月曜日
第370話 先手を打って、あとは流れで
「昨日は大変だったっぽいな」
「まあ、俺はそうでもなかったんだけど……」
と視線の先では、ミオンがタブレットを使って、いいんちょに昨日の様子を見せている。
様子と言っても、アーカイブ全編ではなく、アズールさんがボス猫を連れて帰った後に即席で作った短編動画だ。
なんで、そんなことになったかというと……
「この状況は早めに伝えた方がいいわ」
というベル部長からの指摘があったから。
ケット・シーたちとラムネ島の話で騒ぎになってるし、俺が竜族の依頼でケット・シーを保護したことは、急いで公開した方がいいだろうと。
「うむ。こういうことがあったと先に伝えておけば、いらぬ詮索やくだらん妄想も防げよう」
特にボス猫……団長もちゃんと帰りましたよと伝えるのは、ケット・シーをラムネ島に帰す帰さない論争を落ち着かせるだろう、とセス。
「でも、今からケット・シーたちの話を全部詰め込んだ動画作るのって……」
「短編を3本。要点だけ絞って出すのが良かろう。説明が足らぬ部分は、兄上とミオン殿のファンであれば好意的に解釈してくれるのでな」
それに従って、3本の短編動画をミオンがテキパキと作ってアップ。上げ終わった頃には日付が変わってたっていう……
1本目は山小屋でケット・シーたちを介抱してるあたり。
2本目は元気になったケット・シーがセルキーたちと仲良くお食事中。
3本目はアズールさんが来て、ボス猫を乗せて帰って行きましたってオチ。
最後のアズールさんが蒼竜の姿で飛んでいく部分は、俺としても「ケット・シーたちどうやって来たんだ?」の回答になるから良かったなと。
「そう。病気だったケット・シーたちは島に残ったのね」
「ん」
短編動画を見終わったいいんちょがほっとした模様。
ボス猫が戻った後、本土の方でどうなったかは、俺もミオンも、ベル部長もセスも、もちろんナットもいいんちょも知らない。
「この青い竜って、やっぱ前からの知り合いなんだよな?」
「ああ、蒼竜のアズールさんとは前から」
「へー、いつ知り合ったんだ?」
「死霊都市に女神像を運んでくれたんだよ。あと島にある古代遺跡を調べたいって来たことが。まあ、あんまり話すといろいろ面倒になるから内緒にしてたんだけどな」
「おけ。じゃ、俺も黙っとくわ。しかし、うちの古代遺跡にも来てくれたりしねーかな」
ナットのいる王国南西、旧ノームの里の奥にある古代遺跡。
死霊都市の攻略中に手に入れた指輪で、今まで開かなかった魔導扉も開くようになって、ガンガン進んでる最中……だよな?
「そっちの古代遺跡、古奥のダンジョンだっけ? 攻略は進んでんの?」
「昨日、面白いもの見つけたぞ。つっても、お前はもう知ってるけどな」
ナットが笑って話してくれたのは、転移エレベータを見つけたって話。
で、せっかくだからって動かしてみたら、1階の開かなかった扉の先に出たらしい。
つまり、
「ショートカット?」
「だな。第六階層まで一気に行けるようになって、先の探索が捗るって話だ」
古奥のダンジョンはインスタンス扱いだけど、パーティに誰か1人でもそこを通ったことがある人がいれば、開いた状態になるそうで。
「なるほどなあ。他に何か見つけたりしてないのか?」
「一応、水晶鉱を見つけたな。ただ、加工が面倒なんだよな」
「水晶鉱……」
イメージがいまいち思い浮かばないなあと思ってたら、ナットが自分のタブレットでスクリーンショット見せてくれた。
なんか、筍みたいに水晶が生えてるし……
「これ、ポキッとやっても、また生えるのか?」
「ああ、元の大きさに戻るまで一月近くかかるみたいだけどな」
本当に筍みたいだなあと思っていたら、
「水晶なら石工スキルかしら。細工スキルがあればいいものが作れそうよね」
といいんちょ。
ナットもそれは理解してて、石工スキルと細工スキルを使って、ペンダントなんかにするのが普通らしい。
「それじゃダメなのか?」
「ダメってわけじゃねーけど、水晶だけあってもな」
「他の使い道がないか、白銀の館に相談していいかしら?」
「おお、頼むわ。うちのメンツって生産は大工仕事方面に偏ってっし、そもそもインゴットとか買ってこねーとってなるとなあ」
なるほど。白銀の館がメインにしてるドワーフのダンジョンは
***
「うわぁ、すごい再生数になってる……」
『やっぱり短編は何度も再生されるみたいですね』
短編はついつい何度も見ちゃうからか、どれも再生数がすごいことに。
今までも料理とかルピたちの寝顔とかは大人気。ライブのアーカイブも、歌ってる場面は何度も再生されてるらしく、そっちも人気なんだよな。
「こんにちはー」
「待たせたかしら」
2人してコメントチェックをしてると、ヤタ先生とベル部長が入ってきた。
「これはー、昨日遅くに上げた短編ですかー?」
「そうです。って、すいません。相談した方が良かったですよね」
「いえいえー、ベルさんがチェックしてるなら問題ないですよー?」
「してますしてます」
視線を向けられたベル部長がフォローしてくれる。
ヤタ先生的には、俺たちが勝手に動画を上げても全然問題ないらしいけど、例のミオンの公式女神就任の件があるので、できれば誰かチェックして欲しいってぐらいらしい。
『そうでした。気をつけます』
「だね。ちょっと昨日は慌てすぎてた……」
「大丈夫よ。そこも含めて、私もチェックしてたもの」
『さすが部長です!』
ミオンに褒められて、まんざらでもなさそうなベル部長。
あの時にそのことも考えてくれてたのは、ホントさすがだよなあと。
「それで次のライブはどうするつもりなのかしら? 短編3つの反応を見る感じだと、ケット・シーたちのことは当然として、蒼竜のことも聞かれると思うわよ」
「うーん、屋敷でのライブが続いたんで、港で普通にご飯にでもしようかなって思ってたんですけど」
『いいと思います!』
「そうですねー。島はのんびりしてるだけですよー、がいいんじゃないかとー」
ヤタ先生も賛成してくれてるし、港でライブをやるのはいいとして、
「アズールさんのことは、アージェンタさんの代わりに島に来ることがあるドラゴンってあたりで大丈夫ですかね?」
「実際はそうじゃないのかしら?」
「実は古代遺跡というか、魔導具とか元素魔法が趣味なんですよね。ベル部長に紹介したいぐらいなんですけど……」
それを聞いて部室の机に突っ伏すベル部長。
そりゃ『魔女ベル』として会っておきたい相手だよな……
「はいはいー、頼りになる部長は置いておいてー、少し遊んできたらどうですかー。猫ちゃんたちもー、まだいるんですよねー?」
「『あ……』」
昨日は港の旧酒場でログアウトしたんだけど、島に残ったケット・シーたちは大丈夫かな? また調子悪くなってたりしないか心配になってきた。
「じゃ、ちょっと行ってくるよ」
「は、はぃ。ぃってらっしゃぃ……」
「うん、行ってきます」
生声で送り出してくれるの、やっぱり嬉しいな。
ベル部長は……うん、そっとしておこう……
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