第366話 女神の威光も信心から

 帰宅して夕飯を作って食べて一段落。

 デザートの焼きプリンを渡し、美姫に今日あったことを簡単に。

 死霊都市から島への転移魔法陣のことは伏せつつ、蒼竜アズールさんとケット・シーのことについて話した。


「って状況なんだけど、マスターシェフさんに説明しといてくれるか?」


 結局、アズールさんは転移魔法陣で帰り、ケット・シーたちは島にしばらくいることに。ボス猫もみんなの体調が良くなるまでここにいたいらしい。

 あの山小屋がある盆地は平和だし、ルピ、レダ、ロイに護衛というか見張りをお願いしてあるし、体調が悪くなったらスウィーがどうにかしてくれるはず。


「ん? どした?」


「兄上はいつも突然すぎであろう……」


「え?」


 大きくため息をついて、空になった焼きプリンの容器を突き出されたので……俺の分を渡す。

 それを受け取って満足そうに蓋を開けつつ、


「それで我はどうすれば良いのだ? というか、どこまで話して良いのだ?」


「あー、うん。蒼竜アズールさんのことは話していいよ。この前、白竜姫様を迎え来たのがアズールさんだし、あの時アージェンタさんから聞いたろ?」


「ふむふむ。で、兄上はそのアズール殿とどうやって知り合ったのだ?」


「死霊都市に設置されてる翡翠の女神像、もともと名も無き女神像だったやつを運んでくれたんだよ」


 嘘は言ってない。

 あれ、すっごい重そうだったし。アズールさんに運んでもらわないと、相当苦労しただろうなあ。


「なるほどのう。では、ケット・シーらが具合が悪くなった理由と言うのは?」


「死霊都市に残ってる瘴気にやられたんだって。若い妖精だと抵抗力がないかららしいぞ」


「それで兄上のおる島まで運んだのか。瘴気が問題というのであれば、竜の都とやらでも問題なさそうではあるが……」


「いや、最初は竜の都に連れていったらしいぞ。で、悪化はしなくなったけど、良くもならなかったから、俺の島に連れて来たって言ってたし」


「頼られておるのう……」


 島で振る舞った料理のおかげで、白竜姫様の体調が良くなったって話があったからだよな。

 とはいえ、あれも食材が優秀だからって気がする。スウィーやトゥルー、パーンたちのおかげだしなあ。


「竜族は兄上が薬膳スキルを持っていることは知っておるのか?」


「うーん、言ってないし、さすがにそれは知らないはず」


 NPCが何らか俺のスキルを見てる可能性はあるかも? アズールさんだし。

 いや、でも、薬膳スキル取ったのは昨日だし、やっぱそれはないよな……


 ………

 ……

 …


 夜になって、バーチャル部室で作戦会議。いや、作戦ってほどでもないか。

 ともかく、俺が設置した翡翠の女神像は、その女神パワー(?)が落ちてきてるのは間違いないらしいので、それをどうするかも含めて。


『セスちゃん、お願いします』


「うむうむ。まあ、マスターシェフ殿であれば『さすショウ』と理解してくれるであろう」


「それで、教会の見学は許可するのかしら?」


 それなんだよなあ。とミオンをチラッと見ると、ニコッと笑顔を返してくれてドキッとする……

 いや、そうじゃなくて。


「えっと、他の教会ってどうしてるんです?」


「南の教会はレオナさんの親衛隊が雇ったNPCに管理してもらってるわね」


「紅緋の女神像がレオナ殿によう似ておるゆえの」


 とのこと。

 NPC雇ってってまたすごいなと思ったら、マーシス共和国の教会本部から若い人たちが派遣されてきたらしい。


『その人たちが管理してくれてるんですか?』


「ええ、修行の一環って話らしいわ」


「アミエラ領の開拓地にも教会を設けておるのだが、そちらにも王都の教会から管理の人間が来ておる。もちろん、彼らが生活できるように幾ばくかは払わねばならんがの」


 そういうことならいいのかな?

 誰もいない間に女神像が盗まれるなんてことは……竜人族の人たちが見張ってくれてるだろうし問題ないか。……ん?


「でも、NPCが管理してるだけなら、紅緋の女神像からの聖域も切れてるんです?」


「女神像にお祈りに来るプレイヤーが多いから、それは問題ないわね」


 なるほど。

 お祈りを捧げれば聖域は問題なく維持されるし、STRとVITに+3%の補正も1時間つくらしい。

 死霊都市中心部のインスタンスダンジョンに入る前に、お祈りして行くのが流行りなんだとか。


「うまくできてるなあ」


『北東の教会でお祈りした場合は違うんですか?』


「蒼空の女神像の場合はINTとDEXに+3%の補正が1時間つくそうよ。向こうは魔王国にある教会から派遣されたNPCが管理してるらしいわ」


 じゃ、翡翠の女神像だとAGIとLUK? なんか余り物感があるけど、悪くはないかな。


「翡翠の女神像がある教会は竜人族が管理してくれてるのよね?」


「だと思います」


「では、参拝者が現れれば問題あるまいて」


 参拝者って……まあそうなんだろうけど。


***


 IROにログインし、まずは状況を確認……

 ケット・シーたちは大丈夫かな?


「バウ」


「ロイ、おはよう。って、レダは?」


 そう聞くと右を向いて、


「バウ」


「レダもおはよう。ちゃんと護衛しててくれたんだ。ありがとうな」


 2人の頭を撫でてから蔵の中を覗くと、ケット・シーが9人、車座になって何か話してるっぽい。けど、会話の内容はさっぱりなんだよな。


「ニャ!」


「あ、うん。えっと、楽にして?」


 ボス猫が俺の前に来て跪くんだけど……俺にも?

 スウィーがフェアリーの女王様だからだと思ってたんだけど、いったいどういう説明になってるのやら……


『ショウ君、鑑定して病状の確認を』


「あ、そうだね。ちょっとじっとしててね」


 通じてないだろうけど、一応断ってからケット・シーたちを鑑定していく。

 うん、種族名の隣にあった『マナ不調』が消えてるし、これは治ったってことで良さそうかな。


『良かったです』


 あとは死霊都市から瘴気が無くなればってところだけど、そもそも無くなったかどうかを測る方法がないんだよなあ。


「さて、どうしようかな。ここはレダとロイに任せて良さそうだけど……」


『トゥルー君のところに行きませんか? 猫さんたち、きっとショウ君のお魚料理を食べたいと思いますし』


「りょ。っていうか、今日は向こうへ行く予定だったんだよな」


 途中でブルーガリス(てんさい)を採集して砂糖作りをしないとと思ってたのもあるし。

 ただ、レダとロイを置いて、ドラブウルフたちのところに行くのはなあ。


『スウィーちゃんに相談してみますか?』


「あ、うん、そうだね。ルピ、スウィーとラズを呼んできてくれる?」


「ワフン!」

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