第365話 恭順の意を示す

 ま、まあ、効果は抜群っぽいからいいか。

 とりあえず、味を確認……


「うん、甘酸っぱくて美味しい。スウィー、パーン、ラズも食べてみて」


「〜〜〜♪」「リュ〜♪」「クル〜♪」


 美味しそうに食べてくれてるし大丈夫かな?

 いや、みんなで食べてみてからの方がいいか。


「ルピ」


「ワフ〜」


 手に取った一切れをルピに食べさせてあげる。

 隣でしっぽふりふりで待っているレダとロイはランチプレートに取り分けて。

 お目目キラキラで待ってるフェアリーズには小鉢によそってテーブルの上へと。


「僕も食べたいんだけど!」


「あ、はい。どうぞ」


 両手が塞がってるので、アズールさんが開けた口に放り込む。


「ん〜、美味しいねえ〜!」


『うう、ずるいです……』


 ミオンが悔しがってるし、帰る前にささっと作るか。

 ピザを作るのにトマトも買ったし、はちみつも残ってたはずだし。


「ほら。君も食べてみなよ」


「ウニャ……」


 さすがに周り全員食べたせいか気になってる様子。


「はい。指、噛まないでね?」


 口の前に持っていくと、すんすんと匂いを嗅いでから……パクッと。

 驚いたのか目を見開き、そのままじっくりと味わってから、


「ウニャィ!」


 ん? 今、しゃべった? いや、気のせいっていうか、そう聞こえただけかな。


「ま、大丈夫そうだからいいか。じゃ、これ食べさせてあげて」


「リュ」「〜〜〜♪」


 パーンに渡すと、スウィーとフェアリーズを従えて、横になっているケット・シーたちのところへと向かう。


「ニャー……」


「あー、アズールさん。もう離してあげてください」


「う、うん」


 ボス猫、なんか萎れてるし、もう大丈夫だと思う。

 拘束を解かれたボス猫がうなだれてて、ちょっと可哀想というか……


「仲間が心配なんでしょ。ほら、見に行かないと」


「ウニャーン……」


 両脇を抱え上げ……意外と軽いな。パーンたちのところへと。

 フェアリーズが自分たちが普段使ってる小さいスプーンで、ライコスの花蜜漬けをケット・シーたちに食べさせている。

 さすがにすぐに調子が良くなったりはしてないけど、美味しいようでウニャウニャ言いながらしっかり食べてくれてるっぽい。


「なんか足らなくなりそうな気がしてきたし、もう少し作るか……」


 看病の方はパーンたち、スウィーたちに任せておいた方が良さそう。

 ボス猫は……まあそばにいたいだろうし、好きにさせておこう。


「あー、ショウ君。それ白竜姫様へのおみやげにもらっていいかな?」


「あ、はい。いいですよ」


「ごめんね。今日ここに来たことバレたら、絶対に『おみやげは?』ってなりそうだし……」


 白竜姫様におみやげはいいんだけど……全部を持っていかれるのは困る。手頃なサイズの……っと、その前に、


「スウィー、パーン、これ白竜姫様にお裾分けしていい〜?」


「〜〜〜♪」「リュ〜♪」


 オッケーの返事が聞こえてきたので、小さな壺に取り分ける。

 残った分は頑張ってくれたフェアリーズやウリシュクたちに食べてもらおう。

 そういえば……


「ケット・シーって肉とか魚は平気ですよね?」


「うん。好物だよ」


「じゃ、オランジャックの干物なら食べられるか」


 ルピたちとボス猫の分をとりあえず。

 生でも美味しいだろうけど、せっかくなので軽く炙ろう。


「すっごくいい匂い!」


「食べます?」


「うっ、いや、お酒が欲しくなるからやめとく……」


 残念そうに呟くアズールさん。今日のこれは仕事中扱いなのかな。

 まあ、今はグレイプルワインの在庫もないから出しようもないけど。


『ショウ君。あんまり温めすぎると猫さんが』


「ああ、そうだった。猫舌だよな、きっと」


 一番端に置いたやつなら大丈夫かな?

 手で持って火傷されても困るし……竹串刺して木皿に置いとこう。


「ルピ、レダ、ロイ。おいで」


「ワフン」「「バウ」」


 それぞれ、専用のランチプレートへよそってあげると、美味しそうにはぐはぐと食べ始める。ルピたちは熱いの平気だよなあ……


「クル〜」


「おっとごめん。ラズはレグコーンがいい?」


「クルル〜♪」


 ラズはレグコーンが大好き。

 持ちやすい大きさに切ってあげたのを渡すと、端から綺麗に食べていくのが可愛い。


「これは帰る時にでも」


「いつもごめんねー。そうそう、小型魔導艇はアージェンタもいいって言ってたし、欲しい時にいつでも言ってね」


「あ、はい。ははは……」


 本当にいいのって感じだけど、釣り船がわりに使えるだろうし、ちょっと欲しいんだよな。


「さて、どうかな?」


 蔵の方へ戻ると……ああ、もう起き上がれるぐらいには回復してるんだ。

 パーンが持っていったライコスの花蜜漬けはしっかり空っぽになってて、うん、これは足りてないな。


『良かったです……』


「おかわり作るから、器回収するよ」


「リュ〜」


 っとその前に、


「はい。これ食べて」


 回復しつつある仲間を眺めていたボス猫の前に、オランジャックの干物を置く。


「ニャ!?」


「君の分ね。小骨とか気をつけてね?」


 なんかこう……フォークとかナイフとか必要だったりするのかな?

 竹串あるから、がぶっと齧り付くのが一番美味しいと思うけど。


「ワフン」


「「バウ」」


 俺の隣にいるルピたちが圧をかけてる気がしなくもないけど、食べてくれるならいいや。

 恐る恐る手に取って、それを口へと運ぶと、


「ウニャィ!」


 やっぱり「美味い!」って聞こえるんだよなあ……

 そのままガブガブと豪快に食べ、あ、ちゃんと頭と骨は残してるな。


『ショウ君。猫さんたちを預かるつもりですよね? 時間はまだありますけど、ログアウトした後はどうしましょう?』


 うん、それなんだよな。

 ルピ、レダ、ロイがいるから、蔵で安静にしててもらう分には問題なさそうだけど。


「えっと、この子たちしばらく預かるってことでいいんです?」


「うん、そうしてもらえると助かるかな。戻るとぶり返すだろうし……」


「わかりました。あ、このボスは……」


「どうしよう? 連れて帰った方がいい?」


 うーん、好きにさせたいところかなあ。

 死霊都市に他の仲間のケット・シーたちがいるし、そっちは大丈夫なのかとかもあるわけで。


「あ! スウィー、ちょっといい?」


「〜〜〜?」


 俺が直接ボス猫と話せないなら、スウィーを介して聞けばいい。

 呼ばれて定位置に座ったスウィーに、ケット・シーたちを預かる話と、ボス猫がどうしたいか聞いて欲しい旨を伝える。

 ふんふんと頷いたスウィーがボス猫の元へと飛んでいき、


「ニャ?」


「〜〜〜?」


「ニャー!」


 ボス猫、スウィーに向かって片膝ついてるんだけど……どういうこと?

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