第373話 大きなおまけつき

 オパールの採掘場からまっすぐ伸びている道を進む。

 そろそろ外に出てもいいような気がするんだけど……


「ん? なんだこれ?」


『木の根っこみたいなものですか?』


「ああ、そういうことか」


 道が何かで塞がれてるのかと思ったら、外から侵食してきた木の根がいっぱいあってっていうだけっぽい。


「リュリュ!」


「うん、お願い。あ、一人通れるスペースでいいからね」


 鎌を手にしたパーンが道を作ってくれるというのでおまかせで。

 その様子を見たトゥルーが手伝いたい感じでしょんぼりしてるので、思わず頭を撫でてしまう。


「トゥルーはいつも魚たくさん獲ってくれてるからね」


「キュ〜」


 納得はしてくれてるみたいだけど、うーん……

 そういえば、


「セルキーって道具は使わないの?」


「キュキュ〜」


 トゥルーが両手を広げて……ふむふむ。

 えいっと突く感じの……ってやっぱりヤスか! いや、トライデント?


「ああ、海のモンスターに対抗するためでもあるんだ」


「キュ!」


 両腕をぐっと構えるトゥルー。かっこいいつもりだけど、可愛いんだよな。

 で、昔は使ってたけど、壊れてから使わなくなってると。


『ショウ君、トゥルー君たちに』


「うん。俺が作れると思うから、あとで昔使ってたっていうのを見せてくれる?」


「キュ〜!」


 トゥルーとそんなことを話している間も、パーンがざくざくと道を切り拓いてくれる。

 払った根? 枝? を邪魔にならないようにインベントリに回収していく。


「リュ!」


「お、外かな? パーン、気をつけてな」


「リュ〜」


 外にいきなり何かいる可能性……はなかった。

 どうやら山の中にある小さな窪地っぽいところに出たようだけど、雑草のはびこり具合がひどい。

 パーンが手早く周りの雑草を刈ってくれたんだけど、これはキリが無いような……


「ワフ!」


「え? って! あ、違う」


『え? えっ?』


 ミオンが慌ててるけど、心配はいらないかな。なんでかというと、


「バウ!」


『あ!』


 展望台の東側に住んでるドラブウルフ、レダの親兄弟がやってきたから。

 位置的には納得なんだけど、よくわかったよなあと。いや、どこかここが見えるような場所で見張りをしてたりするのかな?


「急にごめんな。ちょっと探検してたら、ここに出ちゃって……」


 彼らなら俺たちよりもこのへんに詳しいはずだし、ちょっとわかる場所まで誘導してもらおう。


「ワフ」


「バウ」


 ドラブウルフたちの後ろについていくことしばし、見たことがある風景になってきて、


『港を見下ろす崖の近くですよね?』


「やっぱりそうだよね」


 右手側、木々の切れ目から見える崖が多分それだと思う。

 そのまま進んでいくと、崖の上り口の少し手前へと出た。


「なるほど、ここに繋がってるのか。ありがとな」


「バウ〜」


 ドラブウルフたちをしっかりと撫でて、さて……


「今って何時?」


『10時を回ってます』


「じゃ、港に戻ったほうがいいか」


 戻って、残ってるフェアリーズやセルキー、ウリシュクたちと合流して、酒場の裏手でログアウトでちょうど11時ぐらいになりそうだし。


「キュ?」


「リュリュ〜」


 トゥルーとパーンが何か……ああ、あの入り口に向かう道の方向をわかるようにしてるのか。


「パーン、俺に任せて」


 ちょっと横にそれてもらって、綺麗にしてくれたところを掘削の魔法で削り取る。で、その削り取った分を埋めるように石壁を石畳として置く。


「いえ〜い!」「リュ〜!」「キュ〜!」


 3人でハイタッチ。


「さて、戻ろうか!」


「ワフ〜」「〜〜〜♪」「クルル〜♪」


 ………

 ……

 …


「あれ?」


『なんだかみんな集まってるようですけど……』


「何かあった? 急ごう!」


「ワフッ!」


 ルピを先頭に全速力で港まで走る!

 坂道を勢いよく駆けていくと、集まってるのはセルキーたち、ケット・シーたち、ウリシュクたちも。

 ああ、小さいから見えなかったけど、フェアリーズもちゃんといるな。あれ? レダとロイはどこだ?


「バウ!」


 人波の奥からロイの声が聞こえて、集まってる妖精たちが一斉にこちらを向き、わーっと手を振ってくれる。


「とりあえず、大変なことが起きてるわけじゃ、なさそうかな……」


 一安心なのでスピードダウン。

 ルピが先に行っちゃったけど、振り向いてパーンとトゥルーをキャッチ!


「キュ〜」「リュ〜」


 で、また振り向くと、妖精たちが左右に分かれ、俺たちのために道を作ってくれていた。

 そして、その道の先には……


「また急に来てごめんね〜」


「ニャ〜……」


 アズールさんとボス猫が、ホバークラフトのような船に乗っている。

 あれってやっぱり……


『魔導艇というものでしょうか?』


「だと思う」


 小走りで駆け寄ると、それはやっぱり海面に浮かんでるんだけど……どういう理屈なのかさっぱりわからない。

 いや、魔導具なんだろうから……重力魔法か何か?


「えーっと、それって聞いてた小型魔導艇ですか?」


「そうそう。結構すごいでしょ?」


「想像よりも大きくてびっくりしてます……」


 俺の中で、ゴムボートを一回りか二回り大きくしたぐらいだろうなって勝手に思ってたんだけど、目の前にあるそれは小さめの漁船ぐらいあるし。


「そう? でも、あの古代遺跡の港に入るんだから、これぐらいになるよ〜」


「そう言われるとそうなんですけど……。いや、それはいいとして、ボス猫を連れてきたのは?」


 アズールさんの隣で船縁を掴んで震えてるボス猫。

 やっぱり海が怖いというか、水が苦手とかそういうのなのかな?


「預けてきた子たちが心配なのと、助けてもらった恩返しもしてないから、みたいな感じかな? 死霊都市の方は副団長に任せちゃったみたいだし、島民になるつもりっぽいよ?」


「ああ、はい」


 アズールさんの話だと、元の島(ラムネさんの島)に行った副団長とは別に、もう一人副団長がいるそうで、そっちに任せるというか団長の座も譲ったんだとか。


「ニャー!」


『ショウ君、受け入れてあげてもらえますか?』


「うん、もちろん受け入れるけど。アズールさん、船を降りて陸で話しませんか?」


「それでもいいんだけど、せっかくだし、船の動かし方も説明しておこうと思って」


 ここに来たのは15分ほど前らしく、レダとロイがいたから俺もいるだろうと岸に来てみたら……妖精たちに囲まれたらしい。


「えっと、じゃ、港へ行きましょうか」


「いや、ほら。ショウ君もちょっと乗ってみなよ。簡単に動かせるから」


「あ、はい。でも、その前にボス猫を陸にあげてやってください……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る