第374話 助手席が笑顔で乗れるスピードを

「おーい、受け止めるからジャンプして!」


 両手を広げてケット・シーのボス猫を受け止める体勢なんだけど……


「ニャー……」


 ボス猫がいまだに船縁にがっちり掴まってて、ブルブル震えてるっていう。

 そんなに海が怖いのって感じなんだけど。


『あの、ボス猫さんはその船にずっと乗って船酔いしてたりは?』


「あー、アズールさん。島までって、この船を操縦して来たんですよね?」


「え? 違うよ。この船だと時間かかりすぎるし、ずっと最高速度で飛んで運んできたけど?」


「……このボス猫を船に乗せて?」


「うん」


 ……そりゃ、足もガクガクになるよな。俺も高いところ苦手だから、なんとなくわかる。

 しかも、前に来た時の竜籠(?)とかならともかく、この船って外丸見えだし。


『ちょっとひどいと思います……』


 女神様がお怒りなので、ちゃんと釘を刺しておこう。

 アズールさん的には悪いことしてるつもりは全くないんだと思うけど……

 そんなわけで、飛べない種族が高いところを猛スピードで飛んだりしたら、そりゃもう大変なことになるよという話を。


「うう、ごめんなさい。次は気をつけます……」


「お願いします」


 次あるのって話は別として、ボス猫を陸に上げてあげたいんだけど、どうしようかな?


「「キュ〜!」」


「ああ、それがあった」


 セルキーたちが俺が使ってる筏(神輿?)を持ってきて、それを船の近くで支えてくれる。で、俺の方を、いや、トゥルーの方かな?


「トゥルー、お願い」


「キュ〜!」


 トゥルーがひょいひょいっと筏の上を歩き、ケット・シーのボス猫に両手を差し出す。さすがにそこまでされて心を決めたのか、


「ニャッ!」


「キュキュ〜」


 その手を取って、船の外へと出るボス猫。

 足がまだガクガクしてるけど、トゥルーがしっかり支え、ゆっくりと陸へと上がる。


「ニャ〜……」


 やっと地に足がついたからか、へたり込むボス猫を他のケット・シーたちが励ましてくれている。そっちは任せるとして、


「じゃ、俺、そっち行きます」


「ワフン」


 まあ、ルピは当然ついてくるよなと。

 ラズもフードの中から出るつもりはないみたいだけど、


「〜〜〜♪」


「あ、助かるよ」


 スウィー、トゥルー、パーンはボス猫のことを見ててくれるらしい。

 筏を支えてくれてるセルキーたちに悪いので、さっさと船へと乗り込む。


「ありがとな。船、これから動くからちょっと離れておいてね」


「「キュ〜」」


 筏とセルキーたちが離れたのを見て、さて、どうやって動かすんだろう?


「ショウ君、こっちこっち」


「あ、はい」


 船は長さが10m弱、幅は3mぐらいかな?

 船底の形はホバークラフトっぽいけど、船の上は漁船っぽく、屋根付きの操舵室(?)が中央にある。

 あたりを見回せるように、腰より高い部分は空いてるんだけど、これだと雨が吹き込んできそうな気が。

 アズールさんに手招きされてその中に入ると、いかにもっていう操舵輪が真ん中にあった。


『ハンドルですよね?』


「ハンドルっていうか操舵輪かな。前進後退はこれです?」


「うん。そのレバーらしいよ」


 らしいってことは、アズールさんも動かしたことないんだろうなあ。

 操舵輪の右側にあるT型のレバー、上で前進、下で後退かな? 下の方が稼働範囲が狭いし。


「そういえば、これって……マナで動くんですよね?」


「そうそう。ここにあるやつに」


 操舵輪の反対側、操舵室の壁の足元辺りに埋め込まれているのは、結構大きいサイズの魔晶石。

 ニーナの魔晶石ほどじゃないけど、灯台にあった中サイズよりは確実に大きいし、大サイズになるのかな?

 既にマナが満タンまで注がれているのは、多分、アズールさんのサービスなんだろう。


「ワフ」「クルル〜」


 ルピとラズが待ちきれないっぽいし、


「じゃ、さっそく……ゆっくり進みますね」


「ちょっとぶつかったぐらいは平気だと思うけどね〜」


 この船の外側に使われてる金属は、かなり硬い合金らしい。

 錬金術で作れるようになったら、胸当ての部分を交換したいところだけど。


「出発、いや、出港します」


 操舵輪を右は面舵だっけ?

 軽く回してから、レバーを上に少し押し出すと、フォーンという音がして動き始めた。


「おお……」


 歩くぐらいのスピードかな。ゆっくり右へと旋回しつつ進む。

 灯台のある堤防を迂回しないとなので、まずは沖の方へと。

 舵を戻してレバーをもう少し押し込むと、自転車ぐらいのスピードになった。


「これくらいが安全かな」


「いや、それまだ1割未満だよ? もっとスピード出るはずだから」


「そういうのはもっと後で試しますから」


「えー……」


 不満そうなアズールさんはスルーで。

 最初から事故ったりしたら洒落にならない。ルピやラズも乗ってるんだし。

 灯台をぐるっと回って、古代遺跡の港、船着場(?)の入り口が見えてきたんだけど、このまま進めばいいのかな?


「えーっと?」


「そのまま進めばいいらしいよ」


 ニコニコ顔で答えてくれるアズールさん。マジか……

 大きな段差じゃなければ、そのままスルッと陸に乗り上げ、浮いて移動するとのこと。

 ただそれも「らしい」なんだよな、まあ、ゲームなんだからやってみればいいって話だけどさ。


『大丈夫でしょうか?』


「とりあえず、速度を落として進みます」


 ミオンに答えつつ、ゆっくりと入り口へと近づくと、船首が乗り上げる前に船全体がすーっと浮き上がった。


「おおお……」


「ワフ〜」「クル〜♪」


 これなら大丈夫そうということで、そのまま直進。

 この船、大きいなと思ったけど、船着場の幅には全然余裕があるんだよな。


「えーっと、どうやって止めれば?」


「そのレバーを一番下にだね。水の上なら静止するけど、土の上なら着底するんだって」


「なるほど」


 ちなみに一番上でも止まるらしいけど、そっちは安全装置っぽい。

 ともかく、レバーをグッと一番下に入れると、船はゆっくりと着陸した。


「ふう……」


「慎重だねえ。多少ぶつけても、ここでニーナさんが直してくれたりするんじゃないの?」


「『え?』」


 まさかそんな……


「ニーナ。この船ってここに置いておけば修理されたりするの?」


[いいえ。現在、修復に必要な重銀鋼インゴットが足りていません]


「あー、素材が足りないのかー」


 重銀鋼インゴット……錬金術で作れそうだけど、後で調べてみないとだよな。

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