第369話 銀猫団

「「「ウミャ〜♪」」」


「「「キュ〜♪」」」


 ルピたちに混じって、ケット・シーたちがオランジャックの干物、炙ったやつを美味しそうに食べている。

 そして、その様子に嬉しそうにしてくれるセルキーたち。魚好きが増えて良かったって感じなのかな? でも、


「急にお客さん連れてきてごめんな」


「キュ〜♪」


 隣に座るトゥルーの頭を撫でる。

 ケット・シーたちを見て少し驚いてたけど、スウィーがしっかり説明してくれたので、揉めることもなく。隣でボス猫が礼儀正しく頭を下げたのもあるかな。


「〜〜〜!」


「はいはい、ちょっと待って」


 石窯オーブンからモーブプラ(さつまいも)の甘い匂いがしてきたからだな。

 スイートポテトが焼き上がった合図……


「お、いい色」


 グローブをつけて慎重に取り出すと、いい焼き色になった一口サイズのスイートポテトが現れる。最後に炒ったペリルセンス——いりごま——をパラパラっとふって完成。


「熱いから気をつけてね」


「クル〜♪」「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 フェアリーズが風の精霊で冷ましてくれてるのを見つつ、もう一つ別のお菓子を。

 スイートポテトに卵黄だけ使ったので、余った卵白で作ったメレンゲクッキーを石窯へ。

 焼き上がりの確認はセルキーたちにおまかせで。


『ショウ君。部長とセスちゃんがスタジオに来たいと』


「あ、うん、オッケー」


 ベル部長のライブはもう終わってるよな。

 今日もアミエラ領のドワーフのダンジョンへ潜ったはずだし、何か進展があったとか?


『兄上。そこにおるのはケット・シーの団長か?』


「は?」


『その……貫禄のある子のことよ』


「ああ、このボス猫のことですか。確かにこの間、リーダーだったケット・シーですけど……団長?」


 そういえば、若い子たちは病状の確認に鑑定してたけど、ボス猫にはしてなかったっけ。というか団長?


【ケット・シー(団長):友好】

『妖精ケット・シー、銀猫団の団長。

 銀猫団はかつてケット・シー王国の騎士団を務めていた』


 銀猫団? ケット・シー王国?? 騎士団???


「なんか謎だらけなんですけど……」


『そのケット・シーたちって、ラムネさんがいた島から転移魔法陣で逃げてきたらしいのよ……』


「『え?』」


 ひょっとして、ラムネさんがケット・シーの王国を……


『物騒なことを考えておるやもだが、ラムネ殿が悪事を働いたわけではないぞ? まあ、本来は行かんような山越えをしたせいで、いろいろと変な方向に進んだようだがの……』


 セスの説明によると、ラムネさんとファンクラブは見つけた古代遺跡は放置して、その遺跡がある山を越え、その先に見つけたオークの集落を不意打ちしたらしい。

 が、討ち漏らしたオークたちが逃げた先にはゴブリンの集落があり、オークとゴブリンが追われるままに逃げた先にはケット・シーの村が……


「うわあ。それでケット・シーたちは、遺跡に逃げたってことであってるよな?」


『うむ。詳しいことはわからんが、おそらくそうであろうとな』


『あの、それって今になってわかったんですか?』


 とちょっと怒ってるミオン。


『ケット・シーたちが来た転移魔法陣の先は崩落していて行き止まりだったのよ。今日のお昼に土砂を撤去して、その先でラムネさんたちと遭遇したらしいわ』


「なるほど。それでやっと、ケット・シーたちがオークやゴブリンに追われたってわかったのか」


『そういうことよの』


 うーん、不可抗力なんだろうけど、釈然としないというか……

 いかにもラムネさんらしい感じだけど、ケット・シーたちも災難だったよな。


「えっと、じゃ、ケット・シーたちはもう島へ帰れるってことでいいんです?」


『ええ、そうなのだけど、ラムネさんの島に帰すのは危険だっていう人もいて、結構揉めたそうなのよ。結局、彼らの意思を尊重すべきって話で落ち着いたそうなんだけど……』


 なるほど。

 とはいえ、ボス猫……団長の意見がないとってことか。


「ケット・シーたちの意見を取りまとめるためにも団長を呼びたいと。理解はしたけど……アージェンタさんかアズールさんが迎えに来てくれないとなんだよなあ」


 大型転移室まで行けば、死霊都市へと続く転移魔法陣があるから、向こうの都合はともかく送り出せはするけど……内緒にしてあるし。


『戻ってお手紙を出しますか?』


「やっぱりそれかな?」


 セルキーの里から神樹経由で戻れば、今日のうちに手紙を出せるか?


「キュ〜!」


「ん? どうしたの?」


 セルキーたちが東の空を見上げてて……


「あー、解決したわ」


『む?』


 粒のように見えていたそれがどんどんと大きくなってきて、何か持ってるっぽいけど、あれって馬車……の本体部分かな。


『蒼竜……よね?』


『はい。蒼竜アズールさんです』


 竜になった姿は真贋で一度イメージだけ見たっけか。

 あの時の姿そのままの綺麗な青い竜。


「ショウ君、ごめーん!」


 そう叫びながら俺たちの真上をぐるっと旋回。


「「「フギャー!」」」


「ニャニャ〜」「〜〜〜♪」


「落ち着いて。君たちをここへ連れてきてくれた蒼竜さんだってば」


 ボス猫とスウィーがパニックになってるケット・シーたちを宥めてる。

 トゥルーたち驚くかなと思ったけど意外と平気そうで……アージェンタさんを見たことがあるからか。


「キュ〜?」


「ワフ」


「うん。灯台のあたりがいいかな」


 持ってる馬車を置けて、かつ、アズールさんの翼や尻尾が周りにぶつからなさそうな場所。

 両手を上げて、斜め前、灯台へと続く堤防の方へと倒すと、アズールさんが理解してくれたのか、そちらへとホバリングしつつ着地した。

 二本足で立つと、背の高さが灯台と同じぐらいあるんだなあ……


「行こう」


「ワフ!」「キュ〜!」


 アズールさんは人の姿に戻ることはなく、そのまま頭を地面近くまで下げて、俺たちを迎えてくれる。


「また急にごめんね。ケット・シーたちが元いた場所に帰れるようになったって話でさ」


『兄上。事の次第はマスターシェフ殿から竜族へと伝わっておるぞ』


 とのこと。

 そりゃまあ、預けてある竜族に説明はするよな。


「えっと、だいたい聞いてます」


「良かった。一応、全員帰れるように竜篭を持ってきたんだけど、どうしよう?」


 どうしようって……どうしよう?


『兄上。団長さえ戻って来れば良いぞ』


『そうね。体調を悪くして来た子たちは、無理せず島で療養を続けた方がいいわ』


『そう思います!』


「えっと、ちょっと相談しますね」


 ミオンたちはそう言ってくれるけど、やっぱり本人たちが帰りたいっていうなら、そうした方がいいかなと。体調ももう大丈夫っぽいし。

 まずはボス猫と相談を、スウィーを呼んでと思ったら……


「〜〜〜♪」


「ん、それでいいの?」


「ニャニャ」


 やってきたスウィーの話だと、ボス猫だけ帰る方向らしい。


『えっと、どういうことかしら?』


「あ、ボス猫……団長だけ帰るそうです」


「了解。じゃ、他の子たちはまだ療養を続けるって伝えておくよ」


「あ、はい」


 ベル部長に答えたら、アズールさんに伝わったみたいだけど、なんかうまく説明になったからいいか。

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