第332話 お似合いいろいろ

「それでは失礼いたします」


 お互い頭を下げたまま、部屋の扉が閉じた。


「はぅ……」


「ミオン、大丈夫?」


「はぃ」


 その声にちょっと疲れが出ているような。

 とりあえず、ソファーに戻っていったん休憩かな?


「お疲れ様でした。以降の仔細な部分に関しては私の方で対応し、お二人に確認いただく形でよろしいですか?」


「あ、はい。俺はそれで」


 隣を見ると、ミオンもこくこくと頷いている。

 今回の顔合わせは問題なく終了でいいのかな。

 こっちの要望は全部通ったので基本的な契約となる感じで、個別の仕事ごとに調整していく感じになるらしい。


「そういえば、向こうにSEEの社長さんがいましたけど、それって普通なんです?」


「いえ、普通はプロデューサー、いわゆる部長クラスですね。澪お嬢様だということで、社長直々にという話になったかと」


「ああ、なるほど……」


 ミオンは雫さんの一人娘。まごうことなき社長令嬢だもんなあ。

 そこで粗相があったら、他の仕事にも影響が……みたいなのに配慮したのか。


「あと、今日の話の中身ってどれくらいまで周りに話していいんですかね? あ、周りって言ってもヤタ先生とかベル部長とかですけど」


「そうですね……。次のアップデートでPV採用可否を設定できる件については、話さない方がいいでしょう」


「了解です」


 向こうから聞いたIROの先の話は基本NGってぐらいに考えとけばいいのかな。

 さて、今は……2時半を回ったところか。顔合わせ、意外と早く終わった感じだよな。


「ショウ君。IROする?」


「うん。夕方ぐらいまで。あ、ごめん、ちょっと洗濯物取り込んできたいから、いったんオフっていい?」


「はぃ」


 夕方に通り雨が来るかもとか言ってたし、ひどいことになる前に取り込んでしまっておこう。


 ………

 ……

 …


「ただいま、って誰もいないか」


 午後3時。バーチャル部室の方に戻ってきた。

 ミオンと椿さんは雫さんに報告に行くと言ってたし、俺の方が早く済んだだけかな。

 今日の夜のライブは教会の正門を出て、チラッと見えてた廃屋を調べるつもりだけど、その前にアージェンタさんから返事届くかな?


『ショウ君!』


「あ、おかえり」


『はい! ただいまです』


 合成音声に戻しちゃったのがちょっと残念だけど、そこはおいおいかな。

 衣装もいつもの探検家服に戻ってて、これは俺も恥ずかしいのでIROのアバター衣装に戻した。ベル部長、いつもあの魔女服だよな……


「そういえば、雫さん何か言ってた?」


『いえ、特には。あ、ショウ君と並んでるところを見せたら、とてもよく似合ってるって!』


「あ、うん。はい……」


 ………

 ……

 …


「ワフッ!」


「おはよう、ルピ」


 ベッドから降りたところで飛び込んできたルピをキャッチ。

 左手で頭を撫でつつ、ミオンへの限定配信を開始する。

 そういえば、この限定配信も失敗しない限りは自動で開始するような修正が入るとか言ってたな。


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


「ようこそ、ミオン」


「ワフン」


 外の天気は……曇りか。

 雨降ってきたら、ライブの内容変更しないとかな。


『夜のための準備ですか?』


「そうだね。ポーションを新しくして、古いのはレダとロイのためのバンダナにするつもり」


「「バウ」」


「ワフン」


 山小屋の玄関を降りたところで、レダとロイが倉庫からやってきてお座りする。

 うん、まずはみんなでご飯だな。


 ………

 ……

 …


【高品質な獣用バンダナ(コプティ染め)】

『亜魔布で作られたバンダナ。高品質。

 MP回復30秒につき+3。裂傷耐性I』


【高品質な獣用バンダナ(レクソン染め)】

『亜魔布で作られたバンダナ。高品質。

 MP回復30秒につき+3。毒耐性I』


「なるほど。ポーションの効果とだいたい同じ耐性がつくのか」


『すごいです! 色も綺麗ですね』


「だね。えっと、こっちの明るい薄緑のはレダがいいかな。おいで」


「バウ」


 すっと前にきてお座りするレダの首にコプティ染めのバンダナを巻いてあげる。

 しっぽふりふり、目はきらきらと嬉しそうで何より。


「じゃ、こっちの落ち着いた薄緑のはロイ。おいで」


「バウ」


 レダが場所を譲って入れ替わり。

 レクソン染めのバンダナを巻いてあげると、ロイもとても喜んでくれる。

 ルピが深緑、レダとロイは薄緑で統一感もあっていい感じ。


『ショウ君自身もスカーフ巻きませんか?』


「ああ、そうか。このデフォ服のスカーフ、ルピとお揃いにしようかな」


『良かったですね。ルピちゃん』


「ワフ〜」


 じゃあ、さっそくってことで、まずはスカーフを作らないとだな。

 あ、そう言えば……


「しまった。ミオンの女神服の話、聞き忘れてる……」


『あ!』


「アバター衣装としてはもらえるってことでいいのかな? ちょっと椿さんに連絡しておいてくれる?」


『はい。伝えておきますね』


 あれ? ミオンのアバター衣装のために、IROゲーム内で翡翠の女神のドレスを作ってって話だったけど、もう作る必要はないんじゃ……

 いや、ミオンが島に来れるようになったら、着てもらう方がいいよな。

 ルピたちやスウィー、トゥルー、パーン、妖精たちも喜んでくれそうだし。


「せっかくだし、アージェンタさんからもらった服飾の本を見てみるか」


『どういう服が載ってるんでしょう』


「うーん……スケルトンが着てたボロ服を見る限りは、あんまり変わらない感じだと思うんだよな。あ、でも、あれは兵士とか魔術士の服装か」


 1階のキャビネットにしまってあった本を持ってきて、中身をざっくりと見てみると……


『女性用の衣装ばかりですね……』


「ドレスとか載ってる本って頼んだ気がするし、間違ってないんだけど、俺、アージェンタさんに何て思われたんだろ……」


『ス、スウィーちゃん用もありますから』


「そう思うことにしとく……」


 俺のスカーフは今のを参考にすればいいか……

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