩にいたラズが屋根に下り、穴の空いた箇所を確認しているパーンのところへと。

 俺も中腰になったまま、そっと近づいていく。穴の近くは脆くなってるかもなので。


「うーん、屋根瓦がずれて、そこに雨が吹き込んでーって感じかな」


「リュ」


 パーンが穴の隣に残ってる瓦を一つ、釘抜きを使って器用に外し、俺に渡してくれる。


「これはスレートってやつかも? 綺麗な成形だし、やっぱり魔法で作ったのかな」


 同じものを石壁の魔法で作れるかどうかは微妙。けど、赤粘土を焼いて同じ形のものを作ることはできるかな。

 ただ、手間を考えるとなあ……


「リュ?」「クル?」


「ああ、ごめん。まずはこの穴の周りの屋根瓦を外しちゃおう。で、ラズはちょっと中を見にいってくれるかな?」


「クルル〜」


 ラズが穴の中に見える梁にしゅたっと着地して左右を見渡す。

 脆くなってる部分があるようなら補強するか、最悪、新しいのに替えないとっていう……


「じゃ、俺たちは周りの屋根を外そうか。えーっと、このあたりから、あの向こうのあたりまでね」


「リュ!」


 穴が空いてる部分、外側1mほどの瓦を全て外す。

 その下にあるのは野地板で、防水シートっぽいものはなし。


「じゃ、次はダメになってる野地板を外そうか」


「リュ」


 割れたり折れたりしてる板は4枚。それを俺とパーンで2枚ずつ外す。

 手にとってみると、厚みは1cmぐらいかな? 乾燥しやすい木を使ってるみたいだけど、それでも屋根が外れたせいで傷みが進んだっぽい。


「クルル〜♪」


「ラズ、お帰り。どうだった?」


 差し出した右手を駆け上がり、肩まで駆け上がるラズ。


「クル〜♪」


 柱や梁には問題なしと。

 じゃ、天井も外さないとなんだけど……


「リュ!」


「うん、お願い。外した天井は下に落としちゃっていいよ」


 パーンが梁へと降りて、割れている部分の天井板を外してくれる。

 そのまま下へと落としてもらって後で回収しよう。まあ、燃やすしかないんだけど。


「リュリュ〜♪」


 鼻歌まじりで作業してくれるパーンが頼もしい。

 トゥルーも海に入ればすごい簡単に魚を捕まえてくるし、だんだん俺が養われてる気がしてきた……


「リュ!」


 ぱこんと叩いた天井板がそのまま地面へと落ちる。

 外した分の天井、野地板、瓦を新しいものに変えれば、ここの修理は完了かな。

 もう一つ、寝室の上もこの程度で済んでくれればいいんだけど。


「じゃ、いったん下りて、替えを用意しようか」


「リュ〜」「クル〜」


 で、ハシゴって下りる時の方が怖いよな……


 ………

 ……

 …


「よし、こっちはこれでオッケーかな!」


 正面ホール上の修繕完了。

 天井板と野地板は昨日伐採してきた木で作り、瓦は石壁の魔法で作ったものを、砂化の魔法で細部を調整して再現した。

 重量もほぼ変わらない感じなので、とりあえずこれでしばらくは大丈夫のはず。


「クルル〜?」


「次は寝室の上を直さないとだけど、その前に休憩しておやつにしようか」


「リュ〜♪」「クルル〜♪」


 裏庭ではスウィーとフェアリーズが新しく作った花壇の周りでおしゃべり中。

 ルピたち、ウリシュクたちを呼びたいところだけど……


「ワフ!」


「お、ちょうど良かった!」


 駆けてきたルピをキャッチ!

 その後ろからレダ、ロイ、シャルと追いかけてくる。

 ウリシュクたち、カーバンクルたち、ケット・シーたちもいるし、みんなおやつの時間だから戻ってきたのかな。


「〜〜〜♪」


「はいはい。今日はクッキー焼くからちょっと待ってね」


 コハク(小麦)粉、エクリューバター、空砂糖、ヤコッコの卵で作ったクッキー生地をインベントリから取り出す。これもテスト期間中に用意してあったやつ。


「〜〜〜!」


「ああ、昨日のゼンジャーか。はいはい」


 ただ、入れすぎると苦く感じちゃいそうなんだよなあ。特にフェアリーたちには。

 なので、おろして乾燥させたパウダーをほんの少し、風味づけぐらいの量に。メインはオーカーナッツの香ばしさで。


「リュ〜?」


「お願いできる?」


「「「リュ!」」」


 生地の型抜きは興味のありそうなウリシュクたちに任せよう。

 俺はその間に……


「お願い」


 火の精霊石から飛び出した火種が、石窯に突っ込んだ薪――野地板や天井板だったもの――を燃やしてくれる。

 窯の温度が熱くなりすぎないように調整することしばし……


「「「リュ〜♪」」」


「ありがとう」


 綺麗に型抜きされた生地が乗った鉄板ごと窯へと。

 あとは出来上がりを待つだけ。


「クルル〜♪」


 やっぱりラズが一番に反応し、続いてカーバンクルたちも待ちきれない感じでテーブルの上へと。

 いや、うん、このクッキーの焼けてきた香りが本当に暴力的だもんな。

 焼きすぎて焦げたら怒られそうなので、しっかりと確認して……よし!


「できた! けど、熱いからちょっと待って……」


「〜〜〜♪」


「あ、うん。さんきゅ」


 女王様は甘いものを食べるための努力は惜しまないタイプ。

 風の精霊があっという間に粗熱をとってくれたので、


「〜〜〜?」「リュ」「ニャ!」


「ああ、俺が最初ね」


 その辺はちゃんとしてるんだよな。

 そっと手に持って、しっかり焼けてるな。パクッと一口。


「おお、美味しい! さ、みんなも食べて」


 うん。すぐに次を焼かないと、あっという間に無くなるな、これ。

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