土曜日

第355話 やら……すごい下準備中

 昨日、金曜はリアルもゲーム内もずっと雨だった。

 放課後は重力魔法の魔導書を読んだり、加重でオリーブを絞ったりしてスキルレベル5に。

 夜はガッツリ採掘してから、精錬と鍛治をメインに。採掘が7、錬金術が6、そして、遮熱結界を使ってたおかげで、結界魔法が5になった。

 トゥルーたちの洞窟、崩落してた場所を直したところにつける屋根板も完成したし、これはライブ終わってからの日曜がいいか。


 で、今日、土曜の昼。ミオンは習い事で不在。

 ボイストレーニング、本当に歌うことになりそうだし、こういう時のためにも習ってたのかな?

 その代わりというわけでもないけど、美姫がライブを視聴中。

 死霊都市への移動はすでに終わっていて、今日の午後2時にマスターシェフさんと事前打ち合わせに行く約束らしい。

 それまでしばらく時間があるということで……俺を冷やかしに来ている。


『実に兄上らしいと思うがの』


 そう言って、また笑うセス。

 例の「白竜姫様の兄、銀竜の友からの紹介で」の件は昨日の夜に話したんだけど、ベル部長はフリーズするし、美姫は大爆笑するしで……


「アージェンタさんの友人はまあいいよ。でも、なんで白竜姫様の兄なんだよ……」


『奈緒も幼い頃より兄上を「ショウ兄」と呼んでおる。それと似たようなものであろうな』


「あー……」


 ナットの妹の奈緒ちゃんも、俺のことを兄扱いするんだよな。確かに今でも「ショウ兄」って呼ぶし。

 俺と美姫がナットの家でちょくちょくお世話になり始めたのって、確かに白竜姫様の幼い時と同じぐらいか……


『もっとも、符牒の意味合いもあろうがの』


「ん? どういうこと?」


『よからぬことを考えた輩が「島のショウの紹介で」と騙るやもしれん。ゆえに、兄上から正式な紹介がある場合は「白竜姫の兄、銀竜の友の紹介で」と告げるのが正しい手順ということよ』


 なるほど……


『おっと、そろそろ行かねばの』


「ああ。まあ心配はしてないけど、うまくやれよ」


『うむ!』


 ………

 ……

 …


「〜〜〜♪」「クルル〜♪」


「もうちょっと待ってね」


 作ってるのはマローネの甘露煮。要するに栗の甘露煮なんだけど、その匂いに釣られてやってきたっぽい。フェアリーズも女王様の後ろで興味津々。


「クチナシの実、入れなくても綺麗な黄金色になってくれてるな。そろそろ……」


 二つに割れちゃったやつを取り出してパクッと……甘くて美味しい。


【料理スキルのレベルが上がりました!】

【料理スキルの基礎値が上限に到達しました。返還SPはありません】


 お! 料理スキルMAXまで来た!

 これで魔銀ミスリルの包丁を持てば……


【料理のスキルレベルが上限を突破しました】

【料理の上位スキルが獲得可能になりました】


 上限突破もオッケー。で、上位スキルが複数あるパターンか。

 スキル一覧から料理関連を検索すると。


【料理マスタリー】

『料理の熟練者による、より専門的な料理のスキル』


【製菓マスタリー】

『料理の熟練者による、製菓を専門的に扱うスキル』


【薬膳マスタリー】

『料理の熟練者による、食薬を専門的に扱うスキル。

 前提条件:調薬Lv7以上』


 ……は? 薬膳マスタリー?


「料理と製菓のマスタリーがアンコモン、薬膳はレアスキルなのか……」


 さすがに全部を取得は……できるな。


「ミオン。これ、ライブ前に確認させて」


 あとでアーカイブを見るだろうミオンに言い残しておく。

 料理マスタリー、製菓マスタリーはアンコモンだから誰か取ってそうだし……、やっぱりここはレアスキルの薬膳マスタリー?

 前提に調薬スキルのレベルが7以上とかあるし、先駆者褒賞がもらえる可能性も高いんだよなあ。


「〜〜〜!」


「いでで! ごめんって!」


 スウィーがマローネの甘露煮を待ちきれなくなったのか、耳たぶを引っ張って叫ぶ。

 熱々だとラズが火傷するだろうし、半分を木皿に取って、冷却の魔法をかけて人肌程度まで冷ます。


「はい、どうぞ」


 フェアリー用の小さなスプーンも添えて。


「〜〜〜♪」「クルル〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 美味しく食べてくれてるようなので残りはルピたちに。

 白竜姫様にも送ろうかなと思ったけど、もうちょっと安定してマローネが確保できるようになってからの方がいいかな。


「クル?」


「ん? ああ、仲間にも食べさせてあげたいの?」


「クル〜♪」


 スウィーを見ると、そういうことならと、ちゃんと人数分残してくれている。


「おお、さすが女王様」


「〜〜〜♪」「「「〜〜〜♪」」」


 ふんぞりかえるスウィーに両側から拍手するフェアリーズ……

 まあ、いいんだけどさ。


「じゃ、ちょっと教会裏まで行こうか」


 パーンたちに今日の夜のことも話しておこう。


 ………

 ……

 …


『兄上。万事うまくいったぞ』


「おう、お疲れ」


 教会裏に行ってパーンと話し、少し畑の手伝いをして、山小屋に戻ってきた。


『また料理を作っておるのか?』


「ん? ああ、今日のライブで使おうと思ってな」


 グレイプルからグレイプル酵母を作れたし、パーンからコハク(小麦)粉をもらったので、ピザ生地を作ってるところ。ベーコン、野菜、チーズでピザを作ってみようかなと。

 このコハク粉は強力粉っぽいけど、中力粉と薄力粉はどうすればいいんだろ? ま、ライブで聞いてみてもいいか。


「で、アージェンタさんと会ったのか?」


『うむ。緋竜バーミリオン殿もおったぞ』


「へー……」


 なんか一抹の不安が頭をよぎって……

 あ、やばい。アージェンタさんから忠告があったの伝え忘れてた。


「バーミリオンさん、めちゃくちゃ酒好きらしいから気をつけろよ」


『ほう。兄上は面識が?』


 セスにバーミリオンさんと会ったこと話して無いよな?


「俺がアージェンタさん用にワイン送ったことあるんだけど、バーミリオンさんが飲んじゃったんだってさ。それくらい酒好きだから注意してくれって手紙にあったんだよ」


『ふむ。まあ、八塩折之酒やしおりのさけでも無ければ、酔い潰れるということもなかろう』


 セスがまた何か難しいことを言ってる。

 確か日本の神話だったよな。八岐大蛇を酔いつぶした酒だっけ?


「で、どんな感じなるんだ?」


『こちら側に屋台のような形でブースを作り、竜人の方々に食べに来てもらうという提案をしたのだが、それで問題ないそうだ』


「なるほど、それなら向こうも安心か。あとはちゃんと来てくれるかってところか」


 竜人さんたちってお堅いイメージあったけど大丈夫なのかな?

 いやまあ、その辺はゲイラさんが苦心してくれるはず……


『ところで兄上』


「ん?」


『教会に飾られておった翡翠の女神像は、やはりミオン殿そっくりであったの!』


 ……

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