第363話 詳しい話は落ち着いてから
「マナ不調ってなんだろう?」
『わからないです。でも、体調が悪くなってるなら早くなんとかしてあげたいです……』
「そうだよな。えっと、オッケーはいいとして、ずっと待ってるわけにも行かないし、港の方に行ってることを伝えておくか」
今すぐ向かってくる可能性もあるかな?
いや、それを気にしてたらやっぱり動けないし、こっちの予定をちゃんと書いておく方が向こうも動きやすいか。
『ショウ君。死霊都市に繋がる転移魔法陣を開けておくのはダメですか?』
「あー、あれか……」
竜の都を経由して来るよりもそっちの方が手っ取り早いはず。いや、今から俺が行って……もいきなりは向こうも困るか。
「一応、ニーナに説明して、竜族が来た時だけ転移エレベーターを使えるようにできるか聞いてからでいい?」
『はい!』
「じゃ、返事出して出発するよ」
………
……
…
転移魔法陣の蓋の確認もしたかったので、俺とルピ、スウィー、ラズだけで下りてきた。
レダとロイ、フェアリーズには上の十字路で待っててもらってるし、さくっと終わらせよう。
「うん。大丈夫」
出てすぐ左側にあるのが死霊都市と繋がってる方で、石壁の蓋はきっちり被さってている。そのさらに奥、南の島(?)と繋がってる転移魔法陣の蓋も問題なし。
「ニーナ。転移魔法陣から来たのが竜族と同行者の時だけ、転移エレベーター使えるようにってできる?」
[はい。了解しました。現在確認済みのドラゴン、個体名、アージェンタ、アルテナ、バーミリオン、アズール、および、その同行者のみを通行可能とします]
「竜族がいない時は絶対阻止で」
[はい。了解しました]
ゲイラさんとか竜人族だけの場合は悪いけど出直してもらおう。無いとは思うけど悪魔の擬態が怖いし……
「じゃ、死霊都市に繋がってる方だけ開けるか」
と蓋に手をかけようとしたところで、
「ワフ!」
「ん? えっ!?」
ルピが吠えた方向を見ると、部屋の奥の方にある、竜の都に繋がってる転移魔法陣が光っている。
このタイミングって、ついさっき出した手紙を受け取ったアージェンタさん?
「行こう」
「ワフン」
慌てて駆け寄ったところで、ちょうど光がおさまり、現れたのは、
「すぐ来ちゃってごめん」
と謝るアズールさん。その足元にはケット・シーが4人かな。
見るからに元気がない様子、ぐったりしていて不安になる。
「ちょっとこの子たち預かってくれる? もう4人いるんだ」
「あ、はい」
転移魔法陣の外へと運び出すべくケット・シーを抱え上げるんだけど、大きいのにすっごく軽い。
大きい猫種ってメインクーンだったっけ? あれに似てるような……いや、猫は服は着てないか。
「えっと、マナ不調っていうのは8人だけです?」
「うん。じゃ、もう一回行って来るから」
とアズールさんが転移魔法陣へと消えた。
『死霊都市にいた猫さんたち全員じゃなくて良かったです』
「だね」
えっと、ずっとここに寝かせておくわけにもいかないよな。
「ルピ、スウィー。ちょっと上に行って、パーンたち呼んで来てくれる? 10人ぐらい来てくれると助かるんだけど」
「ワフッ!」「〜〜〜♪」
山小屋まで運ぶにも俺とアズールさんだけじゃ辛いし、パーンたちに手伝ってもらおう。
上に行った時にレダとロイ、フェアリーズにも説明してくれるだろうし。
『ショウ君。猫さんたちを診てあげられませんか?』
「うーん。鑑定でいいのかな……」
やってみて何かわかればいいけど。
【ケット・シー:マナ不調】
『猫の妖精。独自の王国を築いて生活していると言われ、近接戦闘が得意だったり、魔法が得意だったりする者もいる』
「この『マナ不調』がそれっぽいけど……これをもう一回……」
【マナ不調】
『体内のマナが不足しており、回復もしない状態のこと』
「うわ、これはキツい気がする。けど、どうしたらいいんだろ?」
『ショウ君のお薬で、何か効きそうなものはありませんか?』
薬……なにかいいのあったかな。
一番近い状態異常は悪疫だっけか。HPもMPも回復しないやつ。
でも、悪疫状態を回復する薬は作れてないんだよな……
「あ、とりあえずこれでどうだろ」
マントを脱いで、ぐったりしているケット・シーたちに被せる。
MP回復にプラス補正があるから効いてくれるといいんだけど……
【応急手当スキルのレベルが上がりました!】
『あっ!』
「これ、応急手当なんだ……。まあ効いてくれてるなら、なんでもいいけど」
じゃ、亜魔布でブランケットか何かを作ればいいか。
と、転移魔法陣が光って、今度も4人の……あれ? 1人多い?
「ごめん、この子は付き添いだけど……」
「あ、はい」
その1人増えたのは、昨日、セスの配信越しに見たボス猫。
すごい顔をして俺を睨んでて、
「シャー!」
「ああっ!」
アズールさんが慌てて押さえてくれる。
うん、なんか動物に威嚇されるのって新鮮。
懐かれたりすることの方が多いし、それ以外だと真白姉に怯えて逃げるかだったもんなあ。
「クルル!」
「ああ、いいよいいよ。こんなとこにいきなり連れてこられたらしょうがないって」
フードから飛び出てきたラズが代わりに怒ってくれて、それに驚いてるボス猫。
やっぱりカーバンクルが珍しいからかな。
「ワフ!」「リュ〜!」
「ああ、ありがと。パーンも急にごめんな」
ルピとスウィーが連れて来てくれたのは、要望通りパーンを含めて10人のウリシュクたち。
「リュ?」
「うん。この子たち、山小屋の方まで運んで欲しいんだ」
「「「リュ!」」」
任せろと頼もしく答え、1人ずつケット・シーを背負ってくれる。
「この子も連れてっていい?」
とボス猫を押さえたままのアズールさん。
「ええ、もちろん」
忘れ物はないよな。死霊都市に繋がる転移魔法陣の蓋は……大丈夫っと。
今日の港に行く予定はキャンセルになるけどしょうがない。
「助かるよ。死霊都市にいると悪化する一方だから、竜の都へと運んだんだけど、それでも治る気配がなくて……」
ケット・シーの中でもこの子たちだけがって感じなのか。
なんでなのか気になるところだけど……
「詳しい話は落ち着いてからで」
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