第368話 だいたいあってる

 気配遮断を使い、さらに隠密を発動。そして……


(減重)


 ダッシュで一気に背後まで移動して、


(バックスタブ!)


「ギャウッ!」


 延髄の場所に剣鉈でのバックスタブを食らったルーパグマが、短い悲鳴をあげて倒れる。

 念のためもう一度急所攻撃をして、


【特殊剣マスタリースキルのレベルが上がりました!】

【重力魔法スキルのレベルが上がりました!】


「よし!」


「ワフ〜」


 ルピたちもありがとな。

 気配感知に引っかかったルーパグマ。

 こちらの人数的にも逃げ出しそうなところを、ルピたちに包囲網を作ってもらって仕留めることができた。


「ニャ! ニャニャ!」


「「「ニャ〜!」」」


 なんかケット・シーたちが盛り上がってるけど……解体するか。

 ルピとレダ、ロイ、ドラブウルフたちに、新鮮な肉を切り分けてご褒美に。


「ケット・シーたちが物欲しそうに見てるけど、生肉のままあげるのは……まずいよね?」


『私もそう思います』


 だよなあ。

 アズールさんが妖精とか幻獣はダメなものは口にしないって言ってたけど……せめて火を通してから食べて欲しい。


「スウィー、あとでちゃんとご飯にするからって言っといて」


「〜〜〜♪」


 そうお願いして、皮や骨、残りの肉をインベントリへとしまう。

 港につけばセルキーたちが作ってくれてる干物があるし、そっちを食べてもらうことにしよう。


「クルル〜」


「ん? ラズ、どうしたの?」


 肩へと登ってきたラズに聞くと、答える代わりにそのまま頭の上へと登り、さらに近くの木へと飛び移って上へと。


『何か見つけたんでしょうか?』


「ああ、それか。なんだろう?」


 見上げることしばし。

 結構高い場所から何か木の実が落ちてきて……まだ青いドングリみたいなんだけど。


【シルビナの実】

『シルビナの木になる実。青い実は辛く、熟した実は甘さが加わる。

 料理:塩漬けなどの漬物となる。調薬:強壮剤の材料となる』


『わかりますか?』


「いや、さっぱり。塩漬けする実っていうと梅干し?」


 けど、実を割ってみると……小さいキウイみたいな感じかな?

 青い実は辛いって話だから試しには怖いな。前にルディッシュ(ダイコン)で酷い目にあったし。

 強壮剤ってことはSTRかVITのドーピング剤みたいな? ちょっと怖いけど、作ってみればわかるだろうし、調薬のレベル上げにもなりそう。


「ニャ〜」


「ん?」


 ボス猫がフラフラと近寄ってきて、俺の手にあるシルビナの実に興味津々……

 ああ、ケット・シーたちはこれ食べるのかも?


「食べるなら、はい」


「ニャ!」


 受け取ったシルビナの実をパクッと。

 辛くないのかなと思ったけど……すごく美味しいって感じのとろーんとした表情になってビックリする。


『ショウ君。あの……マタタビって実はなったりしますか?』


「え? ああ! マタタビの実か!」


 まさに猫にマタタビ……っていうほど酔っ払ってはないか。

 妖精だからかな? でも、あんまりたくさん食べさせるのはどうかなって気になるな。


「えっと、スウィー。他のケット・シーたちも食べて平気か聞いてくれる?」


「〜〜〜?」


「ニャ。ニャーニャ」


 なんかたくさん食べる物ではないらしく、1人1個あればとのこと。

 じゃ、ラズに適当に落としてもらって、余った分は調薬に使うかな。


「ラズ〜、適当に落として〜」


「クルル〜♪」


「「「〜〜〜♪」」」


「ああ、フェアリーズもありがとう」


 拾うのは……ケット・シーたちがやってくれるのね。

 ルピたちはもう肉を平らげて警備に目を光らせてくれてるし……俺のやることがないな。


 ………

 ……

 …


「ふう。こんなとこかな」


 ブルーガリス(てんさい)の採集はケット・シーたちにも手伝ってもらい、かなりの量を収穫。

 みんなが河原で遊んでる間、俺だけ風下の離れた場所で砂糖を煮出す作業を繰り返した。

 火の精霊に火力調整をお任せできるし、皮むきとアクを取るのが面倒だったくらいかな?


「ミオン。今って何時ぐらい?」


『もうすぐ9時半です』


 ブルーガリス全部を空砂糖にはできなかったけど、何か時間が余った時にやることにしよう。


「じゃ、そろそろ港まで行こうか」


「ワフ!」


「「バウ!」」


 ルピの号令でレダとロイが動き、ドラブウルフたちが散開する。

 そこまで警戒しなくてもいい気もするけど、ルピがかっこいいので良し。


「じゃ、しゅっぱーつ」


「〜〜〜♪」「クルル〜♪」「ニャ!」


 ………

 ……

 …


「オッケ。今日もありがとうな」


「「バウ」」


 護衛してくれていたドラブウルフの2家族が山へと帰っていくのを見送る。

 ルーパグマの肉は半分にして、それぞれの家族に持って帰ってもらった。


「ニャ?」


「〜〜〜♪」


『何を話してるんですか?』


「これから向かう先ってどういうところ? ぐらいの会話かな」


 スウィーが海が見える場所に行くよ〜みたいな話をしてて、なんかケット・シーたちのテンションが上がってる模様。ああ、魚が食べられるかもしれないからとか?

 崖に沿ったつづら折りの道を上りきると、


「ほら、海が見えるよ」


「「「ニャー!」」」


「ニャッ!!」


 なんかそのまま海まで駆け出しそうだけど、それはボス猫がしっかりと押さえてるっぽいな。

 特に危険なわけでもないからいいんだけど……トゥルーたちと会って揉めるのは勘弁して欲しいところ。


「クル〜?」


「うん。今日はトゥルーたちとご飯にするよ」


「ワフ〜」


 ここで眺めててもなんなので、港の方へと降りていく。

 なんだけど、右手側、カムラスの樹があるあたりが随分と手入れされてきてるな。


「「「キュ〜♪」」」


「おー、ありがとう!」


 坂を下りていく途中で、下草刈りをしてるセルキーたちと遭遇。

 農具をもっと用意してあげたほうがいい気がするし、戻ったら鍛冶場に行かないと。

 挨拶をしたあと、1人が里へと続く洞窟の方へ向かったので、トゥルーを呼んできてくれるんだろう。


「ニャニャ?」


「〜〜〜♪」


「ニャ!?」


 スウィーがセルキーたちを説明してくれてるのは助かるんだけど、なんか俺がこの島を治めてて一番強い王様みたいなニュアンスに聞こえる……


「ワフ?」


「うん。まずは荷物を置いて、グレイプルワインの仕込みからかな」


 トゥルーが来たらご飯会をして、今日のうちに例の洞窟の上、高台の奥へ行きたいところだけど……ちょっと時間が足りないか。

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