第354話 そういうことになった
「あんまり気が進まないけど……、一応調べてから封印するよ」
『今、無理にやらなくても……』
「まあ、そうなんだけど、それで『あの時に調べてれば』ってなるのも嫌だし」
夜。
ゲーム内は曇り空だけど雨は止んでるので、昨日調べた屋敷の周りを綺麗にするつもり。パーンたちが手伝ってくれることに期待してだけど。
地下の大型転送室に降りてきたのは、俺とルピとスウィーだけ。フェアリーズやレダ、ロイ、ラズは先に教会裏に行ってもらってる。
「この辺でいいかな」
転移エレベータを降りて、左手にある死霊都市への転移魔法陣−−石壁で封印中−−を超えて、部屋の隅まで移動。
「そういえばニーナ。転移魔法陣ってニーナの方で個体番号だっけ? あの長い番号は読み取れたりしない?」
[はい。可能です。転移魔法陣を施設内に置いていただければ、転移先の問い合わせも行います]
「おお、さすが!」
『ショウ君。気になってるんですが、ニーナさんはどこに問い合わせてるんでしょう?』
確かに。どこに? どうやって?
「ニーナはどこにどうやって問い合わせてるの?」
[中央測位情報集積基幹に問い合わせています。その手法については私が持つ機能であるため説明は不可能です]
『よくわからないです……』
「うん」
俺もさっぱりわからないのでスルーしよう。きっと、ゲーム上の設定なんだろう。
ともかく、置けばあとはニーナに任せられるならサクッと……いや、ちょっと用心しよう。
「ニーナ。上に障害物がある状態でも問い合わせは大丈夫?」
[はい。問題ありません]
「よし。じゃ、まずは……<石壁>」
『ショウ君?』
「いや、インベントリから出した瞬間に、誰かが来たら困るなと思って。死霊都市の南側でも転移魔法陣が見つかったって、ベル部長も言ってたし」
『そうでした!』
気にせずぽんと置いて、ニーナが問い合わせてる間に誰かが転移してきたら洒落にならない。ここに転移できる瞬間を待ち構えてたりするかもしれないし……
石壁で作った蓋をすぐに被せられるように準備してから、
「せーの!」
転移魔法陣を出して、すぐに蓋をする。よしよし。
「〜〜〜……」
「ワフ?」
スウィーのジト目とルピのピュアな目が痛い。
でも、これくらい用心しておきたいんだよ……
「ニーナ。こいつの転移先を調べてくれる?」
[はい。測位情報を照会中……照会完了。転移先は南洋海底資源採掘施設です。座標情報は……]
……は?
『この島より南側にある別の島とかでしょうか?』
「なのかなあ。ニーナ。その採掘施設ってどの辺にあるの? この島の南側?」
[はい。正確には南東に498.7kmの島となります]
マジかよ。ということは、まず死霊都市からこの島に来て、そこからさらにあの屋敷を調べることで別の島に、みたいなのを運営は考えてた?
うーん……
『ショウ君。その島に誰かいたりするんでしょうか?』
「どうだろ? ニーナに聞いてわかるかな? その島って誰かいたりとかわかる?」
[いいえ。他の施設についての情報は現在持っておりません]
だよなあ。となると、アージェンタさん、アズールさんに聞くぐらいか……
「いいや。今、急ぐ必要もないし、その前にいろいろやらないといけないこと溜まってるし」
『あ、そうですね』
まずは教会の先、屋敷の周りのセーフゾーンをきちんとしないとだよな。
………
……
…
「「「リュリュ〜♪」」」
楽しそうに歌いながら草むしりをしてるウリシュクたち。
フェアリーズは雑草に紛れて生えている小さな花を集めてる。裏庭が綺麗になったら植え替えるらしい。
で、俺はというと、ルピ、レダ、ロイと一緒にセーフゾーンの外周を見回り中。スウィーとラズも肩に乗ってるけど。
「このマローネの樹もセーフゾーンの中か」
『良かったです』
セーフゾーンを西側から時計周りに確認中。以前にカーバンクルたちが住んでいたマローネの樹に到達した。
「クルル〜♪」
ラズが肩からジャンプして飛び移り、樹上を駆け上がっていく。
で、降ってくるマローネの実……危ない。
「ラズ〜、それくらいにしといて!」
赤鎧熊のグローブは優秀なので、マローネの棘が刺さることはないけど、今日は採集は後回しで。
そのまま奥へと進んでいくとセーフゾーンを出て、小さな、でも、かなり整備されたような川に突き当たった。
「これって川っていうか用水路かなあ」
『水路ですか?』
「うん。ここまで小麦、コハクの畑だったし、農業用水路だったのかも」
向こう側にはモンスターがいる可能性があるので、ルピたちにはしっかりと警戒してもらっている。が、すぐ森になっているせいで見通しはあまり良くない。
「前にナットが壁を作るとセーフゾーンが広がるって言ってたよね?」
『あ! ここに壁を作りますか?』
「うん。川沿いに石壁を建てた方が安全な気がするし」
そんなことを話しながら、水路に沿って北上−−上流へと進む。
そのうち右折−−東側へと続いて岩山の向こう側へと。
「ここまでか」
『かなり広いですね』
「そう思うよね。まあ、島は特別なのかもだけど……」
『でも、ショウ君は翡翠の女神の使徒の称号もありますよ?』
「そっちか……」
というか、もともと地下にあった等身大の名も無き女神像を教会に置けば、この川まで、いや、もっと先までセーフゾーンだったかも?
でも、今さら返してとも言えないしなあ。
「まあいいや。この崖の端から川沿いに石壁を積んでいけば、セーフゾーンが川まで到達するだろうし」
『さっそく始めますか?』
「そうだね。一応、パーンたちと相談してからかな?」
あと、さすがにこの広さの畑だと、フェアリーズのお手伝いだけだと厳しいだろう。
川の水を使って畑作業をするとなると、もう少し小さい水路を作ってため池を用意したほうがいいかもだし。
「あ、そうだ。水車作ろう」
『いいですね!』
小麦粉を作るのに自前で石臼を回すのもいいけど、量を作ることを考えると自動化したいところ。
パーンたちに使い方だけ教えておけば、コハクだけじゃなくて、レグコーンとかにも使うだろうし。
「よし! いったん戻ろうか」
「ワフ!」
………
……
…
「ただいま、って」
『お返事が来てますね』
今日のところは壁を作る前に、パーンと相談してため池の場所を決めて、そっちを先に作ったところで時間に。
山小屋に戻ってきてログアウトと思ったんだけど、転送箱に着信が。
「セスたちも日時もオッケーって返事だといいんだけど」
さっそく開けて中身を確認。手紙だけでほっとする。
えーっと、
『ショウ様
代表のお二方、及び、日時の件、承知いたしました。
当日、先に私の方でお二方とお会いできればと思います。
それぞれ竜貨をお持ちいただき「白竜姫様の兄、銀竜の友からの紹介で来た」と竜人に伝えていただければと思います。
お手数をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。
追伸
バーミリオンにワインを与えすぎぬようにとお伝えください』
……俺、いつの間にドラゴンになったの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます