第364話 不足しがちな栄養分?

「「バウ」」


「ああ、レダもロイもごめんな」


 蔵の入り口付近、転がしてある端材を咥えて片付けてくれる2人。

 ケット・シーたちが横になるスペースは十分できたんだけど、


「リュ?」


「あ、うん。ここでいいけど、ちょっと待ってて」


 石畳にごろんは体に悪そうなので、敷物を取ってこないと。

 グレイディアやランジボアの皮は余らせてて、山小屋1Fに積んであるので持ってこよう。あと亜魔布も。

 急いで取りに下りて戻ってくると、アズールさんがなんとも申し訳なさそうに、


「ごめんね。僕も手伝いたいんだけど……」


「いえいえ」


 と漏らす。その両手はボス猫を押さえてる状態。

 さすがに抵抗しても無駄だとはわかったみたいだけど、油断したらするっと逃げるだろうし。

 ランジボアの皮を敷いて、その上にグレイディアの皮をさらに。

 肉は食べて消費されていくけど、皮は素材加工前の状態のがたくさん残ってて良かった。


「パーン、お願い。そっとね」


「リュ〜」


 優しくケット・シーたちを寝かせてくれる。

 全員が横になったところで、亜魔布を掛け布団がわりにそっと被せる。

 うーん、効果があるかどうかわからない。やっぱりちゃんと掛け布団にして、中に綿とか詰めないとダメなのかな……


『ショウ君。スウィーちゃんたちが何か相談してますよ』


「ん?」


 ミオンに言われて振り向くと、スウィーとフェアリーズが何やら……、あ、終わったっぽい。

 ぴゅーんと飛んできたスウィーが、


「〜〜〜?」


「ああ、フェアリーの蜜。助かるよ。レダ、ロイ、スウィーたちの護衛お願い」


「「バウ!」」


 おおお、いつも以上に飛ばしてるなスウィーたち。

 レダとロイがちょっとびっくりして慌てて追いかけてるし。


「クルル〜」


「あ、うん。見ててくれると助かるよ」


 ラズはケット・シーたちの様子を見ててくれると。

 そしてパーンたちは、


「リュ?」


「うーん、そうだなあ。トマト……ライコスは大丈夫だと思うから持ってきてくれる?」


「リュ〜」


 猫って玉ねぎとかダメだった記憶が。で、トマトがダメな動物は聞いたことがない。いや、でも一応確認した方がいいのかな?


「アズールさん。ケット・シーって食べちゃダメなものとかあります?」


「妖精や幻獣の類は自分にとって毒になるものを口にはしないよ」


「なるほど。あ、昨日食べた何かで調子悪くなったわけじゃないんですね」


「うん、それはないと思う」


 ふむふむ、勉強になる。

 じゃ、スウィーたちが食べたいって物に関しては、気にしなくても大丈夫かな? いや、でも、スウィーは好奇心ありすぎて怖いんだよな……


『ショウ君、何を作るつもりですか?』


「うーん、スウィーたちが蜜を取ってきてくれるし、パーンたちがライコスを取ってきてくれるし、トマトの蜂蜜漬け……ライコスのフェアリー蜜漬けがいいかな」


 砂糖の手持ちが少ないけど、フェアリーの蜜が甘いから大丈夫だと思う。

 薬膳スキルが効いてくれるといいんだけど……と、アズールさんが不思議そうな顔を。俺がミオンに返事しちゃったからか。


「えっと、アージェンタさんからの手紙に『マナ不調』ってあって、確かにさっきそうだなってわかったんですけど、なんでこの島に?」


「え? あ、うん、それなんだけど……」


 アズールさんの話によると、ここに運び込まれたケット・シーたちは若い子たちで、死霊都市に残る瘴気にあてられたらしい。

 成長した妖精であれば、多少の瘴気は平気だし、むしろそれを綺麗にしてくれる存在なんだけど、若いと逆にやられちゃうんだとか。

 交流会が終わって翡翠の女神像がある教会に移動したあたりから体調を崩したらしい。


「姫を連れて帰ってホッとしたところで、アージェンタに呼び出されてさ」


「お疲れ様です……」


「で、急いで行って診てみたら『マナ不調』で、慌てて竜の都に連れていったんだよ」


 アズールさん、どうやら医学の心得、というかスキルを持ってるっぽい?

