第357話 甘い匂いに誘われて

『では、次の質問です。最近上がったスキルを教えてください』


「あ! そうだ。料理スキルが最大になって、この魔銀ミスリルの包丁で上限突破したんだけど」


 そう話しつつ、魔銀ミスリルの万能包丁の鑑定結果を見せると、コメント欄が一気に加速する。

 そんな騒ぐほどの性能だったっけ? と思ったら、


『包丁である必要はなかったんですね』


「そうだよな。ピーラーで良かったよな……」


 魔銀ミスリル製の小さなピーラーが一番安く済むんだとか。

 でも、ピーラーじゃ魚は捌けないし、短剣+1もつかないし……


「いや、それはいいんだけど、料理の上級スキルを迷ってて……」


 料理マスタリー、製菓マスタリー、薬膳マスタリーとあって、とりあえず薬膳マスタリーを……


【ヨチヒコ】「は???」

【ムシンコ】「薬膳マスタリー、とは?」

【デイトロン】「<新情報感謝!:5,000円>」

【ベイパー】「前提が調薬7は無理っす……」

 etcetc...


 あー、薬膳マスタリーって調薬7は、料理メインだと厳しいのか……

 料理メインのプレイヤーの一般的なスキル構成がコメント欄に流れる。

 料理、解体、素材加工、細工、元素魔法、基礎魔法学(乾燥のため)をメインにして、採集、農耕、畜産、釣りあたりをサブで取る感じらしい。

 SPが増えた分は水の精霊のための精霊魔法とか、動物学、植物学、水産生物学の知識系だったり、自前で狩りをするための弓、罠関連とか、別の生産系スキル(園芸、鍛治、木工など)を追加していくらしい。


「へえ、調薬とかって採集もあるし、取ってる人いるかと思ったんですけど」


【リンレイ】「調薬は神聖魔法系の人が多いね」

【クラゲリオン】「裁縫も染色のために調薬取る人いるなあ」

【ドラドラ】「料理バフは素材重視かと思ってた……」

【ガイス】「ポーションの値段が下がったのもある」

 etcetc...


 料理を上限突破する人が調薬のレベルもってケースが俺ぐらいだったのか。

 いや、俺以外にもいて、情報を伏せてる線ももちろんあるけど。


「んで、まずは薬膳マスタリーを取ろうかなと思ってて、それで先駆者褒賞がもらえたら、料理マスタリーと製菓マスタリーも取ろうかなと」


 その言葉にコメント欄が大盛り上がり。

 うん、先にぱぱっと取らなくて良かった。


『では、さっそくお願いします!』


「りょ。薬膳マスタリー取得っと。で、どうしようかな?」


 何か作ればいいんだろうけど、やっぱりカムラスとか効果がつきそうなのを選ぶべき?

 コメント欄も「薬膳ってなんなんだよ」って話になってて、ホントそうだよなと。


「リュ?」


「おっと、ごめん。いい感じに焼けてるな」


 名前がよくわからないスコップみたいな道具でピザを取り出して、綺麗な板材の上へと置くと、ウリシュクたちがそれを取り分けて食べ始める。

 次の5枚目が最後の1枚だけど、一回り小さいMサイズ。ちょうどいいかもなので、


「じゃ、これ最後の生地だけど、デザートピザにします」


『えっ!?』


 ミオンが驚いてるけど、作り方は簡単。

 ピザ生地にバターを塗って、薄くスライスしたモーブプラ(さつまいも)を敷いて、ドライグレイプルと砕いたオーカーナッツ(くるみ)をパラパラと。


【ピューレ】「美味いに決まってるやつ!」

【シェケナ】「おさつとくるみ、いつ見つけたの!?」

【サブロック】「カリッとサクッとジュワッと!」

【ガフガフ】「炭酸飲料が欲しいやつ……」

 etcetc...


「焼き上がったら、ここにルモネラのジャムをかけて出来上がり」


 ジャムもルモネラ(やまもも)の果肉が残ってるぐらいにしてあるので、具としても美味しいはず。

 どうせなので、たっぷりとかけて完成!


【薬膳マスタリースキルのレベルが上がりました!】

【薬膳マスタリーの先駆者:10SPを獲得しました!】


【ルーランラン】「<先駆者キター!:1,000円>」

【コクド】「鑑定はよ!」

【デイトロン】「<祝! 薬膳の先駆者!:5,000円>」

【イマニティ】「食べたい〜〜〜!」

 etcetc...


「よし!」


 じゃ、料理マスタリーと製菓マスタリーも取得っと。


『すごく美味しそうです……』


 まあ、そういうことなら明日にでもかな?

 まずは鑑定して、どういう効果がついてるか……


【(仮)フルーツピザ】

『ウリシュクが育てたモーブプラ、カーバンクルが採集したオーカーナッツ、フェアリーが採集したグレイプル、ルモネラを使ったフルーツピザ。(解説修正、追記可能)

 効能:DEX・AGI・VIT上昇+6%(2時間)、抗傷II(6時間)

 料理名:(未定)、作成者:ショウ』


「うわぁ……」


 これって工芸の時と同じで、俺が名前決めろってことだよな。

 でも、まあ翡翠の女神像みたいな一品物ってわけでもなさそうだし……


「ミオン、名前何か思いつく?」


『そうですね。「妖精さんのフルーツピザ」とかどうですか?』


「決定!」


【ダサトシ】「いいね!」

【エネルジコ】「素晴らしい!」

【デイトロン】「<妖精さんのフルーツピザ代:5,000円>」

【ミザール】「女王様の食レポはよ!」

 etcetc...


 さっそく名前を設定して……

 あれ? いつもなら急かしてくるスウィーがいるはずだけど?


「ルピ、スウィーとフェアリーズどこ?」


「ワフン」


 ルピが答えて振り向いた先は教会から続く道。

 そっちを向くと……


「おやつー!」


「『え?』」


 駆けてくる白竜姫様と、それを追いかけてるスウィー&フェアリーズ。


【ブルーシャ】「姫様キター!」

【ドンデン】「そらそうよw」

【サテナー】「おやつ〜♪」

【クロード】「一人で遊びに来たの!?」

 etcetc...


 で、さっそく『妖精さんのフルーツピザ』が置かれたテーブルにかぶりつく。

 ちゃんと俺の許可を待ってくれてるっぽいんだけど、目がもう……


「〜〜〜!」


「あ、うん、はい。どうぞ、召し上がれ」


「ありがとー!」


 とりあえず、1ピース、パーンの分ぐらいは確保しておこう。

 スウィーたちは量はそんなにのはずだし、あとは白竜姫様が食べちゃうだろうし。


「パーン、みんなに配れなくてごめんな。お客様だから許してくれる?」


「リュ!」


 もちろんと胸を張るパーンの頭を撫でて1ピースを渡す。


『一人で来たんでしょうか?』


「そうっぽい」


 ぐるっと見回しても……誰もいないよな。

 アージェンタさんか、アズールさんがついて来てそうなもんだけどな。

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