第371話 落ち着くところに落ち着いた?

「ばわっす」


 夕飯を済ませて後片付けをし、宿題も手早く終わらせて、バーチャル部室へと。

 午後8時を回ってるし、いるのはミオンだけだろうなと思ったら、


「ショウ君」


「来たわね」


「待ちかねたぞ、兄上」


 ベル部長とセスもいて、ちょっと驚く。

 というか、これは何かあったってことだよな。


「どうしたの?」


『猫さんたちがこれからどうするか決まったそうなんですけど……』


「ラムネさんの島に帰る子と、本土に残る子とで分かれるそうよ」


「はあ?」


 ベル部長の話だと、住み慣れた島に戻りたい年配ケット・シーたちと、本土という新しい場所に魅了された若手ケット・シーたちで意見が分かれ、それぞれ自由意志でということになったらしい。

 ボス猫、あんまり戻る意味がなかったんじゃあっていう……


「本人たちの希望のままにということで、うまく落ち着いたと見るべきであろう」


「まあ、それならいいんだけど、どっちのケット・シーも……これから先、大丈夫なんだよな?」


 ボス猫はまあ大丈夫だろうなって気がするんだけど若い子たちがなあ。いままで無人島で暮らしてたってのもあるし。


「それは問題ないそうよ。ラムネさんの島では、ファンクラブの人たちがケット・シーの村をちゃんと直してくれて、今後もしっかり保護するって言ってくれたし」


『本土に残る猫さんは、当面はドラゴンさんたちが面倒を見てくれるそうです』


 それを聞いてほっと一安心。

 でも、それなら別に俺を待つ必要もなかったような?


「で、兄上に聞いておきたいことがあっての」


「え? 何を?」


「ケット・シーたちの生態に一番詳しいのはショウ君でしょう?」


 ……いや、俺も別に一日、いや、半日一緒に過ごした程度なんだけど。

 特にほっといてもなんとかなってたというか、一応、アズールさんから聞いた『自分にとって毒になるものは口にしない』って話は伝えておくかな。

 あとは……


『猫さんたち、マタタビの実が好きでしたよね』


「あー、あれか。本土にもあるのかな? 名前なんだったっけ?」


『ちょっと待ってくださいね』


 ミオンがアーカイブを開いて、マタタビの実を採ったあたりまでスキップしてくれる。

 さくっと見つかったそこを再生すると、あ、うん【シルビナの実】だった。


「ほう。人は食べんようだが、ケット・シーにはご馳走ということかの?」


「1日1個でいいみたいだけどな。っていうか、たくさん食べるとダメなのかも? マタタビだし」


 それ以外だと普通に魚好きだったし、肉も食べるっぽいし、好き嫌いはない感じ?

 ミオンがいい感じにスキップしてくれるので、ケット・シーたちの行動を軽く説明。


「こんなところですかね。まあ、島に残った子たちもいるんで、気がついたことがあったら……」


『私から部長にお知らせしますね』


 うん、お願いします。


***


「ワフッ!」


「クルル〜」


「おっと」


 飛びついてきたルピとラズを撫でつつ、ミオンへの配信オン。

 放課後にちらっと様子をうかがいにログインした時は、ケット・シーたちはセルキーたちのお手伝いをしてたりと平和だった感じ。

 ボス猫にいろいろ言われてたんだったりして?


『ショウ君、ルピちゃん、ラズ君、こんばんは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフ〜」「クル〜」


 ロフトベッドを降りて、旧酒場の部屋の方へと移動したんだけど誰もいない。

 扉が開いてるし、まあ外にいるんだろう。


「そういえば、ボス猫がどうするのか聞いてなかったんだけど、ミオンは知ってる?」


『あ、団長猫さんは本土の方にいるらしいですよ』


 副団長がいて、ラムネさんの島に戻るグループはそっちがリーダーになるらしい。

 まあ、自分は知らない場所に残る仲間を気にするよな。


「キュ〜!」


「お、トゥルー」


 外に出たところで走ってきたトゥルーを受け止めると、フードにいたラズが出てきてトゥルーの頭の上に。

 ざっと周りを見渡すと、セルキーとケット・シーたちも仲良くしてるみたいで……干物を作るの手伝ってくれてるんだな。


「キュ?」


「今日はこの前行けなかった、あの高い場所の奥に行くつもりだよ」


 崩落でポッカリ空いた天井から外に出た場所。

 ここからでも見えるかな?


「あそこら辺だよね?」


『だと思います』


 と指した先にカメラがズームしてるはず?

 まあ、大体の位置だし、下から見上げる分にはロープを渡した岩も見えないけど。


「じゃ、さっそく……ってスウィーは?」


「キュキュ〜」


「ああ、パーンを呼びに行ったのか。じゃ、俺たちも移動……の前に」


 ルピの前にお座りして待て状態のレダとロイの頭を撫でてあげる。

 そして、


「ちょっと狭いところの探索に行くから、2人はここでみんなの護衛を頼むな」


「ワフ」


「「バウ!」」


 これでオッケーかな?

 あとはアズールさんが突然来たりは……気にしてもしょうがないか。


「じゃ、行こうか」


「ワフ!」「クルル〜!」「キュ〜!」


 ………

 ……

 …


『ショウ君。パーティの確認を』


「りょ」


【ショウのパーティ】

 ショウ、ルピ、ラズ、トゥルー、スウィー、パーン

(レダ、ロイ)


 レダとロイもいるけど、遠いからってことかな。

 この状態だと経験値は入らなさそうだけど、まあ、しょうがないか。


「リュ?」


「ん、大丈夫。じゃ、行こうか」


 スウィーとパーンは、例の天井が空いてる場所で合流した。

 パーンと一緒に来たウリシュクは、持ってきた野菜をセルキーたちが作った干物と交換したりしてるらしい。


「〜〜〜♪」


「リュ!」


 仮の天井の一部をはずし、一人分通れるスペースを開ける。

 パーンがひょいっと壁を駆け上がってそこをくぐり抜け、前と同じようにロープを掛けに行ってくれた。


「今日は先にトゥルーからね」


「キュ〜♪」


 前回は俺が先に上がって引っ張り上げたけど、今回はトゥルーを抱え上げ、パーンに引き上げてもらう方向で。

 そもそも俺のSTRがリアルよりずっとあって、かつ、トゥルーもルピもまだまだ軽いしで、ロープで引っ張り上げるよりも、抱え上げた方が早いことに気づいた。


「よいしょっ!」


「キュ〜」


 バンザイしたトゥルーの腰を持って持ち上げると、上でパーンが手を取って引き上げてくれる。

 最初からこうすれば良かったなあと思いながら、次はルピの番なんだけど、


「ワフ」


「ああ、なるほど」


『え?』


 外した天井板の上にお座りするルピを、そのまま頭の上まで抱え上げると、


「ワフ!」


『すごいです!』


 ジャンプして楽々上へと着地。

 ルピの身体能力なら、その方が楽だよね。


「ラズはどうする?」


「クルル〜♪」


 と楽しそうにフードの中へと隠れるラズ。

 うん、まあ、その方が楽だよね……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る