 ともかく原因は分かったので、それを取り除くべく動いたんだけど、


「回復はしなかったんです?」


「悪化はしなくなったけど良くもならない感じ。それでショウ君の島と料理のことを思い出したんだよね。姫も随分良くなったって実績があるし」


 なるほど。それでアージェンタさんと相談して、まずは手紙をってなったのか。


『その瘴気はずっと残ったままなんでしょうか? ショウ君が作ってくれた真なる翡翠の女神像なら……』


「えっと、その死霊都市の瘴気って女神像で祓えたりはしないんですか?」


「それ、ちょっと恥ずかしい話なんだけど、翡翠の女神像からの聖域が普通になっててね……」


 アズールさんがまた申し訳なさそうな顔に。


「え? 普通って?」


「うちの竜人族たちしっかり管理してくれてるんだけど、ショウ君みたいな奇跡的な聖域じゃなくなってるんだよね」


「奇跡的って……」


 俺が出した特大の聖域は、教会の周りの緑を再生させ、噴水を聖水に変えてしまったりとか……やばい聖域だったんだけど、それが普通の聖域に戻ったらしい。

 で、問題はさらにそこからじわじわと範囲も狭くなって来つつあるという……


『NPCさんだとダメなんでしょうか?』


「やっぱり、それか」


「ん?」


「あ、いや。えっと、祝福が必要なんじゃないかなって」


「あー、それかあ……」


 誰か試しに……セスあたりに頼むのが一番だけど、あいつもずっといるわけには行かないし、一般プレイヤーにも行けるようにしてもらった方がいいのかな。

 交流会みたくマスターシェフさんに仕切ってもらうのが良さそうだけど、あの人だって自分のお店とかあるよな。


「フギャー!」


「あ、こらっ!」


「おっと」


 アズールさんの拘束を抜けて飛び掛かってきたボス猫をキャッチ。

 引っ掻いてくるんじゃないかと思ったんだけど、なんだか急に大人しくなって、なんでって思ったら、


『ルピちゃん、ナイスです!』


 ルピがボス猫のしっぽを咥えてる……


「ちょっと落ち着いて。あの子たちは、ここに連れてこないともっと大変なことになってただろうし、俺がこれから体にいいものを作るから」


「ウゥ〜!」


 唸ってるし、毛も逆立ってるし。まあ、通じてないか。

 スウィーやトゥルー、パーンたちとは守護者の称号で繋がりが強化されてるんだろうな。


「〜〜〜!」「リュ!」


「っと、スウィーもパーンもおかえり。まあまあ落ち着いて……。あ、すいません」


 俺に唸り声をあげてるボス猫に怒ってくれる2人を宥めつつ、ボス猫をアズールさんに預け直す。

 スウィーたちからフェアリーの蜜を、パーンたちからライコスを受け取って土間へと移動。ライコスのフェアリー蜜漬けを作ろう。

 ライコスは食べやすいように一口サイズに角切り。グリーンベリーは皮を剥き、その皮を千切りにする。

 器にオリーブオイル、フェアリーの蜜、砂糖と塩を少々、さっきのグリーンベリーの実を絞った果汁を加えて混ぜ、ライコスを入れてしっかりと馴染ませる。


【薬膳マスタリースキルのレベルが上がりました!】


 お、これはうまく行ったかな?


【(仮)ライコスの花蜜漬け】

『ウリシュクが育てたライコスをフェアリーが採集した花の蜜で漬けたもの。(解説修正、追記可能)

 効能:MP回復60秒につき+5(1時間)、抗疫II(6時間)

 料理名:(未定)、作成者:ショウ』


 あ、やばい。

 これまたやらかしたかも……

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